目次

  1. リース会計基準とは
  2. リース会計基準が2026年に改正される予定
    1. リース会計基準が改正される目的
    2. 新リース会計基準の変更ポイント 
  3. リース会計基準の改正と仕訳の具体例
    1. オンバランス処理に関する仕訳
    2. リース期間が延長された場合
    3. 今までオペレーティングリースとして処理していたものの適用初年度
  4. リース会計基準の改正が与える影響
    1. 固定資産、負債の管理が煩雑になる
    2. 自己資本比率が低下する
    3. 税法への対応
    4. 中小企業に適用する基準等の改正
  5. リース会計基準の改正に向けて必要な準備
    1. 対象となる取引を特定する
    2. 影響額を算定する
    3. 自社の方針を検討する
    4. 関係箇所との調整をおこなう
    5. 自社の経理規程などを改訂する
    6. システムや経理用の資料を改修する
    7. トライアルで財務諸表を作成する
  6. 新リース会計基準への準備は早めに

 リース会計基準とは、企業がリースを利用した際に採用する会計基準です。このリースとは、リース契約を締結して、機械装置などの高額な固定資産を導入することを指します。

 現状の日本で適用されているリース会計基準は、1993年6月に初めて公表・適用されました。その後、リースを採用する企業が増えたことから、企業会計基準委員会が1993年のリース会計基準を2007年3月30日に大幅に改正しました。2008年4月1日から開始される事業年度から適用が開始され、現在に至るまでこの会計基準が適用されています。

 日本の会計基準が参考にしているのは、IFRS(international Financial Reporting Standard)とアメリカの会計基準です。IFRSは、ヨーロッパをはじめとして世界的に採用されています。2016年1月にリース会計基準を公表して、2019年1月1日から適用が開始されました。日本でも、連結財務諸表でIFRSを適用している企業では、このリース会計基準を適用しています。アメリカの会計基準も2018年12月16日から適用が開始されました。

 2008年のリース会計基準では、リース取引をファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引の二つに分けています。

 ファイナンスリース取引であれば、売買処理をします。売買処理とは、リース会社からの借入により、該当資産を購入したとする処理です。オペレーティングリース取引では、賃貸借処理をします。賃貸借処理は、リース料を支払った際にリース料や賃借料などを計上する手法です。

 リース取引がファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引のどちらに該当するかは、以下のポイントを満たすかどうかで判定します。

  • リース契約の解除が不可、または多額の違約金などで実質的にできないリース取引
  • リース期間が対象固定資産の耐用年数の3/4以上またはリース料総額(利息を控除)が固定資産の購入価額の90%以上

 以上の条件を全て満たすと、ファイナンスリース取引に該当します。

 リース会計基準は、2026年に改正予定とされていますが、2023年10月時点では改正の内容はまだ確定していません。

 2023年5月に改正案が企業会計基準委員会から公表され、同年8月まで企業や個人から案に対してのコメントを募集していました。同年9月にはコメントへの対応について企業会計基準委員会から公表されます。今後はそのコメントを反映して、最終化を進めるとのことです。

 なお、当初の案ではリース会計基準を最終的に決定して以降、2年を経過した4月1日から開始される事業年度より適用すると示されていました。そのため、順調に進めば2026年4月1日からの適用開始が想定されます。

 しかし、この適用開始時期もコメント募集の対象となっています。特に今回の改正は、企業によっては実務に与える影響が大きいため2年の準備期間では足りず、最低3年は必要というコメントもあります。そのため、適用開始時期が伸びて、2027年以降になることも想定されます。

 リース会計基準が改正される一番の目的は、IFRSおよびアメリカの会計基準と、日本の会計基準との間に生じている差を埋めることです。海外と基準を合わせる理由は、海外の投資家にとって投資しやすい環境をつくるためです。海外投資家やアナリストが日本の決算書を読んだときに、会計基準が異なりすぎると正しい分析がしづらくなり、投資判断に悪影響が及びます。

 これまでも、海外の会計基準が大きく変わると、日本の会計基準も合わせて改正される動きが見られています。

 新リース会計基準において重要な変更ポイントは、オペレーティングリース取引の対象物を資産、リース料を負債として計上することです。

 これらは従来まで、賃借料やリース料で処理していました。今後は、賃貸借契約やリース契約を使用権資産、リース債務として貸借対照表に計上します。ただし、すべてのリース契約が資産や負債に計上されるわけではありません。重要性に乏しいものは、今までどおりの賃借料かリース料として計上することが認められます。

 重要性に乏しいとするリースの基準は以下の二つです。

  • 企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、リース契約1件当たりの借り手のリース料が300万円以下
  • リース対象資産の価値が新品時のおおよそ5000米ドル以下

 どちらかを選択して、その基準を使い続ける必要があります。また、資産と負債を計上する際にもさまざまな変数がある点にも注意しましょう。変数が更新されると、会計処理が生じます。具体的なものは次章をご確認ください。

 新リース会計基準において特に影響が大きいといわれているのは、本社・支社・営業所・店舗などを賃借している場合です。今までは賃借料として費用処理すればよかったものが、改正後は固定資産と負債を計上しなければなりません。

 リース会計基準の改正では、今までとは異なる仕訳が起票されます。どのような処理が必要になるか、具体例を示しながら解説します。

 まずは、オンバランス処理が必要なケースを紹介します。オンバランス処理では、償却計算や利息費用を計算しなければなりません。以上を踏まえ、実際の仕訳方法を表で解説します。

  例えば、機械装置について総額600万円支払うリース契約(契約期間5年)を締結したとします。計算の結果、ファイナンスリース取引では固定資産とリース債務は500万円となりました。毎月リース料は10万円を支払い、そのなかから支払利息は1,000円と計算されました。機械装置の耐用年数は5年、更新オプションなどは盛り込まれていない場合を考えます。

 このときの仕訳は以下の通りです。

ファイナンスリース取引(現行) オペレーティングリース取引(現行) 新リース会計基準
リース契約締結 (借方)
機械装置 5,000,000円
(貸方)
リース債務 5,000,000円
仕訳なし (借方)
使用権資産 5,000,000円
(貸方)
リース債務 5,000,000円
リース料支払時 (借方)
リース債務 99,000円
支払利息 1,000円
(貸方)
現預金 100,000円
(借方)
賃借料 100,000円
(貸方)
現預金 100,000円
(借方)
リース債務 99,000円
支払利息 1,000円
(貸方)
現預金 100,000円
減価償却計上 (借方)
減価償却費 1,000,000円
(貸方)
機械装置 1,000,000円
仕訳なし (借方)
減価償却費 1,000,000円
(貸方)
使用権資産 1,000,000円

 従来のファイナンスリース取引では、借方に該当する固定資産(機械装置)を計上するのが基本です。リース料の支払い時には、元金と支払利息に分けます。固定資産は減価償却が必要なため、減価償却費や支払利息を計上します。

 オペレーティングリース取引はリース料支払い時に賃借料を借方に、現預金を貸方に計上する必要があります。これらの特徴を踏まえ、新リース会計基準の変化を捉えましょう。

 表を確認すると、ファイナンスリース取引であれば改正が与える影響は使用科目名が若干変わるのみだとわかります。新リース会計基準が適用されると、固有資産の名称は「使用権資産」になります。

 一方でオペレーティングリース取引では、仕訳が大きく変化します。これまでオペレーティングリース処理をしていたものも、使用権資産とリース債務として計上しなければなりません。

 新リース会計基準では、契約書上の当初の契約期間だけでなく、契約更新も見積もったうえで期間を決定し、使用権資産とリース債務の算定をします。なかには更新しない予定でも、状況が変わって契約期間終了間際に急きょ更新することもあるでしょう。その場合は、さらに追加で使用権資産とリース債務を計上する必要があります。

 例えば、オフィスの賃貸借契約を4年更新したとします。4年後の更新は見込めないとし、算定した結果、使用権資産が300万円となった場合を考えます。

借方 金額 貸方 金額
使用権資産 3,000,000円 リース債務 3,000,000円

 こういった更新状況も管理する必要があるのが、新リース会計基準の特徴ともいえます。

 新リース会計基準が適用されると、今までオペレーティングリースとして処理していたものも「使用権資産」として新たに計上する必要があります。この場合は、契約当初までさかのぼって試算をし、適用初年度時点との差額を把握したうえで計上します。

 例えば、新リース会計基準適用初年度に算定した結果、使用権資産290万円、リース債務は300万円になったとします。差額を利益剰余金として処理する仕訳は以下のようになります。

借方 金額 貸方 金額
使用権資産 2,900,000円 リース債務 3,000,000円
利益剰余金(期首残高) 100,000円

 リース会計基準が改正されると、財務指標や業務オペレーションの広範囲に影響を与える可能性があります。以下、それぞれの内容を確認していきます。

 今までの会計基準では、固定資産と負債が計上されていませんでした。新リース会計基準を適用すると、賃貸借取引などでも新たに固定資産と負債が計上されることから、それらも含めて管理しないといけません。

 固定資産に関しては固定資産台帳に計上する必要があります。リース負債も固定資産とは別に管理したほうが賢明です。また、リース期間が伸びることでリース期間の途中で残高が変動します。履歴を残さないといけないため、管理が煩雑になると予想されます。

 自己資本比率は、企業の安全性を測る指標です。この数値が悪化すると、銀行融資ができなくなったり、貸付条件が悪化したりする可能性があります。自己資本比率は以下の算定式で求められます。

自己資本比率=純資産÷総資産

 新リース会計基準が導入されると、従来までは計上しなかった資産と負債が追加されます。そのため総資産は増えるものの、純資産は基本的に変動しません。総資産のみが増えることから、自己資本比率は悪化します。

 新リース会計基準が適用されると、各種税法の改正も考えられます。現行の各種税法もリース会計基準に則る形となっています。新リース会計基準に合わせて改正されるのであれば、業務上の影響はそこまで大きくありません。

 しかし、各種税法が改正されない場合は注意しなければなりません。新リース基準との差分について対応をする必要が生じるためです。また、新リース会計基準は固定資産に対する基準であるため、償却資産税にも影響を与える可能性があります。

 株式市場に上場をせず、会社法上の大会社(資本金5億円又は負債総額200億円以上)にも該当しない会社では、「中小企業の会計に関する基本要領」および「中小企業の会計に関する指針」を適用することが推奨されています。

 新リース会計基準の改正は、これらにも影響を与える可能性があります。ただし、新リース会計基準が適用されると中小企業の負担が大きくなります。どのように変更されるかは議論が生じるものと考えられます。

 リース会計基準の改正に向けて必要な準備を紹介します。新リース会計基準を適用する規模の企業が、実際に対応する際の流れを記載します。中小企業においては、必要な部分のみを対応すれば問題ありません。

 まずは、新リース会計基準にて新たに資産および負債が計上される可能性のある、現行の賃貸借契約・リース契約を洗い出します。洗い出しする際には、契約書を確認していくことになるでしょう。

 契約書を確認し、改正の対象となるものである場合は、資産負債に計上される金額や損益に与える影響について影響額を算定します。その結果をもとに自社の方針を決める材料にします。

 新リース会計基準が適用されたら、自社の方針を検討し直さなければなりません。先に紹介した新リース会計基準を簡便的にする基準など、複数のなかから選択するものがあります。

 そのほかに簡便的な処理が必要であれば、影響額から重要性に乏しいものとして処理をするなどの方針を検討します。検討した方針は、文書などに残しておいた方が賢明です。

 これらの方針が決まったら、自社の役員などに最終報告をおこないましょう。また、公認会計士の会計監査を受けている場合も方針について合意しておく必要があります。この調整は、方針の検討の段階で適時に相談しておくとよいでしょう。

 方針の決定や役員への最終報告が終われば、自社の会計がほぼ確定します。確定した段階で、自社の経理規程を会計基準に則るように改訂しましょう。

 自社の経理規程が固まったら、経理・決算処理に使う固定資産システムや、リース債務を管理するエクセルなどの改修をおこないます。また、毎月取締役会などに提出する資料も必要に応じて改修することが望ましいでしょう。

 上記の準備がすべて整ったら、前期の財務諸表をもとに、財務諸表を作成してみてください。適用開始となる年度前に試してみるのをおすすめします。

 また、決算を期限内に終わらせるには、必要な情報を適切なタイミングで取得できるかのチェックが重要です。そのため、情報が適時に取得できるかも、トライアルの段階で確認しましょう。

 新リース会計基準は、まだ内容が確定していません。しかし、企業によっては財務諸表に兆円単位で影響を与えることもあります。当然ながら、そういった影響の大きい企業はすでに準備を始めています。中小企業では、どこまでの対応が必要かは未知数です。そのため、情報をしっかり収集して、早めに対応することが望まれます。