組織を円滑にするルールと目標の作り方 後継ぎに必要な断固たる姿勢
円滑な組織運営で欠かせないのが、正しいルールの設定と適切な目標管理です。コンサルティング会社「識学」上席コンサルタントの山下智史さんは、家族や親族が社内にいることが多いファミリービジネスでも「組織のルールや評価制度は誰であろうが同じように適用するべき」と説きます。後継ぎ経営者向けに、ルール設定と目標管理の勘所を解説します。
円滑な組織運営で欠かせないのが、正しいルールの設定と適切な目標管理です。コンサルティング会社「識学」上席コンサルタントの山下智史さんは、家族や親族が社内にいることが多いファミリービジネスでも「組織のルールや評価制度は誰であろうが同じように適用するべき」と説きます。後継ぎ経営者向けに、ルール設定と目標管理の勘所を解説します。
ファミリービジネスの経営者のなかに、社員として働いている自分の家族や親族を特別扱いしている人はいないでしょうか。血がつながっていようがいまいが、社員を平等に扱うことが組織運営の原則です。
ファミリービジネスでは特に、ルール違反をしたときと目標を達成できなかったときに経営者一族の特別扱いが起きやすい面があります。本記事では「ルール設定」と「目標管理」に焦点を当てます。
まずは、ルール設定のポイントは以下の二つになります。
1.について説明します。例えば「出社したら所定の位置に立ち、一番奥に座る人にまで聞こえる大きさの声であいさつをする」というルールがあったとします。このように、守ろうとする意思があれば誰でも守れるルールを、我々は「姿勢のルール」と呼んでいます。
これに対し「営業部の社員は毎月100万円を売り上げなければならない」だと、個人の経験やスキルによって守れない人も出てくるでしょう。これらは、会社のルールにすべきではありません。
2.については、誰が見ても違反したかどうか分かるルールにするべきという意味です。「外出時と帰社時には机の上に何もない状態にする」という内容ならいいですが、「机の上は常に整理整頓をしておく」というルールならどうでしょうか。
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一見何の問題もなさそうに見えますが、「整理整頓」とはどんな状態なのかが不明確です。部下が整理整頓したつもりでも、上司である自分からはそう見えないということもあるでしょう。そのようなことを注意しても、部下はどうすればよいか迷ってしまいます。
姿勢のルールは、運用を開始したその日から厳格に守らせなければなりません。「時間をかけてだんだんとルールを守る文化を醸成していく」という姿勢では、組織改善は遅々として進まないでしょう。
特に経営者の家族や親族は「ルール違反をしても自分は許される」という思いを抱きがちです。しかし、姿勢のルールを違反したなら、誰であろうと都度指摘してください。
仮に「社長の弟だから」という理由でルール違反をとがめられない社員がいたとします。すると「あの人だけ特別扱いされるのはおかしい。それなら私だってルールなんか守らなくても許されるはず」などと考える社員が出てきます。
こうなってしまえば、ルールが機能しなくなり、遅かれ早かれ組織は立ち行かなくなるでしょう。
我々は「人をマネジメントしてはいけない。事実でマネジメントしましょう」とお伝えしています。
よく「何度言っても直らないから注意するのをやめてしまった」という経営者がいますが、それではいけません。守るまで何度も言い続けるのです。1.と2.の条件を満たすルールであれば、違反の言い訳はできないはずです。
とはいえ、一度設定したルールは変更することがあっても問題はありません。組織運営の実態に即していなければ、社員がルール変更を求めることもできるようにすればよいのです。
次に、目標管理のやり方について見ていきましょう。目標もルールと同様に誰の目から見ても達成可否が分かるようにします。つまり、期限と状態を明確にするのです。これを「完全結果」と呼びます。
例えば「10キロを一生懸命走る」という目標では、一生懸命走ったかどうかは人によって解釈が分かれてしまいます。
これが「10キロを60分で走る」という完全結果なら、評価者が誰であれ、60分後に目標を達成したかどうかは分かります。こうすることで、部下が「評価に納得できない」という不満を抱くことはなくなり、「公平性を期すため」という理由で、1人の社員を何人もの上司が評価するような無駄を省くことができます。
その上で、目標は上位者から順に決めていきましょう。識学であれば、営業本部長が数人いる営業部長たちの目標を決め、各部長は自分に与えられた目標を達成するために課長たちの目標を設定する。課長以下も同じように部下に目標設定をする、という流れです。
識学では、3カ月間ごとの目標設定を推奨しています。時代はものすごいスピードで変化していますから、半年に一度だと環境変化に対応できない恐れがあるためです。
また、社員にしてみれば、仕事でうまくいかなかったことがあったとしても、3カ月でまた新しいスタートが切れますから、気持ちを切り替えやすくなります。
3カ月の目標を達成するために、毎月、毎週の目標を順に定めていくとよいでしょう。経営者を含め、上司の立場にいる人は毎週会議を開催し、週次目標の達成確認をしてください。
その際、部下が目標を達成してもほめ過ぎないことです。目標達成はすごいことなのだと勘違いする恐れがあるからです。
目標を達成できなかったときは、言い訳を聞くのではなくどうやって改善するつもりなのかを尋ねましょう。上司が改善策を提示するのではなく、部下自身に考えさせるのです。
そのとき「気合を入れて頑張ります」といった精神論ではなく、数字で話をさせます。
例えば「先週は5人にお会いし、2件受注しました。今週は10人に会い、先週と同じ受注率をキープできれば目標達成できると思います」という話なら問題ありません。この行動変化が妥当なものになるまで、何度でもやり直しをさせます。
「達成できなくても頭を下げれば済むだろう」といったように、会議の場さえ乗り切ればいいという考えで許されてきた経験を持つ人は、その殻をいつまでも破ることはできません。自分で考えてこない限り、そもそも会議に出てくる資格もないことを自覚させましょう。
もし「社長の親戚だから」という理由で、他の社員と比べて目標が甘く設定されたり、目標未達が許されたりしている会社があるとすれば、長続きはしません。社員のやる気はそがれ、離職は止められないでしょう。
最後に筆者が実際にコンサルティングした企業の事例を紹介します。
その企業では長い歴史の中で、何のためにやっているかわからない業務が暗黙のルールとして残っていました。例えば、日報は必ず手書きで上司に手渡し、大事な相談事は対面でするといったことなどです。
このことによって二つの問題が生じていました。
これらの問題の改善を図った結果、明文化されていないルールはすべて「守る必要がないもの」と位置付け、本当に業務に必要なものだけを残して明文化。これによってロスタイムが減り、業績改善につながりました。
以上、ルール設定や目標管理の勘所についてご説明しました。組織のルールや評価制度は、誰であろうが社員全員に同じように適用することが原則です。特にファミリービジネスではこの原則が破られやすいため、組織改善を図りたい後継ぎ経営者は、断固たる姿勢で臨んでください。
株式会社識学 営業本部長/上席コンサルタント
早稲田大学法学部卒業後、新卒で読売新聞東京本社に入社。入社後は販売局に在籍し、販売店の経営者に対してマネジメント業務を行う。同社で12年ほど経験を積んだ後、識学に入社し、講師としてのキャリアをスタート。入社したその月のうちに営業受注最短記録を樹立し、目標達成率1000%をたたき出した。
(※構成・平沢元嗣)
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