10億円の資金調達から経営破綻へ スタートアップ代表が語る失敗要因
自動車のアフターマーケットのデジタル化を掲げ、累計10億円の資金を調達したスタートアップ「MiddleField」が2021年夏に経営破綻に陥りました。何があったのかについて、元CEOの中山翔太さんに聞くと、大きく分けて2つの失敗要因が見えてきました。中山さんは今後、当初のビジョンに立ち返り「最高にエンターテイメントな次世代のモータースポーツを創る」事業を再スタートさせたいと考えています。
自動車のアフターマーケットのデジタル化を掲げ、累計10億円の資金を調達したスタートアップ「MiddleField」が2021年夏に経営破綻に陥りました。何があったのかについて、元CEOの中山翔太さんに聞くと、大きく分けて2つの失敗要因が見えてきました。中山さんは今後、当初のビジョンに立ち返り「最高にエンターテイメントな次世代のモータースポーツを創る」事業を再スタートさせたいと考えています。
目次
MiddleFieldの元CEO中山さんと初めて会ったのは2018年12月、スタートアップのピッチの場でした。起業から2年ほどが経過し、当時はまだDXブームが来る前。自動車のパーツの販売などアフターマーケットのデジタル化に取り組む事業内容を発表していました。
何十万点もあるカーパーツのなかから希望するパーツの在庫がある店舗を探し、自分の車に取り付けられる工場を見つけるのも一苦労。中山さんは、インターネットで気に入った車のパーツを買ったものの自分の車には適合せず、取り付けられなかったという声をよく聞いていたといいます。
そんな自動車ユーザーの課題を解決するため、車のパーツの購入から取り付けまでをトータルサポートするECサイト「モタガレ」(サイトは事業譲渡)などを立ち上げていました。強みは、各パーツに適合する車種・取り付けに関するデータベースをすでに構築していたところでした。
「若者の車離れ」が指摘されるなかでも自動車アフターマーケットの市場規模は約20兆円。前職は国内モータースポーツ業界で、コミュニティーづくりの大切さも感じていた中山さん。
「将来はみんながワクワクするモータースポーツをつくりたい」という熱意を語り、着実に事業を伸ばせるポテンシャルを感じさせるプレゼンだった印象がありました。
その後、中山さんは資金調達などに成功し、累計10億円を集めます。その後、順調に事業を伸ばしていると思っていましたが、2022年9月、中山さんがnoteに「スタートアップに大失敗した起業家がweb3に挑む話」という記事を投稿しているのに気づきました。
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結論から言いますと僕のスタートアップとしてのチャレンジは大失敗に終わりました。沢山の方々にご迷惑をおかけしました。信じてくれた仲間にも報いることができませんでした。目の前に終わりが来ているのに、時間は待ってはくれないし、何かを大胆に変えなくてはいけないのにすべてが後手に回る。思い返せばあの盤面になった時点で詰将棋のような状態だったのかもしれません。
すべて経営者である僕の責任です。
要因は多すぎてここには書ききれないくらいあり、スタートアップあるあるの悪い面をすべてやってしまってた感じです。今、思い返すとどこか心の隅ではわかっていたところもありました。でもそのときは正しいと思い込まなきゃいけなかったり、それでも何かを変えるためには手を打たなきゃ、と。
結果、MiddleFieldはシリーズCを乗り越えられずに実質解散となりました。
この4年間で何が起きたのか。中山さんに会って話を聞くことにしました。すると、壁を乗り越えられなかった2つの要因が見えてきました。
ECサイトからは事業収益が得られるようになっていました。ECサイトのモタガレに決済機能がついた2018年から1年で、流通総額は月150万円ほどになり、さらにその1年後には月1500万円ほどにまで伸びていました。その一方、今後の急成長が難しいことが見えてきていたといいます。
一方、スタートアップに求められるのは「非連続的な成長」。そのため、中山さんは「次のエクイティストーリー(投資家に説明する事業戦略や成長シナリオ)を作るしかありませんでした」と振り返ります。
より収益が得られる事業として、立ち上げたのが自動車のアフターマーケット業界のDX支援でした。電話やFAXが残る受発注をクラウドでやりとりできるよう支援する構想です。
ただし、これまでBtoCのメディア事業に取り組んでいたチームが、BtoB営業をできる組織へと変わる必要がありました。「それにも関わらず、創業事業であり、安定的な収益が得られるECサイトを手放せず、リソースが分散してしまい、思ったように数字が上がらない状況が続きました」
もう一つの要因として、社内のほかのメンバーとの間に溝が生まれてしまったことも大きかったといいます。中山さんが株主など社外の人と向き合う仕事を担当し、社内のマネジメントはほかの創業メンバーに任せていました。
役割分担により、ラインを一本化することで事業を効率的に回すためでしたが、中山さんが社外からのフィードバックを業務に反映したり、日々減っていく資金への危機感を共有したりする場を失ってしまっていたといいます。途中からは中山さんも組織のマネジメントに加わりましたが、すでに修正が難しくなっていたといいます。
2021年1月からは本格的に現場の指揮を取りつつ、同時に事業会社からの資金調達にも動いていました。
しかし、5億円の出資を検討していた企業から断りの連絡が入り、頼みにしていた株主からも追加出資を断られ、8月、いよいよMiddleFieldの運営資金が尽きようとしていました。ほかからも「出資を求めるならまず、まず個人で借り入れるのが前提だ」と言われたそうです。
眠れない日々が続き「その頃は絶望と希望がいったりきたり。なんとかなるかも?と思った矢先に崖に転落。それが1週間毎に繰り返す。精神的にも一番つらかったタイミングでした」とnoteでも当時を振り返っています。
そんなとき、株主の一人から「中山が一番大事にしたいものは何?」と問いかけられたそうです。そんなときに思い浮かんだのが、ずっと支えてくれた妻と7月に生まれたばかりの子どもでした。「家族です」と答え、会社をたたむ決意が固まりました。
起業したころ、中山さんの目標は「最高にエンターテイメントな次世代のモータースポーツを創る」ことでした。しかし、MiddleFieldを存続させるための資金繰りに追われ、そんな目標も考える余裕すらなかったのですが、最近になってふと原点を振り返ることができるようになってきたといいます。
NFT (Non-Fungible Token)を使いつつ、ファンコミュニティーのある次世代モータースポーツが実現できないか構想を練っているそうです。
事業は失敗に終わった中山さんですが、noteでは次のように締めくくっています。
「人生をロングタームで見てこのまま悲劇とするか喜劇とするかは結局、自分次第。1回しかない自分の人生は自分自身でストーリーをつくるから楽しめると信じてこれからも突き進んでいきたいと思います」
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