目次

  1. セミナーの目的
  2. D2Cとは
    1. デジタルの普及
    2. 消費者の価値観の変化
  3. D2Cビジネスのメリット・デメリット
    1. D2Cビジネスのメリット
    2. D2Cビジネスのデメリット
  4. リブレヨコハマのD2C事例
    1. 劇団四季もポール・マッカートニーも頼るクリーニング店
    2. 誰が買うのか?を深掘りして生まれた「服のアンチエイジング」
    3. ファンづくりのための全国行脚 SNSでも発信
    4. イベントで気をつけている「まず足を止めてもらう」
  5. D2Cビジネス、成功のポイント
    1. ターゲットの明確化
    2. ファン作り
    3. 顧客との距離感の近さを生かす

 セミナーは、2022年9月23日~25日に東京ビッグサイトで開催される「GOOD LIFE フェア2022」を前に、D2Cに取り組みたい企業に向けて「なぜ消費者の共感を得ることが重要な販売戦略なのか」、「なぜリアルなタッチポイントが商品・サービスの認知度アップと売上向上につながるのか」を伝えるために開催しました。

 セミナーでは、まず北澤さんがD2Cの基礎知識について解説しました。

 D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーがダイレクトに消費者と取引をすることを指し、2000年代前半からアメリカを中心に広まってきました。D2Cビジネスが広がった背景として、デジタルの普及と、消費者の価値観の変化という2つのポイントがあると、北澤さんは指摘します。

 まず、デジタルの普及により、メーカーが消費者と直接コミュニケーションが取れる手段が増えてきたことが挙げられます。

 たとえば、簡単にECサイトを開設できるようになりました。さらに、SNSでPRできるだけでなく、デジタル広告を出すことも容易になりました。北澤さんは「気軽にオンラインが使えるようになり、消費者の買い物チャネルも変化しています」と指摘しています。

 もう一つの大きな要因として、消費者の価値観の変化があると言います。

 「みんなの持っているものが安心という戦後からの価値観から、みんなが持っていなくても自分にとって一番なモノを選んで買う価値観へとシフトしています」と、北澤さんは指摘します。さらに、機能的(物質的)価値から、情緒的価値・共感に重きを置くようになったともいいます。

 北澤さんはこれまでの支援経験をもとにD2Cのメリットとデメリットを整理しました。

 一つ目として、中間マージンを抑えることで、メーカーの収益性が高く、消費者にも安く届けられるようになりました。

 二つ目として、マーケティング・販売戦略の自由度が高く、ビジネス戦略が立てやすいといいます。さらに、リアルな顧客情報を蓄積できる点もあります。蓄積した顧客情報をもとに次の戦略を立てられるのです。

 一方で、デメリットもあります。まず、ターゲット顧客層へ、商品やサービスを届けるには時間と労力がかかる点です。そのときには、どんな世界観があり、消費者にはどんなメリットがあるのかなど商品力の優位性が不可欠となります。

 それでは、どのようにすれば消費者にリーチできるのでしょうか。D2Cの取り組み方について、茂木さんが洗濯洗剤ブランド「リブレヨコハマ」での事例を紹介しました。

 茂木さんの父はクリーニング店を営んでいました。茂木さん自身は海外でオーガニックコスメを探す仕事をしていたのですが、次男・康之さんが父の影響で、横浜市にクリーニング店を起業しました。

衣服を長く大切に(プレスリリースから)

 父の人脈もあり、劇団四季の「アラジン」やポール・マッカートニーの衣装をクリーニングしてきたといいます。茂木さんは「でも、次男はすごいと思ってなくて。目の前の仕事を一生懸命やっていました」と振り返ります。

 舞台衣装は細かな装飾部分があり、ドーランや汗も付着しています。ドライクリーニングでは汗汚れがなかなか落ちません。そこで、縮まないよう気遣いながら丁寧に水洗いをする必要がありました。

 一方、茂木さんは海外を行き来するなかで、オーガニッククリーニングが根付いている様子を目にします。「海外のクリーニング店は自分たちで洗剤をつくり、環境に配慮したドライクリーニングをしない、自分たちで水洗いをするというカルチャーができつつありました」。そんな様子を康之さんに伝えていました。

 そんななか、父と康之さんがアーティストの衣装を洗うための洗剤を開発し始めます。2013年から2年ほどかけて、衣装が縮まず、汚れが落ちて、柔軟剤不要ですすぎも1回で済むオリジナル洗剤が完成しました。

 康之さんがオリジナル洗剤をサンプリングで配ったところ、非常に評判が良かったといいます。

 「すごいのができた」

 1年間ぐらい毎晩のように父から電話がかかってきたといいます。そんな熱意に影響を受け、2018年、オリジナル洗剤の販売に向け、兄弟で「バレル」を起業しました。

 「次男と深く話しました。ドラッグストアでは400~500円で洗剤が売られているなかで、開発したのは税込3000円ほどの商品でした。誰が買うんだ、という話になりました」

リブレヨコハマのオリジナル洗剤(プレスリリースから)

 商品のメリット・デメリットを洗い出し、だれをターゲットにするかを明確にするため、クリーニングでいう「風合いって何だろう?」などと抽象的な言葉を細分化することから始めたといいます。

 話し合うなかで、流行にあったファストファッションとは対局にある「ハイエンドファッションを購入して、3~5年長く着たい人に寄り添う洗剤」というコンセプトに落ち着きました。キーワードは「服のアンチエイジング」。販売先もその思いに共感してくれる店を選びました。

 「無名なブランドが消費者に知ってもらうのは至難の業です。ですが、ラッキーなことにセレクトショップで採用されたことで認められた感がありました」と茂木さん。

 さらに、全国まわって一人ひとりと話してファンをつくろうと全国行脚を始めます。全国行脚には理由がありました。正しくない洗い方で効果を実感できないと、購入者が「せっかく高い洗剤を買ったのに……」とがっかりしてしまうからです。そこで、洗剤と洗濯の仕方を直接伝えようとしていたのです。

 これまでに鹿児島から新潟まで5000人ぐらい話しましたが、全国行脚はコロナ禍で中断せざるを得なくなりました。

 そこで、力を入れているのがSNSです。康之さんらと一緒に「洗濯ブラザーズ」として、Youtube、Instagram、Facebook、Twitter、Podcastなどで発信に力を入れています。8万部売れた著書『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』の内容をもとに、正しい洗い方を発信しています。

 しかし、茂木さんはSNSだけでなく、リアルなタッチポイントも大切にしています。

 イベントもその一つです。茂木さんは「まず足を止めてもらうことがとても大事です」と話します。量り売り用のスタンドは、ワインのボトルを逆さにしたような容器の洗剤が入っています。これが「ワインの試飲会かと思った」という会話のきっかけになっています。

リブレヨコハマがイベントで活用している量り売り用のスタンド(セミナー投影資料から)

 あとは、「まず使ってみてください」と渡すサンプル品が大きいことに驚く人が多いといいます。「これも演出です」と茂木さん。

 さらに、クリーニング店として衣類の洗い方の相談に乗れることも強みでした。「洗剤屋さんではなく、クリーニング店目線で話せました」

 こうしたオンライン、オフラインの活動を組み合わせる活動を続けるなかで「オンラインショップを2018年に立ち上げ、売り上げは当初の300倍です。リアルなイベントと間違いなくリンクしていたと思います」

 このようなリブレヨコハマの事例では、どこに成功の秘訣があったのでしょうか?締めくくりとして、北澤さんは3つの成功ポイントを抽出しました。

 誰のためのブランド化なのか。ターゲットを明確にして戦略を立てて、世界観をつくることが大切だと北澤さんは指摘します。リブレヨコハマの場合は「ハイエンドファッションを購入して、3~5年長く着たい人」でした。

 茂木さんが発信しているSNSは動画や音声、文章など様々ですが、キレイに洗いつつも服を傷めず長持ちさせられる情報を届けるという世界観が統一されています。

 次に、ターゲットに対して認知を上げ、共感を生み、ファンをつくることです。リブレヨコハマでは、SNSでのコミュニケーションで顧客の声を取り込みつつ、さらに全国行脚やイベントへの出店などリアルなタッチポイントをつくることで相乗効果を生んでいました。

 もう一つが、D2Cだからこその「顧客との距離感の近さ」を生かすことにありました。SNSとリアルの両面から顧客とのコミュニケーションを図り、顧客の声を商品開発に反映することで、ブランドの進化だけでなく、アンバサダー効果(顧客からの発信)も期待できるからです。