目次

  1. 消費期限の近いものから買う人も――「手前派」の主張
  2. 「衛生面が心配」「鮮度が違う」――「奥から派」の主張
  3. 過剰仕入れの一因は、品切れに不満を持つ私たち?
  4. 「てまえどり」推進に向けた提言も
  5. 連載筆者・梅澤聡さんから

 8月26日に公開した連載「毎日4000万人が利用する生活インフラの未来 『コンビニ限界説』に挑む」の第5回記事「奥から取っていませんか? 客の買い物習慣がもたらす深刻な食品ロス」について、ツイッター上などで多くの反響をいただきました。

 読者のみなさまの声をまとめ、改めてコンビニの食品ロスについて考えたいと思います。最後に、記事の筆者である梅澤聡さんからコメントをいただきました。

 「手前から取る派」「奥から派」、それぞれに言い分がありました。まずは「手前派」から。

 

 中には消費期限の近いものを積極的に選んで買う、という人も見受けられました。

  

 次に「奥から派」です。最も多かったのは、手前の商品は衛生面で心配だ、という声です。

 

 すぐ食べないかもしれないので奥から取る、という人も一定数いました。

 

同じ値段なら鮮度のいいものを買う、という意見も根強いです。

 

 また、食品ロスが生じる原因についての意見も多くみられました。多かったのが、仕入れ方に問題がある、という指摘です。

 

 一方、元の記事にもありましたが、コンビニが過大に仕入れがちな理由の一つは、客離れの原因となる「販売機会ロス」を生じさせないためです。つまり、客側のニーズに応えるため、店側は余裕を持った仕入れを続けてきました。この点について「品切れも許容すべきではないか」「いつも商品があるのが当然と考える私たちの意識が問題では」という声もありました。

 

 また、店員や元店員とみられる方からは、実体験を元にした声が届きました。

 

 最後に、手前の商品から取ってもらうための提言をいくつかご紹介します。

 

 2021年8月31日付の朝日新聞朝刊(東京本社版)には、「コンビニ大手が、消費期限が近い商品などを、店の判断で値引き販売する際の手続きを簡略化している」という記事が載りました。こうした動きがさらに進めば、消費期限の近い商品を手に取る人が増え、食品ロスは減っていくかもしれません。

 一方、食品ロスの原因はコンビニ側だけにあるのでしょうか。読者の意見にあった「常に商品があることを当然視する意識」など、客側が考えるべき点もあるのかもしれません。

 多数のコメント、ありがとうございました。

 私は消費者としてコンビニと出会って40数年、ずっと「手前派」です。「派」というより、全く意識せず、ぼんやりと手前から取っていました。一方で「食品ロスを考慮して手前取りを心がけている」という意見もあり、コンビニ店主にとって心強い味方だと思いました。

 「手前どころか消費期限が近いやつをわざわざ選んで買っているワイ優良顧客すぎでは?」とのコメント。SDGs世代の新しい顧客として敬服いたします。

 ただし「奥から派」にも、正当な理由がありました。「なるほど」と思う貴重なご意見ばかりです。

 「手前の商品は床に落として戻したり、べたべた触ったりした可能性がある」とのご指摘はその通りです。新型コロナウイルスの感染防止のため、一部のスーパーマーケットでは、一度触った商品を棚に戻さないよう呼びかけています。それでも、手に取った鶏肉のパックを目の前に持っていき、値段やグラム数を確認した上で戻す行為を繰り返す人を筆者自身も目撃しています。

 「事情は分かるけど、すぐに食べるとは限らないから奥から取ります……」というご意見もありました。その通りなのです。そのため「てまえどり」キャンペーンでも、「すぐにたべるなら、手前をえらぶ。」と、一応エクスキューズされています。それでも、手前から選んでもらいたいという「圧」を感じますよね。実はここには理不尽な問題も絡んできます。

 コンビニの草創期、各社は購入から15分以内に消費する商品の品ぞろえを重視していました。弁当だけでなく、昔はよく切れた電球もそうです。だからセブンイレブンのキャッチフレーズは長らく「開いててよかった」だったのです。それが2009年に「近くて便利」に変わりました。

 背景には、すぐ消費する商品ばかりでは行き詰まる、という考えがありました。確かに働く女性は増えました。しかし、自宅を中心に活動する高齢者はもっと増えていきます。そういった自宅から買い物に来る客に朝昼晩の食事を提供しよう、とコンビニ業界は考えたのです。

 昔は消費期限が1日程度のおにぎりや弁当を提供していました。今は管理温度が5度前後の、冷蔵庫で何日か保存できるチルド弁当を充実させています。「必ず温めてください」(レンジでチンしないと食べられない)と表記されている丼物などです。もっと言えば、主食にできる冷凍食品の品ぞろえも増やし、まとめ買いを喚起しています。

 つまり、コンビニ自身が「すぐに食べない」消費を促して、スーパーマーケットの客を奪おうとしているのです。高齢者だけではなく、忙しい人たちも含めて「すぐに食べるとは限らない」需要を取り込んでいる中で、「てまえどり」キャンペーンが展開されたわけです。

 次に「仕入れ過ぎでは」「売り切れご免でいい」「常に品物があるという意識が問題」といったご指摘について考えます。コンビニが日本で大きく成長できたのは、創業当時に「弱者」の意識があったからだと筆者は考えます。現在のようなおにぎり、弁当、サンドイッチがなかった時代、ライバルはスーパーマーケットでした。

 コンビニの価格は安くなく、品数も多くありませんでした。そこで差別化の軸としたのが、長時間営業、使いやすい販売量、そして欠品しないことでした。当時のスーパーマーケットは、安売りして「完売」させる競争を繰り返していました。買いに行ったら品切れということもよくありました。

 一方のコンビニは、安売りはしないけど、欲しい商品が夜の10時でも必ず手に入る。ここをよりどころにしたのです。

 長時間営業や食品ロスに関して、コンビニ業界は「柔軟でない」と識者に批判されてきましたが、創業当時のDNAが強く残っているチェーンほど抵抗したと思います。今後、これらの課題を消費者と一緒に解決していく必要があります。

 最後に、多くのコメントがあった「値引き」は、有効な手段だと筆者も考えます。各チェーンは現在、柔軟に価格変更できる仕組みづくりに取り組んでいます。

 ただ、「余ったら値引きすればいい」を前提に商売を組み立てれば、加盟店の利益を圧迫します。また、世間の圧力に押されたチェーン本部が「オーナーさんの自由にすればいい」と物分かりのいい顔をするのは無責任でしょう。この値引き問題は、改めて論じたいと思います。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年9月6日に公開した記事を転載しました)