建設業5代目が進めたクラウド共有や報奨金 新規開拓で業績も上向きに
1916年に創業した建設会社「北村組」(高松市)の5代目・北村真弥子さん(40)は、2年前に父から経営を継いだ後、社員の声を大切にしながら業務改善を進めました。後編では、クラウドやタブレットによる業務の共有、従業員への報奨金制度、月1回の定例会議の導入など、業績回復につなげた経営改善策に迫りました。
1916年に創業した建設会社「北村組」(高松市)の5代目・北村真弥子さん(40)は、2年前に父から経営を継いだ後、社員の声を大切にしながら業務改善を進めました。後編では、クラウドやタブレットによる業務の共有、従業員への報奨金制度、月1回の定例会議の導入など、業績回復につなげた経営改善策に迫りました。
父の病気を機に、地元の銀行員から転身した北村さんは、畑違いの業界で一から勉強し、2019年に5代目社長になりました。当時の業績は低下していましたが、できるだけ利益率の高い仕事を受けるために交渉するなど、経営改善に挑み始めました(前編参照)。
北村さんは業務効率化にも力を入れ、まずは建設業用のクラウドサービスを導入して従業員がどこにいても、工事台帳を共有して見られるようにしました。
今までは現場が遠くても、従業員は一度会社に戻ってから日報を作成、印刷して工事台帳を作っていました。しかし、クラウドを導入してからは直行直帰ができるようになり、かなりの時間短縮につながったのです。
また、自分が担当している現場の情報しか把握できていませんでしたが、クラウドの活用によって、リアルタイムで他の現場の進捗や原価管理も各自で確認できるようになりました。次第に従業員が数字を意識するようになり、利益率が少し上がったといいます。
公共工事は工事後に、発注者側から成績がつけられます。良い成績が付けば、会社としてのランクも上がり、より規模の大きい工事を請け負える可能性が広がります。
従業員には工事を無事に終わらせることだけでなく、工事成績を上げ、売り上げを残すことも意識してもらうようにしました。
工事を受注したら実行予算を組んでもらい、毎月の収支や進捗のリストをクラウドに共有してもらうようにしたのです。
北村組が指定した点数の工事成績を収めた担当者には、報奨金を支給する制度も作りました。
はじめは、制度が利用されることはありませんでしたが、次第に意識が上がり、報奨金を受け取る従業員が出てきました。報奨金を手にする仲間を見て、ほかの従業員にもプラスの影響がありました。
「仕事をしていくうえで大事なライバル意識が出てきたように感じます。ただ、工事点数が振るわなかったり、何か失敗したりしたことについては、誰かと比較したり怒ったりしないようにしています。社員同士の仲がいいという今の状況が壊れてしまうのが一番嫌です。絆は守りつつ、みんなで高め合っていけることが報奨金制度の目的になります」
同社はこれまで、お互いの現場の進捗を話す機会がありませんでした。各現場の工事の進め方について、みんなで話し合いたいという要望があり、月1回の会議で情報を共有するようになりました。
北村さんは従業員から出た意見や要望はできる限り受け止め、実践を心がけています。クラウドや報奨金制度も、従業員からの声を受けて導入を決めました。
元々、北村さんがクラウドサービスを探していた時に、システム会社から営業がありました。導入する前に、全従業員でクラウドサービスを使ってみてもらったところ、好評だったので導入を決めたそうです。
報奨金制度についても、北村さんが導入を検討していたところ、従業員から同業他社の報奨金制度について伝えられました。試しに1年だけ導入してみると、従業員の意識が上がってきたので、本格的に報奨金制度を導入することを決めました。
北村さんは会議だけではなく、日常的に従業員から意見が出る風通しのいい環境を目指しています。
北村組では最近、交通安全施設に関する工事を新規開拓しました。具体的には、道路にあるガードレールなど防護柵や標識、道路照明を設置するものです。
地面を掘ったり構造物を作ったりする土木工事に比べ、天気や地形などに大きく影響されません。違う分野にチャレンジすることで、従業員のスキルのレベルアップを図っています。
土木工事の取引先も見つけて、下請けとして新しい分野の知識や工事の実績をつけ、ゆくゆくは元請けで受注できるようにしたいと考えています。
新しい取引先が増えて関係も密になり、工事の受注は増加。事業承継時には底だった業績は、上向きになっていきました。
建設業界は人手不足と従業員の高齢化が大きな課題で、北村組も例外ではありません。従業員の平均年齢は45歳と業界では比較的若いですが、もう10年以上、新卒で入社した従業員はいません。
5年前までは中途採用者がいましたが、同業者間で取り合いのようになり、最近は数が減りました。
単純に新卒者を募集して増やせばいい、というわけではないようです。
「今、新卒の従業員が入社しても、もともといる従業員との年齢差が大きく開いてしまいます。従業員は長らく後輩の教育を経験していません。採用活動と同時に、社内の教育体制も整えなければいけないと思っています」
21年からジェトロ(日本貿易振興機構)の「高度外国人材活躍推進コーディネーターによる伴走支援サービス」で指導を受けながら、外国人就労者の採用活動にも取り組みはじめました。
北村組では元請けで工事を受注しても、作業人数が不足しているため下請け会社に頼ることが多いのが現状です。さらに、その下請けも人手不足になっているという問題があります。
新規で契約する会社を増やしつつ、長い付き合いのある会社にも継続的に工事を発注することで、下請け会社の経営状態にも気を配りながら、業界全体の課題となっている人手不足の解決に取り組もうと考えています。
「自社だけでなく、下請け会社の事業がうまくいくように考えないといけません。そのためには、やっぱり北村組で工事の受注を増やす必要があります」
建設業界では、女性が働きやすい環境づくりが加速しています。工事現場に女性用の更衣室や化粧室が設置される例も増えてきました。公共工事では女性技術者を一定割合で配置すると、工事成績が高くなるというケースもあります。
ただ、実際に建設業界に応募してくる女性が増えたかといえば、まだまだ難しい現状があります。
北村さんは「大手ゼネコンでは現場で働く女性が増えてきているかもしれませんが、地方の中小企業ではまだそこまで多くありません」と言います。
北村さんが入社する前の同社には、現場に出る女性社員がいました。もちろん、女性には体力的に難しい仕事もありますが、女性もできる仕事があるといいます。「男性が気づきにくいことを、女性の視点で補えるのではないかと思います」
最後に、北村さんに後継ぎを目指している女性へのメッセージを聞きました。
「男性と同じようにする必要はありません。女性ならではの強みを生かして経営に取り組み、チャレンジする人が増えることを願っています」
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