倒産危機から起死回生のラーメン自販機 丸山製麺3代目のベンチャー魂
業務用の麺類製造を手がける丸山製麺(東京都大田区)は、サイバーエージェントグループから家業に入った3代目の丸山晃司さん(35)が、居酒屋経営や麺の通販など、BtoC向けの新規事業を次々と立ち上げました。コロナ禍では倒産危機に陥りましたが、ベンチャー魂を大切に自身が発案した冷凍ラーメン自動販売機「ヌードルツアーズ」を全国144カ所に広げ、家業の柱に育てようとしています。
業務用の麺類製造を手がける丸山製麺(東京都大田区)は、サイバーエージェントグループから家業に入った3代目の丸山晃司さん(35)が、居酒屋経営や麺の通販など、BtoC向けの新規事業を次々と立ち上げました。コロナ禍では倒産危機に陥りましたが、ベンチャー魂を大切に自身が発案した冷凍ラーメン自動販売機「ヌードルツアーズ」を全国144カ所に広げ、家業の柱に育てようとしています。
目次
丸山製麺は1958年、業務用の製麺卸業として創業。そばやうどん・中華麺のほか、ワンタンやシューマイの皮などを作っています。
「従業員60人中8人が製麺技能士という国家資格を取得し、常に安定した品質を保っています。社員食堂などから仕入れ先として選ばれているのが強みです」
現在は1日4万食を製造し、首都圏を中心に飲食店など約3千カ所に卸しています。年商は約10億円にのぼります。
丸山さんが子どものころは工場の上に自宅があり、家に帰ると必ず従業員がいました。「工場なので父はスーツを着ておらず、私もスーツを着て働きたくないと漠然と思っていました。長男ですし将来の夢に『社長』と書いたので、いずれうちに戻ると刷り込まれていたと思います」
大学に入ると丸山さんは学生団体を作ったり学生起業をしたり、家業に戻ることを見据えて行動に移します。創業者の祖父には「30歳で戻る」と宣言しました。
「戻るまでのキャリアを考えた時、若いうちから意思決定権を持てるネットベンチャーで経験を積みたいと考えました」
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丸山さんはサイバーエージェントのグループ会社に就職し、営業や採用面接のマネジメント、新規事業の立ち上げに携わります。「データを使って広告を配信する事業などを担いました。会社も私が思い描くキャリアプランを把握していて、そのための経験を積ませてくれました」
丸山さんは宣言通り30歳で退社し、18年1月に家業に入りました。
取締役として家業に入った丸山さんは製造現場に入りながら、主要クライアントにも営業をかけ、現状把握に努めました。
「ネット業界は5年で会社や事業が消えることもある中、ワンプロダクトで60年も事業を続けているのは奇跡で、歴史を積み上げてきたと感じました」
一方、ネット業界を経験したからこその課題も見えてきました。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)されている業務が少なく、紙や口頭での依頼で記録が残らないため、その人に聞かなければわからないことが多々ありました。福利厚生も遅れていて、大企業を経験している人がいないこともあり、まだまだ会社組織になっていないと感じました」
丸山さんはまず社内環境を整備します。ウォーターサーバーを導入し、オフィスフロアの椅子を柔らかいものに一新しました。
20年ごろからはネット環境も整備し、iPadで出勤管理を進めたほか、発注ツールをネット化し、業務のやりとりも紙からチャットツールに変えました。
「早番は朝4時から勤務し、遅番の従業員と会えないこともよくあります。従業員は最初は戸惑っていましたが、全体で何が起こっているかを共有するために、情報の見える化が大事だと考えました」
家業に戻ったころは業績が良く、あえて新規事業をやらなくてもよかったと、丸山さんは振り返ります。
「ただ将来の成長を考えると、BtoCへの拡大は必要だと思っていました。新規事業をやるために家業に戻ったようなものだったので、事業を考えては社長の父に提案していました」
最初は父からの許可がなかなかもらえませんでした。BtoB商品を消費者向けにするにはパッケージを変える必要があり、コストがかかるためです。「リスクの方が大きく見えていたのだと思います」
ようやく許可がおりた事業が、18年秋に進めたうどん居酒屋のM&Aです。自社のうどん麺をそのまま卸すため業態変更する必要がなく、少ないリスクで事業を拡大できました。
「うどんならラーメンと比べて大手が少なく店舗数も少ない。汎用性があり差別化もしやすいと、父を説得しました」
居酒屋は翌19年には大手グルメサイトの100名店に入り、コロナ禍前の19年末まで、売り上げはM&A前と比べて120%と伸びていました。
しかし、新型コロナウイルスの流行で状況は一変します。1度目の緊急事態宣言で卸先の飲食店が軒並み休業したため、売り上げが8割も減ったのです。
「食品製造業には飲食店のように手厚い休業補償がなかったうえ、うちは正社員が多く固定費がかさむので赤字が増えていきました」
宣言解除後もコロナ禍前の半分までしか売り上げが戻りません。「量は減っても発注はあるので休むわけにもいきません。従業員の出社を半分にして稼働し続けました」
各種補助金はすべて利用しコストも見直しましたが、それでも資金繰りは苦しく、あと半年で倒産する可能性があるところまで追い込まれました。
丸山さんは新たな収入源を求め、新規事業を次々と打ち出します。20年5月からは月1回、社屋の前で生麺の直売を始めました。チラシなどで宣伝して初日は200~300人が列を作り、4時間待ちの大盛況となりました。
「地域の方にも思いのほか認知されていたと気付きました。消費者から直接『生麺おいしいね』とお声がけ頂くのも初めてで、やって良かったです」。直売は21年12月まで続き、常連客もつくほど人気を博しました。
自宅などでの内食需要を踏まえ、20年4月から始めたのが麺の通販でした。「出荷量は月400万円~500万円分くらいで、売り上げ全体に占める割合としては微々たるものです。でも仕事があることで社員のモチベーションも上がりました」
始めてすぐに課題も見えてきました。送料がかかるため、消費者が元を取ろうとすると麺を大量に注文しなければならず、買いにくい状況になっていたのです。
そこで、20年5月から有名ラーメン店とコラボレーションした冷凍ラーメンの通販を始めました。「スープとセットにして商品の単価を上げれば、例えば麺30玉を一度に頼むより買いやすいと考えました」
丸山さんはコロナ禍前から家業の売り上げを伸ばすにはラーメンのシェア増加が必須と見越し、各地のラーメンフェスにスタッフとして帯同していました。そこで出会ったラーメン店からパック詰めされたスープを仕入れ、自社の麺とセットで販売したのです。
「普通の営業とは違う出会い方をしようと考えました。店側も卸売りで新たな収入源を得られるメリットがあったため、賛同してくれました」
製麺業を営んでいるとはいえ、既存の麺ではなく、それぞれの店の麺に近いものを新たに開発する必要がありました。丸山さんたちは、麺の味や食感だけでなく、色味まで再現できるよう1店舗ずつ研究を重ね、店主が納得するまで試食会を何度も繰り返しました。
中には、目隠しをした状態で食べ比べる「ブラインド試食」を行った店もありました。その再現度の高さが評判を呼び、今では24店の冷凍ラーメンを販売しています。
一方、20年11月から半年間展開したうどんのサブスクは、なかなか伸びなかったといいます。
小麦粉の品種の違いを知ってほしいと、毎月異なる粉で作られたうどんが届くサービスでしたが「内容がニッチすぎて利用者が増えませんでした」。
それでもコロナ禍以降、どんな形でも売り上げを作らなければ会社の存続が危うい状況になったことで、新規事業の提案が通りやすくなったといいます。
同時に多数の事業を手がけていた丸山さんは、社長の許可を取らずに事後報告で進めたものもありました。
「新規事業はたくさんやらなければ当たりません。いくつもやるうちに内容が磨かれるので作り続けることが大事です。コロナ禍で変化にどう対応できたかが大きな差になったと思います」
通販事業の人気が出始めた中、再び課題も浮かびました。大手通販サイトの送料無料に慣れている顧客は送料があるだけで高く感じるため、まとめ買いをする層以外は逃してしまいます。そこで1食から買える方法を模索していました。
自社での直売も日曜だったので仕事で来られないという声があったほか、従業員にも休日出勤の負担がかかるため、無人で24時間売ることができないか考えていました。
そんな時、取引先から大きいサイズの品を売ることができる最新の自動販売機の情報を教えてもらいました。
「最初はピンと来ていませんでしたが、この方法なら課題を解決できるのではないかと。社長からは赤字にならなければいいと言われたので、反応を見るためにうちの工場の下に1台置いてみたんです」
こうして21年3月、冷凍ラーメンの自販機「ヌードルツアーズ」が誕生しました。
すると翌日から有名ユーチューバーが撮影に来るなど、ネット上で口コミが広がりました。さらに、20年5月ごろから強化していた自社のツイッターも駆使し、フォローとリツイートでギフト券が当たるキャンペーンを同時に展開するなど、PRも積極的に行いました。
地元企業とのコラボラーメン発売などを進め、プレスリリースも積極的に出すことでヌードルツアーズはさらに注目され、自販機の設置依頼が次々と舞い込むようになりました。
現在は北海道から沖縄まで26都府県に144台の自販機を設置しています。「都内近郊は山手線の外側、地方はロードサイドに置いています。自販機は人件費がかからず、1度買えば10年は働きますからコストも安く済むんです」
ヌードルツアーズ事業は売り上げ全体の2~3割を占めるまでに成長。会社の売り上げはコロナ禍前の水準まで回復しました。
「当初は社内でも事業が始まったことすら知られていませんでしたが、今は柱として評価されています。年内に200台設置するのが目標で、全都道府県に最低1台は置きたいです」
丸山さんは事業承継の時期をまだ決めておらず、父とも話していないといいます。「ただいつ継いでも大丈夫という状態にしたいと思い、日々取り組んでいます」
製麺業界はレガシー業界とも言われ、後継者不足が課題です。丸山さんは時代に合わせたIT化とマーケティングを意識することが重要と考えています。
「ただおいしいものを作っただけでは商品は売れません。どう知ってもらうかが大事で、そのためにはIT化と適切なマーケティングで会社が再生することを知ってほしい。それができる若手が家業に戻ってくれば、業界全体も盛り上がるのではないでしょうか」
「今後5年で会社の売り上げを今と比べて倍増の20億円を目指す」と力強く話す若き3代目。飽くなきベンチャー精神で事業を磨き続けます。
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