言い間違いが生んだ「ブラックサンデー」 3代目が意識するアイデア術
「ブラックサンダー」のヒット要因を分析し、その存在を一層広めた有楽製菓の河合辰信さん(39)。入社から8年後、2018年に35歳の若さで社長に就任します。ユニークな企画を生み出す空気作りや、ロングセラーのひけつについて聞きました。
「ブラックサンダー」のヒット要因を分析し、その存在を一層広めた有楽製菓の河合辰信さん(39)。入社から8年後、2018年に35歳の若さで社長に就任します。ユニークな企画を生み出す空気作りや、ロングセラーのひけつについて聞きました。
――バレンタインデーの企画を経て、2013年に取締役に就任されます。これはマーケティング部でのプロモーション活動が評価された結果でしょうか。
父(現会長)は65歳で社長を引退しようと考えていて、そこから逆算してこの年に経営に参加させようとしたのだと思います。明確な理由は言われていません。子供の頃からそうですが、あまり口に出して説明する人ではないので。
――そして、2018年の2月に社長に就任しました。
前年の12月ぐらいに父から、「来年2月までに社長が変わるのが運気がいいらしい」と急に言われました。そういうのをあまり信じる人ではないのですが。父が65歳になるのがその年で、会社は7月決算なので来年の8月からかなと思っていました。予想より半年早かった。
――社長になる準備は何かされていましたか。
そうは言っても父は65歳で引退しないだろうと思っていたんですが、ずっと社内外で言い続けるので、いよいよこれは本気かなと思い始めました。社長になるまでに経営を体系的に学んでおかなければと、経営大学院に行き始めた。結局は、卒業前に社長になってしまいましたが。
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――経営大学院での学びは役立ちましたか。
私がいたグロービス経営大学院は志を大事にする学校で、何のために自分はこの仕事をやるのかを改めて考えることができた。元々次男として生まれ、急に継ぐことになりましたから、本当にこの会社を自分が継ぐことがいいのか、本当にそれが世の中や会社のためなのだろうかと悩みや葛藤がありました。学校に通い、自分と向き合ったことでその迷いが消えました。
――社長になって最初に何に手をつけましたか。
実は3年ぐらいは会社を大きく変えないでいこうと決めていました。代が変わっていきなり180度変えるのは、先代の否定になる。もちろん変えたほうがいいと思う部分はあるんですけど、いきなり変えないほうがよいだろうと。誰に何を言われたわけではないんですが、感覚的な判断です。というのは、社長になる前、私と父が会議の場でぶつかることが多々ありました。そうなると、誰も何もできなくなってしまう。会長となる父とうまく折り合いをつけていくことが会社にとってよいだろうと決めて社長になりました。
――どんなことが衝突の原因だったのでしょうか。
色々ありましたね。前職が外資系企業だったので、上下関係なく問題だと思ったことは異議を言うのが当たり前だった。社長だけでなく他の取締役とやりあうこともありました。
――社長の息子が言いたいことを言ってくれると会社の風通しが良くなりそうですが。
どうなんでしょうね。触るな危険、みたいな扱いだったかもしれません(笑)。
――代替わりしてから、お父さんは会長職に就きました。関係はどうなりましたか。
私は当然リスペクトしていますし、会長も自分を尊重してくれました。当然気に入らないことはあるでしょうし、たまに「こうした方がいいんじゃないか」と言われることはありますが、尊重しあった結果うまく進んでいったと思います。
また、当初は大きく変えないつもりでしたが、実際には色々と制度の整備もしましたし結構変わってはいます。私が何か変えたというよりも、上がってきた提案を採用してきた結果です。
――社長に就任した後も、ブラックサンダーと1文字違いの「ブラックサンデー」など、ユニークな商品が生まれています。意識していることはありますか。
商品企画のチームとは、良くも悪くもフラットな関係でずっとやってきましたし、今もそうです。当然向こうからすると私は上司や社長ですが、極力自分を低くするよう意識して接しています。アイデアが出しやすくなるひけつって、ダジャレみたいなしょうもないことが言える空気だと思うんですよ。なので会議の場に限らずですが、私は変なことを思いついたら率先して言うようにしています。
今年発売した「ブラックサンデー」も、雑談の中から生まれました。私がお世話になっているマーケターが、ブラック“サンデー”と言い間違えたことがあって、それを社内で「なにかやったらおもしろそうだから考えてみて」と投げたところから商品化に至りました。社員が増えたり私が現場を離れたりすると、そういった雑談の機会が減ってしまうので、そこは気をつけています。
――他社とのコラボ商品や、ご当地物も積極的に展開されています。
色々なところで目にしてもらい、日常でも思い出して買ってもらうきっかけになれば嬉しいです。お菓子を買おうと思った時に、「何買おうかなぁ、ブラックサンダー買おうかなあ」て思ってもらえるように、情報を常に皆さんに提供し続けて、忘れられないようにしています。人の味覚は時代や年齢とともに変わっていくので、同じ人がずっと同じように食べ続けてくれることはありません。時代に合わせた味づくりを意識し、実際にブラックサンダーも少しずつ味を変えています。
――ロングセラーのために試行錯誤しているのですね。
わっとブームになった08年に子どもだった人たちも、今は20代になっています。子供の頃にお小遣いで買えた安いブラックサンダー、というイメージがあると、大人になった時に「これは自分のものじゃない」と思われてしまう。そのイメージからの脱却はしていかないといけません。
10年前はブラックサンダーを食べていたけど、もう自分にはちょっと合わないという人のために、よりクオリティーの高い商品、最近だと味にこだわりぬいた「プレミアムシリーズ」を販売しています。今でも自分のそばにいてくれるんだ、と思ってもらえるような商品づくりを目指しています。
常に意識しているのは、お客さんにとってこの商品はどうあるべきか。自分にお客さんを憑依させて、企画会議などでも「もうちょっと振り切った方がいいよね」などと判断しています。
――コロナ禍以降、経営に変化はありますか。
結果的に、以前よりも深く現場に関われるようになりました。コロナ以前は外出する時間が多く、なかなか会社にいられなかった。そのため企画の初期の段階で参加することができず、商品との距離が開いてしまった。そうなると最終決定者として、出てきたものを最後に選ぶだけになりがちです。何か違うなと思っても、そこから変えるのは難しい。コロナで社内にいる時間が増え、社員とやりとりする時間や濃度が増えたことで、早い段階での軌道修正がしやすく、商品や企画がしっくりくるようになりました。
――今後の目標について教えてください。
10年前からの大きな課題は、ブラックサンダーにつぐ商品を作ることです。ブラックサンダー1本でずっとやっていけるとは思っていないので。それがいつになるかわかりませんが、5年ほど前から今までと違う切り口の商品をテスト販売し、昨年からその取り組みを加速させています。
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