清算も考えていたタミヤホーム 2代目が解体業参入で売り上げ3倍超に
鍛冶工事業を手がけてきたタミヤホーム(埼玉県所沢市)は、創業者の先代が高齢化でリタイアを決め、一時は会社の清算を考えていました。社長の息子で2代目の田宮明彦さん(40)は、職人を守るために不動産会社から転身。家業を成長させようと解体工事業への参入を決め、社内外でホスピタリティーを意識した経営を行い、2年間で売り上げを3倍超の10億円に伸ばしました。
鍛冶工事業を手がけてきたタミヤホーム(埼玉県所沢市)は、創業者の先代が高齢化でリタイアを決め、一時は会社の清算を考えていました。社長の息子で2代目の田宮明彦さん(40)は、職人を守るために不動産会社から転身。家業を成長させようと解体工事業への参入を決め、社内外でホスピタリティーを意識した経営を行い、2年間で売り上げを3倍超の10億円に伸ばしました。
目次
田宮さんの父・豊さんは大工出身で、1985年に基礎工事や外構工事、リフォームを手がける田宮建設(当時は田宮土建工業)を設立しました。タミヤホームは97年に、豊さんが屋根の修理など雑工事を請け負う関連会社として作りました。
タミヤホームはその後、鍛冶工事を行う会社を買い取り、主力事業に育てました。
田宮さんは学生のころから、休みの時に田宮建設の仕事を手伝うようになりました。父に「暇ならちょっと現場に来い」と言われたのがきっかけでした。
「学校のジャージーを着て、用意してもらった靴を履いてトラックに乗せられ、現場に着いたら迎えのトラックが来るまで、ひたすら掃除をして手伝いました」
田宮さんは仕事に誇りを持って働く職人の姿に影響を受け、現場の作業を手伝うことにしました。そのために自分で作業着、靴、手袋を買ったほどです。
時間のある時は作業を手伝い続けました。ただ、兄(暁さん)がいたこともあり、父や周囲から「会社を継いでほしい」と言われることはありませんでした。
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田宮さんは大学卒業後、不動産会社に就職。外の世界を知り多くの人たちと縁ができれば、家業の助けになると思っていました。
一貫して営業畑を歩み、27歳で所長に昇格しました。別の不動産会社に転職し、親会社の取締役やグループ子会社の代表取締役を任されました。36歳で業界団体の全日本不動産協会の支部役員を委嘱されるなど、輝かしいキャリアを歩んできたようにみえます。
しかし、最初から優秀だったわけではありません。新卒で入社した会社では、ミスを犯して毎日先輩社員から怒鳴られました。「自分にはセンスがない」と思うようになり、会社からも「あいつはダメだ」と評価されたといいます。
どうしたらいいかわからず一人で悩みましたが、入社から2カ月後あたりから気持ちが変わりました。
「学生のころと比べるとみじめで悔しかった。悔しさから抜け出すには自分が変わるしかなく、そのために怒った先輩社員が望んでいることを知ろうとしました。怒られた後、少し時間を空けてから先輩社員に何がまずかったのかを聞くようにしました」
それからは、先輩社員も怒らず諭してくれるようになり、めきめきと力をつけていきます。
不動産業界で活躍していた田宮さんに2019年、転機が訪れました。帰省した折に家族から、父親がリタイアしてタミヤホームの清算を考えていると聞かされました。
父親は不動産業界で着実にキャリアを築いていた田宮さんを見ていて、いきなり承継を求めることは厳しい上に酷なことだと判断し、清算を考えたといいます。
突然父親の考えを知った田宮さんは「どうする?」と問われ、とっさに「(自分がタミヤホームの社長を)やるよ」と答えたのです。
田宮さんはなぜ即答できたのでしょうか。
「不動産業界での経験や実績で自信をつけ、家業を継ぐことは重荷にはならないと無意識に判断したのでしょう。うだつが上がらず、転職を考えているような状況だったら、後を継ぐことは荷が重かったと思います」
当時同社に20人ほどいた職人や事務員に対する責任をまっとうしたいという気持ちも大きかったといいます。
田宮さんは20年2月、タミヤホームの代表取締役に就任し、5年後の目標を年商10億円に据えました。鍛冶工事業で年商3億円程度を維持してきましたが、新規受注の獲得は難しいことから解体工事業への参入を決めました。
その理由は、不動産会社時代に築いたネットワークを生かして受注が見込めたからです。
これまでの解体工事業は、近隣住民からの要望やクレームへの対処に時間がかかるなど課題を抱えており、これらが解決できれば差別化できるとも考えました。
職人は作業にだけ専念させ、専任の営業担当を採用しました。近隣住民からの要望や取引先からの相談ごとへの対応は、営業担当が引き受ける体制をつくります。
解体工事業は営業マンを置いていないのが一般的といいます。しかし、田宮さんは不動産流通の流れを熟知し、どこに営業をかければ受注を獲得できるかを知っていました。
一般的な解体工事業者は主に工務店から仕事を受注しますが、不動産流通の全体像を把握しているわけではなく、どこに営業をかければ仕事を受注できるかまでは理解されていないところがありました。
まずは、かつての勤務先や不動産関係の人脈に声をかけ、取引先を開拓していきました。
田宮さんは飛び込み営業も積極的に行います。解体現場に行った時、付近に訪問したことがない不動産会社や建築会社があるとアポなしであいさつに出向き、解体の案件がある時に見積もりに参加させてもらえるようお願いすることもあるほどです。
最初は会社案内のような営業ツールがなく、妻の力を借りてパンフレットを制作。不動産会社や建築会社などへのダイレクトメールにも使いました。
毎日夜遅く帰宅した後、夫婦で封筒にパンフレットを入れて発送。妻は妊娠中も手伝ってくれたといいます。
田宮さんには「みんなに喜んでもらいたい」という志があります。それは、タミヤホームの経営を担う前の16年に病気で入院したことがきっかけでした。
それまでずっと走り続けてきたこともあり、入院期間中は松下幸之助ら著名な経営者の本を読みあさりました。この時思い知ったのは、自分は著名な経営者と違い、何を目指すのかという想いが中途半端だったことです。
志を持つことの大切さを学び、退院後に「みんなを喜ばせたい」と思うようになりました。
そんな経験を持つ田宮さんが現在実践しているのが「ホスピタリティー経営」です。
職人は工事品質を上げるべく作業に専念し、専任営業は近隣住民からの問い合わせ、発注主である不動産会社や建築会社との折衝への対応や、工事に付随する雑事を担当。おもてなしの精神を持って、両者がそれぞれの担当業務を丁寧に遂行することで、発注主の満足度を高めるように努めました。
業者ごとの解体工事にかかる費用には大きな差がありません。繰り返し受注するためにも、職人が不得手な作業以外のサービスは専任営業に任せ、サービス品質を上げることにしたのです。
「不動産会社時代、解体工事を発注していましたが、何かあると威圧的な態度を取るような業者をいくつも見てきました。こうした会社は社会的に信頼されず、二度と仕事が発注されることはありません」
「使い捨てにされないためにも、ホスピタリティーの発揮が大切だと考えました。確かな仕事と丁寧なサービスができることを示し、繰り返し仕事を発注してもらえる信頼を勝ち取っていきました」
発注主の事情から、損をするような予算でお願いされることもあります。次回適正価格で受注できる見通しがあるなら、損をしても引き受けることもあるといいます。時には「木を1本抜いてほしい」といった解体工事とは関係ない雑工事も、引き受けることがあるといいます。
発注主は対応してくれるところがなくて困り、タミヤホームを頼ってきます。困りごとを解決するのは、解体工事を適正価格で繰り返し発注してもらうことにつなげるためでもありました。
その結果、5年で年商10億円という目標を、2年で達成しました。このうち、解体工事業は7.5億円で、鍛冶工事を抜いたのです。
ホスピタリティーは社員にも発揮され、田宮さんは現場には出向いて職人に差し入れをしたり、遅くまで仕事をして終電に間に合わなかった社員を車で自宅まで送ったりしています。
時には、社員の両親の誕生日にプレゼントを贈ったり、体調不良で休んでいる社員に食材を届けたりというのもホスピタリティー経営の一環です。
田宮さんは社員と一緒に、妻の実家が所有する田んぼで田植えをして、その時に器も制作。器が完成したころに稲刈りに行き、作った器で収穫した米をいただくそうです。
収穫した米は買い取り、精米したものをオリジナルデザインの米袋に入れて社員や取引先に贈っています。
田宮さんが目指す理想的な組織は、長所を生かし短所は互いにフォローし合うことで全員が活躍するというものです。田植えもチームワークの醸成に一役買っているといいます。
この思いは、ラグビー部で主将を務めた高校時代の経験がもとになっています。ラグビーのチームプレー精神を会社に持ち込んだのです。
社長就任からまだ3年目ですが、田宮さんには社員が助け合う組織になり成長していると実感できたことがありました。
田宮さんは一時期、妻の入院と子どもの世話で仕事ができないことがありました。新規開拓もストップしましたが、この間、営業担当が取引先から案件を受注し、職人が取引先から高く評価される仕事を繰り返すことで、売り上げを確保したといいます。年商10億円という目標を2年で達成できたのは、社員の成長があったからでした。
タミヤホームでは「解体工事コンシェルジュ」というサービスも始めました。解体工事だけではなく、土地売却の仲介、建て替え、相続、資産運用などに関する相談に乗るというものです。
資産に関するあらゆる相談に対応できるよう、営業担当は不動産関連の資格をはじめ、フィナンシャル・プランナーの資格も持っています。
「今まではそれぞれの専門家が個別に対応していましたが、担当を一元化することでお客様の手間をなくすことができ、コストも低減できます。私は不動産業界の出身なので、土地を買ってくれる不動産会社を紹介し、売却に伴うさまざまな課題にも対処できます」
今後は大手不動産会社と連携するなどして、全国展開を進めたいそうです。
タミヤホームでは今後5年間で年商100億円という目標を掲げていますが、ゆくゆくは1千億円を目指しているといいます。全国レベルでの事業展開を目指し、今後5〜10年後の間にIPO(新規株式公開)も実現したい考えです。
不動産仲介会社や建売会社を傘下に収めるほか、士業も加えて不動産流通の上流から下流までの各種サービスを提供できるようにするのが、田宮さんの大きな目標です。
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