星野リゾート代表「中小事業者は人材確保を」 観光需要回復へ提言
星野リゾートの星野佳路代表は2022年10月12日、オンラインで会見を開きました。11日から始まった国の観光支援策「全国旅行支援」について、需要の平準化策は評価しながらも「各県に制度設計をまかせたことで、予約方法が異なるなど複雑な制度設計になってしまったところが残念だ」と指摘。中小の観光業者に向けては「コロナ禍で離れた人材の確保がカギになる」と述べました。
星野リゾートの星野佳路代表は2022年10月12日、オンラインで会見を開きました。11日から始まった国の観光支援策「全国旅行支援」について、需要の平準化策は評価しながらも「各県に制度設計をまかせたことで、予約方法が異なるなど複雑な制度設計になってしまったところが残念だ」と指摘。中小の観光業者に向けては「コロナ禍で離れた人材の確保がカギになる」と述べました。
全国旅行支援は、観光庁が発表した新たな観光需要喚起策です。1日1泊あたり8千円を上限に、旅行代金の40%が国の補助によって割り引かれます。また需要の分散のため、平日は3千円、休日は千円のクーポンがつきます。期間は10月11日からで、国は12月下旬まで実施する方針。近隣地域の旅行でしか使えなかった「県民割」とちがい、全国への旅行が補助の対象となります。
都道府県ごとに実施の判断ができるようになった一方、運営の詳細は各都道府県にゆだねられたことから、割引率やワクチン接種などの利用条件が地域によって異なる結果となりました。
星野代表は、平日と休日で金額に差をつけたクーポン券などは「需要の平準化策がもりこまれている」と評価しつつ、「複雑な制度のせいで、お客さんにも事業者にも予約の仕方がわかりにくくなっている」と指摘。同社独自の専用予約サイトを10月11日に立ち上げました。
サイトでは都道府県ごとの制度を確認し、各地にある星野リゾートの割引額や予約開始日が、一目でわかるようにしました。「お客さんがあまり考えずにさっと予約できる状態を目指している」といいます。
旅行支援が始まった10月11日には、外国人観光客の水際対策も大幅に緩和されました。
海外から日本に旅行にくるインバウンドだけでなく、日本国内から海外旅行にいくアウトバウンドも、今後は増加が見込まれます。日本人が多く海外に出て行くことも予想されるため、地域によっては需要が減る可能性もありますが、星野代表は「円安はインバウンドの戻りを早めるし、アウトバウンドの戻りを遅らせる効果がある。2023~24年における日本全体の観光の状況は悪くない。大きなチャンスがやってきているかもしれない」とみています。
コロナ禍前の日本のインバウンドは、東アジアからの観光客が7割を占めており、特定地域への依存が課題とされていました。
一方で現在はアジアに比べて、欧米のほうが国を越えた移動の制限が緩和されています。星野代表は「需要の平準化のため、特定の地域でなく世界から広く集客する必要がある。2019年の姿に戻すのではなく、新しいインバウンドにするという意味でよいチャンス。欧米からの集客がいま一番やりやすい時期なので、自治体などは欧米に向けて積極的な情報発信をするべき」と主張します。
インバウンドも徐々に復活し、「アフターコロナ」が見えてきました。今後、中小の観光事業者が力をいれるべきポイントはどこでしょうか。
「中小事業者はコロナ禍を耐え忍ぶため、政府が進めた実質無利子・無担保の融資を相当借りているので、バランスシート(BS)が傷んでいる。コロナ禍前の2019年の水準まで利益を戻すだけでは不十分で、融資を返済してBSを健全にするだけのパワフルな収益力をどう確保するかが重要になる」と言います。
加えて、「2019年の時にいた人材を、コロナ禍でかなり失っている事業者も多い。お金は借りればいいけれど、人材はいったん失うと回復まで3~5年かかる。インバウンドの回復に対応できる人材をどれだけ集められるかが、大事で難しい課題となる」と話しました。
国は全国旅行支援を12月下旬まで実施する方針です。観光需要が戻りつつある中、支援策をいつまで続けるべきでしょうか。
星野代表は支援の延長について「需要面を人工的にいじるのは非常に難しい。健全な競争環境を一時的に阻害することにもなるので、慎重に対応したほうがいい」との考えです。
これまで実施された「Go To トラベル」などを振り返っても、コロナの感染急拡大に左右され、キャンペーンの詳細は開始直前に発表されるのが常でした。通常、旅行は1~2カ月前に予約をいれることが多いため、「Go Toでも、既存の予約を(割引が適用できるプランに)買い替えるという動きが多くあった。もともと旅行に行く予定だった人たちの料金を国のお金で置き換えても、投入したお金ほどの経済効果はない。非常に難しさを実感した」と星野代表は言います。
コロナ禍で財務状況が傷んだ中小事業者のためには、自然と戻りつつある需要の喚起策よりも、別の手当てが必要になりそうです。「人材育成での投資や、観光事業者の体力の回復のため融資返済のサポートをするほうが、経済対策として効果的かもしれない」と話しました。
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