部署間対立を解消して成果を上げるには 組織づくりのポイントを解説
営業と製造、開発と経理といったように、同じ会社でも部署間で利害が食い違うケースは少なくないでしょう。しかし、本来一丸となって歩みを進めるべき仲間同士がいさかいを起こしたら、業績の拡大など期待できるはずがありません。組織コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント・奥田拓之さんが、部署間の対立を解消するための仕組みと成果を上げるためのポイントについて、実例を紹介しながら解説します。
営業と製造、開発と経理といったように、同じ会社でも部署間で利害が食い違うケースは少なくないでしょう。しかし、本来一丸となって歩みを進めるべき仲間同士がいさかいを起こしたら、業績の拡大など期待できるはずがありません。組織コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント・奥田拓之さんが、部署間の対立を解消するための仕組みと成果を上げるためのポイントについて、実例を紹介しながら解説します。
皆さんの会社では、社員がこのような不満を抱えていないでしょうか。部署間の対立は、間違いなく解消しなければいけないのが前提です。だからといって対立が起きている事実を悲観し過ぎることはありません。各部署が自分たちの責任を果たそうと努力しているからこそ、意見の違いが起きるのです。
問題なのは、社員が自分たちの責任を理解しないままだらだらと仕事をこなしている状態です。「誰かがやればいいだろう」という他責思考に全員が陥っているため、対立は起きません。この方がよほど問題です。
社員の他責思考を防ぐため、経営者は目標の達成度合いに応じて評価が上下する制度を整えましょう。そして、各部の部長に明確な目標を設定したら、部長以下にも同様に部下の目標設定をさせるのです。
給与が上がるだけでなく下がる仕組みがあることで、社員は自らの責任を果たそうとします。この「マイナス評価」がなく、目標未達をゼロと見なす会社に筆者は数多く出会ってきましたが、これだと社員が「目標未達でも別にいいか」という思考を抱きやすくなるのです。
経営者が部署間の対立を認識したら、各部長に対して相手(他部署)に何をしてほしいかヒアリングします。メンバーの個人的見解や不平不満を集めるのではなく、事実情報を根拠と一緒に上げさせましょう。そして、他部署への要求が通って権限を獲得できた場合、部としてどこまで成果を出せるのかも報告させます。つまり、責任を与えるわけです。そこまでしないと経営者としての判断を誤ってしまいます。
ある原材料メーカーで起きていた部署間対立の事例を紹介します。
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その会社は最近の物価高騰のあおりを受け利益率が下がっており、経営者は、原材料費の低減、製造ロスの削減、顧客への値上げ交渉の三つに取り組もうとしました。
これに関係するのは開発部、製造部、営業部の三つの部署です。経営者に聞くと、各部署の目標も責任も決めていなかったとのことで、案の定全くうまくいっていませんでした。
開発部はこだわりが強い組織で「原材料の種類や配合を変えると品質が下がる恐れがある」の一点張り。製造部は「営業がどれだけ売るか分からず、需要の予測が難しいのに製造ロスを減らせるわけがない」と訴え、営業部は「何の交渉材料もないのに顧客に値上げを認めさせるなんて無理だ」と主張していました。
この問題を解決するため、取り組んでもらったのは各部署の目標と権限の整理です。
まず、開発部は現在顧客に納品している原材料のなかで、統廃合できるものを探りました。これは、今までA、B、C、Dの四つが必要だった製品について、比率を変えてクオリティーを維持したままA、B、Cの三つに絞るといった検討です。
実際、思い込みが強かっただけで原材料を統合する余地はかなりあったので、開発部はこの数について目標を定めました。
営業部は値上げ交渉を実施する件数を決め、開発部が見直した材料を持って値上げ交渉に臨みました。「この材料に変えてくれたら値上げはしなくて大丈夫です。今の材料のままであれば値上げさせてください」と主張することで、営業側も交渉しやすくなりました。
また、営業部では売り上げ目標も設定しました。製造部は営業部の売り上げ目標をもとに製造計画を立てることができるようになりますが、同社ではこの予測のずれが原因で発生したロスは製造部の責任ではないという形にして、製造部の責任は「オペレーション上のロスだけ」と定義したのです。
その結果、3~4カ月の間に仕入れ値と管理費用が下がって原材料費も製造ロスも減りました。営業の値上げ交渉もうまくいき、全体の利益率は2%上昇したのです。
ここからは、異なる部署に属するメンバーを集めて実施するチームプロジェクトの留意点について解説します。
最近ではチームプロジェクト制を採用する企業も増えているようですが、何の成果もなく終わりを迎えてしまうケースも少なくありません。
成功させるためのポイントは四つあります。
まずは、やはり目標設定です。ゴールが分からなければ正しい努力ができません。いつまでに何をするためのチームか、経営者が決めましょう。
二つ目は、メンバーの選定と同時にリーダーを1人指名することです。メンバーの意見が割れたときに責任を持って決断する人がいないと、プロジェクトが遅々として進みません。責任の所在もあいまいになり、プロジェクトが失敗に終わったとき、責任のなすりつけ合いが起きます。
リーダーにはメンバーのなかで最も立場が上の人を、経営者が選んでください。例えば、A部署の部長、B部署の課長、C部署の係長がいるなら、A部長がリーダーを務めるイメージです。B課長がリーダーになると、A部長に対して指示・命令をするうちに、自らが部長以上に偉くなったと勘違いする恐れがあります。
三つ目は、異なる部署のメンバーに業務を指示するときのルールを事前に決めておくことです。例えば、A部署のメンバーからB部署のメンバーに仕事を任せる際、「あらかじめ決められた範囲内の依頼しか認めません」というルールにしておかないと、B部署の仕事の負担が増え過ぎたとき、B部署の本来の管理職によるマネジメントがうまく機能しなくなります。
最後のポイントは評価です。チームプロジェクトに参加したメンバーの評価は、本来の所属部署の上司にさせましょう。プロジェクトリーダーのA部長には、B課長やC係長らの働きについて各評価者へ報告してもらいます。A部長がプロジェクトメンバーの評価までしようとすれば、ややこしくなるだけでお勧めしません。
プロジェクトチームの進め方について、もう一つの事例を紹介します。
ある会社では、久しぶりに新卒採用を開始しました。その際、OJTが負担になるという判断で、人事部、カスタマーサポート部のメンバーで構成された教育チームを編成。半年間で新人15人を育成するプロジェクトを行いました。
リーダーには役員であったカスタマーサポート部の部長が就き、「6カ月後までに、新人が各配属先で先輩のサポートなく働ける状態にする」という責任を負ったのです。
人事部のメンバーは会社全体のルールや社会人としての知識を伝え、カスタマーサポート部のメンバーが自社のサービスや商品の知識を教えるといった形で役割分担しました。
このとき、リーダーは半年間で身に付けてもらいたい能力をマルとバツが付けられる形でリストアップしたうえで、各担当者に振り分け、いつまでにどこまで習得させるかという計画を立てて、プロジェクトを進めました。
各メンバーは毎週の進捗状況をリーダーに報告。遅れが生じた際はすぐに修正させる形で無事プロジェクトは成功しました。このときは離職者も出ましたが、育成プロジェクトチームのメンバーはその責任を負いませんでした。育成チームのせいで離職したかは分からないからです。
以上、部署間の対立を解消するための仕組み作りについて解説しました。この仕組み作りは経営者にしかできません。社員全員が一丸となって働けるように、経営者が自らの役目をしっかりと果たしてください。
識学シニアコンサルタント 営業部係長
東京都出身。早稲田大学商学部在学中にプロモーション系のベンチャー企業に入社。その後、国内最大手の広告会社AE、全国紙関連企業の営業企画部長を経験。日々マネジメントに四苦八苦する中で識学に出会い、原理原則に共感して入社。
(※構成・平沢元嗣)
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