政府の総合経済対策とは 物価高騰や円安対策へ財政支出は総額39兆円
岸田文雄首相は2022年10月28日、首相官邸で記者会見し、閣議決定した「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」について説明しました。物価高・円安への対応、構造的な賃上げなどを重点分野としています。財政投融資などを含む財政支出は総額39兆円に上り、民間が使うお金を含めると事業規模は71.6兆円、今後の実質国内総生産(GDP)を4.6%押し上げる効果があると説明しています。
岸田文雄首相は2022年10月28日、首相官邸で記者会見し、閣議決定した「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」について説明しました。物価高・円安への対応、構造的な賃上げなどを重点分野としています。財政投融資などを含む財政支出は総額39兆円に上り、民間が使うお金を含めると事業規模は71.6兆円、今後の実質国内総生産(GDP)を4.6%押し上げる効果があると説明しています。
目次
エネルギー・食料品の価格上昇が国民生活・経済活動に大きな影響を与えています。世界的にも物価が高騰し、金融引き締めの影響などから景気後退懸念が高まっています。
こうしたなか、政府は10月28日、物価高・円安への対応、構造的な賃上げ、成長のための投資と改革に向けた「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を閣議決定しました。閣議決定の文書は、内閣府の公式サイトで見ることができます。
とくに岸田首相は記者会見で、物価高騰への対策を強調しました。
物価対策として重点を置いたのは、エネルギー価格対策です。もろもろの物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガスに集中的な激変緩和措置を講じることで、欧米のように10%ものインフレ状態にならないよう皆さんの生活を守ります。まず、物価高から生活を守ります。家庭の電気代について、1月から来年度初頭に想定される平均的な料金引上げ額約2割分を国において負担いたします。
岸田内閣総理大臣記者会見(首相官邸公式サイト)
賃上げについては「来年春闘が成長と分配の好循環に入れるかどうかの天王山です」と話し、経団連、連合を巻き込んだガイドラインづくりなど、労使の機運醸成に努めることを明らかにしました。
総合経済対策の裏付けとして、2022年度第2次補正予算案を一般会計で29.1兆円計上しました。財政投融資などを含む財政支出は総額39兆円に上り、さらに民間が使うお金を含めると、事業規模は71.6兆円程度となり、今後の実質国内総生産(GDP)を4.6%押し上げる効果があると説明しています。
一方、2023年前半で1世帯あたり4.5万円の電気・ガス料金の負担を軽減することなどで、消費者物価は1.2%程度の抑制が見込まれると説明しています。
閣議決定した総合経済対策のうち、中小企業に関わりの深い部分を中心に整理します。まずは、物価高騰対策と賃上げについてです。
総合経済対策では、「2023年春以降の急激な電気料金の上昇によって影響を受ける家計や価格転嫁の困難な企業の負担を直接的に軽減する、前例のない思い切った対策を講ずる」として危機に強い経済構造への転換について掲げています。
危機に強いエネルギー供給体制の構築……LNG安定供給体制強化、省エネ抜本強化(企業の省エネ機器・設備導入支援を3年間で集中支援、住宅リフォーム省エネ支援)、ゼロエミッション電源活用(再エネ・蓄電池導入加速、原発10数基再稼働、次世代革新炉開発・建設について、年末に向け、議論加速)
危機に強い食料品供給体制の構築……肥料(下水汚泥資源・堆肥等活用等)・飼料(稲作農家と畜産農家の連携等)国産化、大豆・小麦等の国内産への切り替え
賃上げに伴い、中小企業への支援も盛り込みました。「目下の物価上昇に対する最大の処方箋は、物価上昇を十分にカバーする継続的な賃上げを実現することである」としつつ、厳しい状況にあっても賃上げに踏み出す中小企業への支援策を強化する方針です。
具体的には次のような政策が挙げられています。
賃上げの促進……来春の賃金交渉では、物価上昇をカバーする賃上げを目標、中堅・中小企業等の賃上げ支援大幅拡充(事業再構築補助金、中小企業生産性革命事業等)、同一労働同一賃金遵守徹底
中小企業等の賃上げ環境整備……適切な価格転嫁に向けた整備(公取委等の体制強化、独禁法・下請代金法のより厳正な執行等)、 弾力的かつ複数年度にわたって継続的な事業再構築・生産性向上への挑戦・円滑な事業承継・引継ぎを強力に支援。信用保証制度において、借換え需要に加え、新たな資金需要にも対応する制度を創設
円安を生かした経済対策として、観光政策と経済構造の強靱化を掲げています。
新型コロナの水際対策の抜本緩和を機に、戦略的なプロモーションと観光産業の高付加価値化を通じ、コロナ禍で失われた5兆円のインバウンド需要を復活させるとともに、国内観光やイベント需要の喚起、文化芸術・スポーツの振興等によりコロナ禍からの需要回復、地域経済の活性化を図ることを掲げています。
具体的には次のような政策が挙げられています。
観光立国の復活……インバウンド消費年間5兆円超の速やかな達成に向けた集中パッケージ推進、新たな「観光立国推進基本計画」策定。観光地・観光産業の再生・高付加価値化、戦略的な訪日プロモーション、コンテンツ海外展開促進、国内観光活性化
地域活性化……エンターテイメントや商店街等の各種イベントへの支援等による需要喚起。文化芸術活動・こどもの文化芸術鑑賞・体験支援、文化資源の戦略的活用、スポーツ振興。農業産地・畜産・水産業等の生産基盤の維持・強化、木材産業国際競争力強化対策。インフラの戦略的・計画的整備、コンパクトでゆとりとにぎわいのあるまちづくり、都市再生、条件不利地域の振興
経済構造の強靱化は具体的に「半導体や蓄電池などの戦略物資のサプライチェーンを再構築し、海外が我が国に期待する物資の供給力強化のための工場立地や企業の国内回帰など、国内での攻めの投資に対する思い切った支援を行う」と説明しています。政策としては次の通りです。
海外から我が国が期待される物資の供給力強化と輸出拡大……日米共同の次世代半導体技術開発、先端半導体など重要先端技術分野で国際協調による投資拡大、重要物資の国内生産能力強化
企業の国内投資回帰と対内直接投資拡大……サプライチェーンの途絶によるリスクが大きい重要な製品・部素材等の国内生産拠点整備支援、対内直接投資促進
中小企業等の輸出拡大……「新規輸出中小企業1万者支援プログラム」の推進
農林水産物の輸出拡大……2025年2兆円輸出目標の前倒し(専門人材による伴走支援や輸出のための施設整備支援、品目団体による輸出力強化、輸出支援体制確立、農林水産・食品関連スタートアップ支援、品種流出防止等)
総合経済対策では「非連続的なイノベーションの原動力となるのは人であり、官民連携でリスキリングと成長分野への投資を推進し、構造的賃上げと成長力の強化を図る」ことを掲げています。具体的には次の通りです。
人への投資の強化と労働移動の円滑化、多様な働き方などの推進、人的資本に関する企業統治改革として、次のような政策を掲げています。
成長分野への投資としては次のような政策も掲げています。
科学技術・イノベーション……重要技術の育成、国際共同研究強化(量子、AI等)、若手研究者による挑戦的・国際的研究の支援、宇宙・海洋・原子力・核融合の研究開発、地域の中核大学や特色ある大学の強化、2025年大阪・関西万博の円滑な実施
スタートアップの起業加速……5年10倍増を視野に5ヵ年計画策定。立上げ期の人的・ネットワーク面での支援(未踏事業拡大、若手人材の海外派遣、海外における起業家育成拠点創設、1大学1IPO運動、グローバル・スタートアップキャンパス構想具体化等)、成長に向けた資金供給強化と事業展開・出口戦略の多様化(研究開発型スタートアップへの支援、SBIRの拡充等)
GX(グリーン・トランスフォーメーション)……GI基金拡充、革新的GX技術の研究開発促進、アジア・ゼロエミッション共同体構想推進。 成長に資する施策は、足元のエネルギー価格高騰への対策の必要性も踏まえつつ、年末までにまとめる「10年ロードマップ」に基づく政府投資の一環として先行実施
DX(デジタル・トランスフォーメーション)……Beyond5G(6G)研究開発、マイナンバーカード普及促進(健康保険証等と一体化加速等)、中小企業DX、医療・介護DX(オンライン資格確認用途拡大等)、教育DX、デジタル田園都市国家構想推進、日米共同の次世代半導体技術開発
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