目次

  1. 経費削減のポイント
    1. 各費目の内容調査を行う
    2. 各費目の削減余地を明らかにする
    3. 経費削減の推進体制を構築する
  2. DX化による経費削減アイデア例
    1. 電子契約の導入
    2. 経費精算システムの導入
    3. クラウド会計システムの導入
  3. 経費削減をやってはいけない例
    1. 売上獲得への貢献効果との関係がわかりづらい経費の削減
    2. 業務の効率やモチベーション向上に貢献している経費の削減
  4. 経費削減を進めるときの具体的な流れ
    1. 不要経費の洗い出し、削減方法の選択
    2. 削減による効果の試算、追加コストとの比較
    3. 削減方法の決定、実行
  5. 経費削減策を確実に実行するためには

 経費削減とは、会社がビジネスを運営し、収益の獲得に貢献するコストの効果を最大化していく取り組みのことです。

 削減には、収益の獲得に貢献しているコスト、貢献度の低いコストは何かという観点でコストを検証しましょう。

 その上で、経費削減で気を付けたいポイントは、次の3つです。

  1. 各費目の内容調査を行う
  2. 各費目の削減余地を明らかにする
  3. 経費削減の推進体制を構築する

 例えば水道光熱費、接待交際費、新聞図書費などの各費目について、それぞれの性格――固定費なのか、変動費なのか、どのような要因によって変動するのかを見極める必要があります。

*固定費と変動費
固定費とは、会社の売上高や販売数量といった企業の活動とは無関係に、一定に発生する費用のことで、変動費とは、生産量・販売量等の企業の活動に比例して増減する費用を言います

 この内容調査や要因分析には、まずは月次での過去のコスト推移分析を実施しましょう。その後に各現場へヒアリングを行い、コストを変動させる要因や収益への貢献度を特定しましょう。

 交際費や通信費、あるいは過剰な設備に係る維持固定費など、削減努力を重ねている経営者が多いものの、すでに見直しの余地がない会社もあります。

 コロナ禍によりリモートワークが推進され、オフィスに余剰スペースが生まれている会社は思い切って、引っ越しやスペース解約により賃料削減を図るのも一つの手です。

 毎日業務を行っている従業員は、実は何に無駄なコストがかかっていて、それをどうすれば改善できるのかまで十分に把握していることがよくあります。

 ただし、今までの慣習や仕組みを変えて、コストを削減し、業務を効率化する取り組みを行うのは、エネルギーが必要で、時間もかかります。

 社員にとっては、自社の経費削減がうまくいってもいかなくても給料に変わりはないため、なんとなく経費削減の余地が放置されてしまうことも多いようです。

 このため、会社の利益にコミットしている経営者や役員クラスが、従業員のアイデアを取りまとめて、自ら経費削減を推進する必要があるでしょう。

 一方で、経費削減をする時間的な余裕がなく、推進できる人材もいないという場合には、経費削減に長けたコンサルタントや公認会計士などにアウトソーシングするのも一つの手です。

 特に経費削減の余地が社内でも把握できているが、具体的な取り組みの推進がうまくいかない場合に、アウトソーシングは効果を発揮します。

 ただし、経費削減は従来の会社の仕組みや慣習を変える取り組みのため、仮にアウトソーシングを活用したとしても、会社への負荷や時間は覚悟しましょう。

 上記の経費削減のポイントにより、削減余地の多く、貢献度の低いコストを見つけ、削減手法を考えて推進する手法は、王道であり、有効性が高いものです。

 ただし、この手法は、従来から行われてきた企業努力であり、また削減努力の余地のあるコスト費目は企業ごとにそれぞれ異なります。

 そのため、ここでは、DXによりコストを削減できたアイデア例を紹介します。

 ここ数年で電子契約が少しずつ身近になってきました。コロナ禍でリモートワークが拡大していることも影響しているでしょう。

 電子契約とは、その文書が署名者本人のものであること、内容が改ざんされていないことを証明する電子署名とタイムスタンプを、電子文書に付して行われる契約です。

 従来の紙の契約と異なり、契約の手続きが早く済むのに加え、電子文書を用いるため郵送代・紙代・インク代・印紙代がかからないのが特徴で、導入するだけで業務の効率化や人件費の削減が期待できます。

*電子契約で印紙税がかからない理由

印紙税法基本通達第44条によれば、印紙税の対象となる課税文書の「作成」には、当該文書の現物を交付されたとき、という意味が含まれています。よって、原本が電子データとなる電子契約に用いられた書類には、印紙代はかかりません。なお、電子データをプリントアウトしたものも同様です(複製に過ぎず、原本が電子データであることは変わらないため)。
(参考:請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について 別紙1-3│国税庁

 電子契約のサービスは、複数の事業者が提供していますが、導入社数が多いのは、クラウドサインGMOサインで、DocuSignAdobeSignなどの海外のサービスなどもよく利用されています。

 筆者のおすすめは、2021年末にサービス開始したBox Signです。

 Box SignはBoxのストレージサービスを使っていれば、無料で使用できます。操作も簡単ですが、クラウドサインなどのようなハンコ型の印影を残すことが現時点ではできない点や日本語の使用説明書がない点はネックになるかもしれません。

Box Sign使用の流れ
Box Sign使用の流れ

 従業員が増えてくると、経費精算の業務負担が重くなります。

 従業員にしても、毎日の移動に係る交通費やその他の経費を、業務に追われながら、1件1件入力するのは手間ですし、証票提出のためだけに出社をしなければならないような状況が発生すれば、業務の効率性が害される可能性があります。

 会社によっては、全従業員の電車移動に係るコストを乗換案内などで確認し、従業員が定期を持っている場合には、きちんとその分が控除されているか確認するだけで、数日かかっている会社もあるようです。

 実際にチェックしてみると、領収書の未提出や、申請金額の相違はかなり多く、そのたびに各従業員に確認し、修正作業を行う手間も膨大です。

 さらに、申請された金額を会計システムに1件ずつ転記し、各従業員への経費振込み処理も必要になります。

 これらの手間は、クラウドタイプの経費精算システムを導入することで、かなりの部分が解決できます。

 例えば、筆者が導入を支援した楽楽精算には次のような特徴があります。

  • 経路を入力するだけで自動的に交通費を算出。定期区間分の交通費も自動で控除
  • 交通系ICカードの情報をアプリを通してシステムに取り込める
  • タクシーや飲食代の領収書などをOCRで読み取れる(ただし、オプション)
  • 上記経費を自動仕訳、CSVでほとんどの会計システムに移行可能
筆者が実際に楽楽精算を導入した際の課題対処策の一覧
筆者が実際に楽楽精算を導入した際の課題対処策の一覧

 楽々精算だけでなく、kinconeマネーフォワードクラウド経費ジョブカン経費精算など様々なサービスが存在しており、コストや機能なども異なるため、比較して導入を検討することをおすすめします。

 マネーフォワードクラウドfreee会計弥生会計 オンラインなどを導入することで経理を効率化して、経理に係るコストを削減できます。

 これらのソフトは、API連携によって、銀行口座やクレジットカードからのデータ抽出→自動で仕訳化を行ってくれるため、月々のキャッシュ・フローを手入力する必要がなく、お金の移動があれば自動的にソフトに反映されます。

 クラウドタイプのソフトなので、PCにインストールする必要もなく、スマホからの操作も可能です。

 給与計算や経費精算の機能も付帯しているので、これらの業務の効率化を図ることもできます。

クラウド会計ツールのメリット
クラウド会計ツールのメリット

 また、領収書やレシートをスマートフォンのカメラで撮影すると自動で取り込んでくれる機能や、請求書を自動で作成してくれる機能もあるため、BoxDropboxといったクラウドストレージサービスと組み合わせることで、ペーパーレス化による経費削減も推進できます。

 上記でご紹介した方法により経費を削減することで、利益の増加が期待できるでしょう。

 ただ、そもそも経費は売上獲得に必要なものです。

 削った経費以上に売上が減少したり、他の経費がかかったり、従業員のモチベーションが下がって退職を誘発するようなことがあれば、本末転倒と言えます。

 以下で、やってはいけない経費削減の例を紹介します。

 広告宣伝費や販売促進費、研究開発費などといった投入金額と売上への貢献効果がわかりづらいコストについては、事業特性を考慮した慎重な検討が必要です。

 これらのコストは損益計算書上では多額になることもあり、短期的な収支の改善のため、業績が苦しい時には大幅にカットしたくなるものです。また、実際にカットしても、直ちに売上高が激減しないかもしれません。

 しかし、これが長く継続することで、過去の投資効果を食いつぶして、将来の長期的な事業基盤を損ねてしまっているケースもあるので、注意が必要です。

 交際費やタクシー利用を制限したり、福利厚生費を抑えたりすれば、経費は削減できますし、人員を減らせば人件費も削減できます。

 しかし、業務効率や従業員のモチベーションが害され、売上減少や退職増加により、かえって採用コストが別にかかってしまうかもしれません。

 単に経費削減といっても、収益の獲得や従業員のモチベーション向上に貢献しているコストについては、単純に削減してよいかは慎重な検討が必要です。

 ここでは、経費削減を実際に進めるにあたっての流れを解説します。

 不要経費の洗い出しについては、次の2種類のアプローチ方法があり、両者を併用して進めることが重要です。

  1. 試算表で、項目ごとの過去推移を作って内容を分析し、効果効率の悪い経費を発見する
  2. 従業員へのヒアリングにより、各自が無駄と感じている業務やコストを把握する

 効果効率の低いコストを発見でき、その原因まで把握できていれば、削減方法はほぼ自動的に決まることが多いと考えられます。

 このフェーズでは、従業員の納得と協力をいかに引き出すかがポイントで、経費削減のための取り組みにより、業務が効率化され、従業員にとってもメリットが生じることを強調するのが大切です。

 特定経費の削減のためには、別に追加のコストがかかるケースもあります(システム導入など)。

 経費削減のために、導入したシステムの追加コストが削減額を上回ってしまっては、本末転倒ですから、効果の試算は欠かせません。

 経費削減策を意思決定するためには、ざっくりした概算でもよいので、削減による効果の試算と追加コストとの比較を行うことが重要です。

 経費削減策は、削減策のタイプにもよりますが、できれば一気に全社で開始するよりも、特定の部署や特定のメンバーなどでまず開始し、うまくいくようであれば、全社に広げていく方法をおすすめします。

 なぜなら、経費削減のため従来のオペレーションを見直すことになる場合に、最初から全社的に展開してしまうと、予想していなかったデメリットや業務上の非効率が生じた際に、リカバリーが困難になってしまうケースがあるためです。

 当初見込んでいた効果がうまく発現できない場合なども、適宜削減案を修正しながら進めていきましょう。

 経費削減策については、誰もが必要性は理解しているものの、着手が面倒でできないものがあります。

 この場合には、経費削減策の導入をアウトソーシングしてしまうことが有効ですが、コンサルタントを探す心当たりがない場合には、まずは顧問税理士などに相談してもよいと思います。

 電子契約などのように、コスト削減と業務効率化を同時に達成できる方策については、現場の協力も得やすいため、すぐにできるDX化を進めて、業務効率化及び経費削減を行っていきましょう。