短時間勤務制度とは?対象者や必要な措置、メリット、導入手順を解説
育児・介護休業法における短時間勤務制度は、従業員が希望した場合適用することが義務付けられています。改正施行で注目されている育児・介護休業法により、育児する従業員が「短時間勤務」を希望したときの準備はできていますか?社会保険労務士が制度の解説と手順、導入事例を紹介します。
育児・介護休業法における短時間勤務制度は、従業員が希望した場合適用することが義務付けられています。改正施行で注目されている育児・介護休業法により、育児する従業員が「短時間勤務」を希望したときの準備はできていますか?社会保険労務士が制度の解説と手順、導入事例を紹介します。
目次
短時間勤務制度とは、1日の所定労働時間がフルタイム労働者と比べて短い勤務制度のことです。
短時間勤務制度は、育児・介護休業法によって対象となる従業員が希望した場合に適用することが、企業に義務付けられています。
そのため、短時間勤務制度というと、育児・介護休業法における「育児のための短時間勤務制度」、すなわち原則として1日の所定労働時間を6時間に短縮する制度を指すことがしばしばあります。今回はこの「育児のための短時間勤務制度」にスポットをあてて解説します。
同法は、2022年4月から順次改正施行されていますが、短時間勤務制度措置の義務付けは変わりありません。もし、育児・介護の短時間勤務制度について就業規則上に規程がない場合は、早めに制度を整備しておきましょう。
女性の年齢階級別に見た労働力率(就業者と就業意欲のある者)は、学卒後の年代で上昇し、その後、結婚・出産期に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するM字カーブを描くと言われていました。
総務省統計局の「労働力調査」によれば、1989年にはM字カーブの底にあたる30~34歳女性の労働力率は51.1%であり、約半数が就業していない状況でした。2000年になってもM字カーブ底の同年齢階級の労働力率は57.1%で、OECD(経済協力開発機構)平均66.1%を下回っています(参照:統計が語る平成のあゆみ p.5│総務省統計局)。
こうした状況から、育児・介護による離職を防ぐため、2009年に育児・介護休業法が改正となり、その際に「所定労働時間の短縮措置」制度が新設されました。
改正から8年後の2017年には、M字カーブの底が20ポイント近く上昇し、20歳以降の各年齢階級でOECD平均を上回っています(参照:同上 p.5)。女性の育児離職の状況は、制度新設によって改善していると言ってよいでしょう。
2020年には、「所定労働時間の短縮措置」として短時間勤務制度は、68.0%の事業所で導入されています(参照:令和2年度雇用均等基本調査 p.20│厚生労働省)。
育児・介護休業法では、次のいずれにも該当する従業員が希望した場合、企業は短時間勤務制度を講じる必要がある(1日の所定労働時間を5時間45分~6時間にしなければならない)としています。
育児のための短時間勤務対象者 |
---|
|
なお、5.の労使協定では、以下の従業員を適用除外とすることができます。
まとめると、育児・介護休業法改正後でも「入社1年未満の従業員」は、労使協定締結によって短時間勤務制度の適用除外とすることができます。
労使協定で除外していない場合には、希望するフルタイム従業員のほぼ全員が、短時間勤務制度の適用対象となります。
労使協定で適用除外としている場合、入社1年未満の従業員に対する短時間勤務制度の適用を拒否しても、法律的に問題はありませんが、離職防止や就業意欲の向上のために次のような措置をとる企業もあります。
また、子が3歳以上となった場合でも、子が小学校就学前までは企業に努力義務があります。
次に、短時間勤務制度の導入によるメリットとデメリットを見ていきます。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
企業 | ・従業員の定着を促す ・採用の門戸が広がる |
・短時間勤務制度の規程が必要 ・短時間勤務の管理が必要 |
労働者 | ・育児の時間をとれる | ・給与が減額される |
それぞれ、詳しくご説明します。
企業側のメリットとしては、育児による離職を防ぎ、定着を促すことがあげられます。採用の面でも、応募者の範囲は広がることでしょう。
デメリットとしては、短時間勤務制度の規程整備があります。また、制度利用者がいるときには、時短の賃金計算や適用している従業員の仕事量の調整といった管理が必要になります。
労働者側のメリットとしては、育児の時間がとれることによりワークライフバランスが充実することがあげられます。
デメリットとしては、カットされた労働時間分の賃金が減額されることがあります。時間が得られる分、賃金が減るのは苦しいところですが、社会保険に加入している場合は以下の制度を利用できる場合があります。
短時間勤務制度を利用している育休明けの労働者がいる場合は、これらの制度の手続き漏れが無いか注意しましょう。
では、実際に短時間勤務制度を導入するための手順を解説します。次の5ステップで進めるとよいでしょう。
対象者の範囲は、従業員の年齢構成や、今後採用する人材のゾーンも踏まえて決めましょう。
短時間勤務制度の対象者でも述べたように、法律では、労使協定締結により入社1年未満の従業員を制度の適用除外にできます。
ですが、労使協定による適用除外を用いず、入社してすぐの従業員も短時間勤務制度を利用できるようにすることも可能です。
なお、制度対象者を「入社3年以上」などとすることは法の基準を下回るためできません。
短時間勤務制度は、育児・介護休業法の他の制度と異なり、申出期日や制度適用期間などが法令で定められていません。そのため社内で手続きに関する期日や方法、様式を決定する必要があります。厚生労働省の「社内様式例 p.11」を活用するとよいでしょう。
ここでは、適用を受けようとする従業員にとって過重な負担とならないよう配慮することが求められています(参考:育児・介護休業法のあらまし p.108│厚生労働省)。
例えば、以下のような決まりは望ましくありません。
範囲や手続方法を定めたら、それを就業規則に記載していきます。労使協定による適用除外がない場合の規程例を下記に引用しますので、参考にしてみてください。
(育児短時間勤務) |
---|
第◯条
|
引用:育児・介護休業等に関する規則の規定例 p.36│厚生労働省
労使協定により適用除外を定める場合は、上記の第2項を以下のものに差し替えてください。
《労使協定の締結により除外可能な者を除外する例》 |
---|
本条第1項にかかわらず、次のいずれかに該当する従業員からの育児短時間勤務の申出は拒むことができる。 一 日雇従業員 二 1日の所定労働時間が6時間以下である従業員 三 労使協定によって除外された次の従業員 (ア) 入社1年未満の従業員 (イ) 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員 |
引用:同上
作成・改訂した就業規則は、労働者代表の意見を聴いたうえで、管轄の労働基準監督署へ提出しましょう。
労使協定例は厚生労働省の「育児・介護休業等に関する規則の規定例労使協定例」を参考にしてください。
短時間勤務でも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数がフルタイム労働者の4分の3以上である場合は、そのまま被保険者となります。
育児による短時間勤務は、原則として1日の所定労働時間を6時間とするもので、労働時間4分の3の状態を維持しているため、短時間勤務を適用したからといって社会保険を脱退することにはなりません。
作成・改訂した就業規則は周知されてはじめて効力を持ちます。また、2022年の改正育児・介護休業法では「妊娠・出産の申出をした従業員に対する個別の周知、意向の確認」が義務付けられています。
従業員が上司に申し出た際に、誤った案内を行わないよう、管理職を中心に制度の周知をしましょう。研修を行うのも効果的です。
また、実際に制度を利用しようとする従業員には、不安な部分である給与の減額、社会保険の取扱いのほか、育児による場合には「労働者側のメリット・デメリット」で挙げた制度(報酬月額変更届・報酬月額特例申出)が利用できるかどうかを説明するとよいでしょう。
短時間勤務制度を適用している際によく起きるのが「フルタイム従業員の不満が溜まる」と「不意に不利益な取扱いをしている」の2つです。
「フルタイム従業員の不満」は、短時間勤務制度適用者分の業務が、他の従業員に上手く引き継がれていない場合に起こりがちです。
短時間勤務制度適用者が発生した場合、業務分担を当人同士で決定せずに、必ず管理職が立ち入って、業務内容・業務量を振り分けましょう。
「不利益な取扱い」には、例えば短時間勤務制度の利用を理由にした解雇・雇用契約内容引下げの強要があげられます。
ほかにも、短時間勤務を適用したからといって不就労時間分以上の賞与の減額も不利益取扱いとなります。これらは法律で禁止されているので注意してください。
参考として物流会社の事例を取り上げます。ここは元々男性従業員が多い企業でしたが、運送のほか生活関連事業にも取り組むこととなり、育児中の女性も応募しやすくなるよう、次のように短時間勤務制度を導入しました。
短時間勤務制度のほか、時間外労働の免除・深夜業の免除を小学校3年生までにするなど、育児との両立を支援する諸制度を充実させた結果、それまで応募の無かった新卒女性の入社希望が増えました。
育児・介護休業法上の短時間勤務制度について解説してきましたが、育児・介護以外での場面でも短時間勤務制度を設ける企業が出てきました。
育児・介護休業法の短時間勤務制度によらず、短時間勤務している従業員のうち、次のいずれにも当てはまる方のことを短時間正社員といいます(参考:「短時間正社員制度」導入・運用支援マニュアル p.3│厚生労働省)。
育児・介護以外でも、例えば通院が必要な従業員、意欲・能力のあるパートタイム従業員などの確保に役立つ制度といえるでしょう。
短時間正社員制度を設ける場合にも、就業規則の規程は必要となります。短時間勤務制度を導入するための手順に、「短時間正社員の待遇」や「フルタイム正社員との転換」をプラスして検討を進めましょう。
2022年の育児・介護休業法の改正施行はニュースでも取り上げられることが多いので、従業員の注目度も高まっています。
2022年10月には、産後パパ育休(出生時育児休業)制度が施行されるので、これから該当部分の就業規則を見直しされる企業も多いかと思います。
すでに短時間勤務制度を導入されている企業も、これを機に、対象者や短時間勤務パターンについて、より従業員が利用しやすくなるよう見直ししてみてはいかがでしょうか。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。