目次

  1. パンパンに膨らんだ名刺入れ
  2. 日本唯一のエボナイト製造工場
  3. 伯父が倒れて迷わず家業に
  4. 「虫がよすぎる」とたしなめられ
  5. 3年かけて開発した万年筆
  6. 最盛期の売り上げに戻す
  7. 「向こう三軒両隣」のつながりを
  8. 国際的なビジネスフェアも企画
  9. 「後を継ぐことができて誇りに」

 東京最後のチンチン電車、都電荒川線の起点となる三ノ輪。町工場と住宅のあいだを縫うように道がうねる、ざっかけない街並みが広がります。日興エボナイト製造所はそんな街の一角にひっそりとたたずんでいました。

 急な階段を上がって事務所の戸を開ければ、昭和の時代から時をとめてしまったかのような空間があらわれました。

事務所でインタビューに答える遠藤さん

 簡素で雑多な応接スペースで従業員とのにぎやかなやりとりを聞くともなしに聞いていると、ほどなく名刺交換の運びに。顔写真入りの情報量の多い名刺もさることながら、目を奪われたのはパンパンに膨らんだ革製の名刺入れでした。おそらく、100枚は入っているんじゃないでしょうか。

 こちらの視線に気づいた遠藤さんは「名刺を使う機会と言えば、むかしは取引先の担当が変わるときくらいだったんですけれどね」と笑いました。

 遠藤さんは大学を卒業すると一部上場の企業に就職しました。当時、家業のことはまったく頭になかったそうです。

 「右肩下がりの商売だし、親族で経営する会社は窮屈だろうから継がなくていいと両親も言っていました」

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