ネット炎上を防ぐ従業員教育とは 「自分事化」してもらう方法を解説
企業のネット炎上を防ぐには、アルバイトも含めた従業員教育が欠かせません。しかし、研修などで手を尽くしても、危機意識を植え付けるのは容易ではないという課題もあります。中小企業のネット炎上対策を考えるシリーズ4回目は、従業員に炎上を「自分事化」してもらう方法について解説します。
企業のネット炎上を防ぐには、アルバイトも含めた従業員教育が欠かせません。しかし、研修などで手を尽くしても、危機意識を植え付けるのは容易ではないという課題もあります。中小企業のネット炎上対策を考えるシリーズ4回目は、従業員に炎上を「自分事化」してもらう方法について解説します。
ここまでのシリーズでは、ネット炎上に対する事前の体制整備についてお伝えしてきました。今回は従業員に対する教育について解説します。結論から申し上げれば、教育の肝は従業員にネット炎上を「自分事化」してもらえるかどうかにかかっています。
昨今、従業員起点のネット炎上はなかなか無くなりません。「バイトテロ」と呼ばれる、不適切動画の発信によるネット炎上が代表例です。「バイトテロ」は企業の信用を大きく損ない、不買や店舗・事業所の閉鎖に追い込まれるケースもあります。
特に衛生面の問題がある不適切動画などはより深刻で、「教育がなっていない」と、企業の体制を批判されることだってあります。しかしそのような批判の的になるのは、企業だけではなくその当事者もしかりです。最悪の場合は当事者の個人情報が「特定」され、ネット上にさらされることになります。
これはデジタルタトゥー(個人に関する不利な情報がネット上に刻まれ、消去できないこと)となって残り続けます。「このぐらいなら」「どうせ見る人も少ないし」という浅い考えのもと、その場のノリでやってしまったことの代償は思った以上に大きいようです。
ネットリスクを軽んじれば、従業員はおろか、企業経営に影響を与えかねません。悲劇を防ぐには従業員教育が必要なのです。
ただ、重要なのは「こういうことはやってはいけない」という禁止事項だけでなく、炎上してしまうと当事者やその企業がどうなるのか、という末路を理解してもらう「自分事化」になります。では、中小企業の経営者はどうやって従業員への意識啓発を図ればいいのでしょうか。次章から具体的に解説します。
↓ここから続き
公式アカウントの運用者は別として、SNSアカウントはあくまで従業員個人にひもづいています。「表現の自由」は憲法で保障されており、個人の発信の制限はなかなか難しいことになります。
しかし、ネット炎上事案が発生した時、会社が事実確認や対応にまったく関与できなければ、対処は後手後手になります。そこであらかじめ就業規則に、会社がある程度関与できるように権限を規定しておくのが良いでしょう。
例えば会社として、SNSの利用に関するガイドラインを定めるケースが考えられます。
ガイドラインに反する行為があった思われる場合、事実の確認や対応を目的に、従業員に調査への協力を定めたり、違反した場合の罰則の規定(降格・降級、懲戒処分など)も明記したりするのが良いでしょう。
SNSとどのように付き合っていくかは、企業によって様々な考えがあるでしょう。
SNSを積極的に活用し、従業員にもその一端を担ってほしい場合もあれば、従業員にSNSで業務上のことを発信してほしくないケースもあり得ます。
企業としては、SNSに対するポリシーを従業員にきちんと説明する必要があります。それに伴うルールを明確にして、繰り返し説明しましょう。(前回参照)
従業員の中には、そもそもSNSに対する知識が無い方もいるでしょう。SNSとはどのようなもので、どんな炎上事案が考えられるのか。またその原因など、現在のリテラシーに合わせて説明してください。
SNSとは何かを知らない人に「リツイートが・・・」という特徴を説明しても伝わりません。リテラシーに合わせてというのは、従業員にどこから説明しなければならないかを考えるということです。
SNSを使っていないから炎上騒動に巻き込まれない、とは言い切れません。業務の中で関わった人からSNSで指摘され、渦中の人になってしまうことや、不注意から情報漏洩してしまい、ネット上でバッシングを受ける可能性だってあります。
ネットリテラシーの向上も、炎上予防のために大切なことのひとつです。研修などで知識をつけさせましょう。
飲食業のように、店舗などが複数あり、従業員の多くがアルバイトで構成されている場合、同じ場所、同じ時間に従業員を集めた研修が難しいことも多いでしょう。
eラーニングの活用も有効ですが、ここでは筆者の会社が提供する炎上疑似体験型の教育ツールを参考事例として、従業員にネット炎上を「自分事化」してもらう方法の一端を説明します。
このツールは、炎上のきっかけとなる行為がネットで拡散され、自分の個人情報がネット上にさらされてしまうプロセスを、模擬体験するものです。炎上体験を通して「とても嫌な気持ち」になるように設計されています。
しかし、この感情を味わうことで、自分がどのような目に遭うのかを心に刻み、行動を慎むことができると考えます。
今回、複数存在する炎上シナリオから「飲み会で取引先の機密情報を話してしまう」という例について紹介します。
取引先で新製品情報を聞いたユーザーが、その夜の飲み会で同僚に機密情報を話してしまったことを端緒に「炎上」は始まります。
このような行動に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。居酒屋だけでなく、オフィスビルのエレベーターや公共交通機関の中などでうかつに顧客の話をすれば、情報漏洩につながりかねません。
このシナリオでは、顧客の新製品情報がツール上で一気に拡散。取引先から上司に「情報漏洩させた人物を知らないか」という問い合わせが入る設定です。上司からはツール上でユーザーに「○○さん、何か知りませんか」という確認のメールが届きます。
シミュレーションでは、SNSでさらに話題が広がり、情報を漏洩させた人間を特定しようという流れになります。そして会社名と実名がさらされ、ネットニュースでこの件が取り上げられてしまいます。
炎上の「当事者」になったユーザーは、業務の引き継ぎと自宅待機を命じられ、転職も考えますが、ネットで自分の名前を検索するとこの件が上位に出てきてしまい四面楚歌となりました。
このような境遇を疑似体験すれば、ネット炎上でわき起こる嫌な気持ちを心に刻み、「自分事化」できるようになります。
このシナリオの特長は、本人がSNSで機密情報を発信したわけではないという点です。自ら発信しなくても、不用意な発言で周囲に話を聞かれて内容を拡散され、会社や取引先に迷惑がかかるだけではなく、犯人捜しが始まり、自分の将来にも影響が出てくるという想定になっています。
すでにSNSの教育に取り組んでいる企業からは「自分事化はなかなか難しい」という声が聞かれます。
恐らく、ペーパー上のシミュレーションや一方通行の講義では、なかなか自分に起こりえることとして捉えづらいのでしょう。
教育ビデオなどという手段もありますが、自分事化で大切なのは、できるだけネット炎上に関して、リアリティーを持たせたシミュレーションを組み立てることです。
もしも騒動に巻き込まれてしまった場合、当事者がどのような境遇に陥るのか。対岸の火事ではないことを認識してもらうために、中小企業の経営者や後継ぎの皆さんは、従業員に対して手を変え品を変え、継続的な研修を行う必要があるでしょう。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。