2021年夏、開催された東京五輪で、選手らが宿泊した選手村の室内用扉約1万2000枚に、ニシムラの蝶番などが使用された。「選手らのコンディションづくりを支える大事な場所に使われたことで、社員のモチベーションも上がった」と、3代目の西村成広社長(51)は振り返る。

現在使われている蝶番製造専用の自動機

 創業は1935年。西村社長の祖父・末吉さんが大阪市内で蝶番製造を始めた。当時はプレス機で鉄板を曲げるなどの工程を手作業で行っていたため、指をケガすることが多かった。

 1945年3月に大阪大空襲で工場が全焼したが、47年に生家のあった八尾市で事業を再開。そのころ、末吉さんが蝶番自動加工機を完成させた。「四つの工程を自動でプレス加工する機械で、安全性はもちろん生産性も高まった。今の作り方の基本となっている」と西村社長は話す。

1950~70年に稼働していた蝶番自動加工機。西村成広社長の祖父・末吉さんが設計した

 76年には無災害200万時間を達成し、内閣総理大臣賞を受賞。現在も13年間、事故がないという。

 ニシムラの技術を代表する製品は「3次元調整蝶番」。ネジを回すことで、上下・左右・前後を数ミリ単位で調整できる。

 昔は、大工がドアやドア枠をカンナやノミなどで削り、建て付けを調整することが多かったが、工場での均一な製品の大量生産が進む中、蝶番で調整できるようにすることが求められるようになったという。発表後、ハウスメーカーなどから問い合わせが相次ぎ、ニシムラは各メーカーに合った調整蝶番を製造。取引先も増え、トップブランドへと大きく成長していった。

 今では、ドアノブやクローゼットの収納金具なども手がけている。

 2017年には、パナソニックと共同開発した「フラット蝶番」がグッドデザイン賞を受賞した。扉と蝶番を一体化させることで、ドアから飛び出していた回転軸をなくし、開閉時の隙間を最小限にとどめたことが評価された。

 ニシムラの強みは「営業力と開発力。そして、夢を実現したいとの思いを社員で共有していることだ」と、西村社長は胸を張る。「今後もトップを走り続け、世の中に貢献していきたい」(2022年2月5日朝日新聞地域面掲載)

ニシムラ

 本社は大阪府八尾市千塚2丁目。従業員は約100人。八尾市に二つ、中国に一つの工場を持ち、約3000品種、年間1200万枚の蝶番を製造。品質管理の仕組みを定める国際規格「ISO9001」のほか、環境対策や災害時などの事業継続に関するISO認証も取得している。