講演では、経理ITの効率化に取り組むべき理由として「行政自体がコスト削減で経済を活性化したいという動きになっており、中国や韓国、シンガポールでは特にIT化が進んでいます」と話します。そして、経営者が押さえるべきポイントについて、番号管理、ペーパーレス、徴税のデジタル化の三つを挙げました。
「2023年10月にインボイス制度が始まり、2024年1月には電子帳簿保存法が完全施行されました。この二つが合体したのがデジタルインボイスです。消費税の計算・申告・納税を一気通貫にできるデジタルインボイスの時代になると言われています」
「これまでの企業経営は法人税と所得税を重視してました。今後は消費税ファースト、もう少し言えば帳簿ファーストからインボイスファーストに変わります。帳簿だけでは難しかった税務調査も、インボイスが浸透すればやりやすくなります。インボイス登録番号があるか、消費税が計算できているかが焦点になり、経理のあり方も変わります」
山田さんは、経理業務の問題点は人手不足に加え、知識の更新が必要になること、経営者や社内への説明などの時間がかかる点を挙げます。「経理業務は成功して当たり前、失敗すると怒られる。嫌われ役になりがちでした」
「今後、RPA、クラウド化、API統合、電子決済、デジタルインボイス、AIチャットボットが進めば、経理業務はだいぶ楽になると思います。そうなると、経理はアウトソーシングでいいという発想になりがちですが、社内に経理部門が無く、決算書がきちんと読める人がいないのは不安です。これからの経理はコンサルティングのような複雑な作業を担う必要があります」
米国では経理業務と財務戦略が合体した「FP&A」(ファイナンシャル・プランニング・アナリシス)という概念が広がっており、山田さんは「これからは日本式のFP&Aが必要になると思います」と話します。
会計センスを磨く三つのポイント
経理部門を社内の戦略部門として活用するにはどうすればいいでしょうか。山田さんは講演で、経営層が会計センスを磨くための三つのポイントを挙げました。
収益と費用に分解する
一つ目は、利益を収益(売り上げ)と費用(原価)に分解するということです。
「利益が出ている原因は、売り上げが高いか、費用が安いかです。利益を収益と費用に分解して考える会計センスを持っているのが、経理部門になります」
経営判断に重要な「単位変換」
山田さんが二つ目のポイントとして挙げるのは「単位変換」です。理解を進めるため、以下のクイズを出しました。
山田さんは解答を、次のように説明しました。
「毎週500円の配当金は、1年間(52週)で計算すると2万6千円。投資額10万円で計算すると、年利26%になります。どう考えても怪しいですよね。従って『投資しない』が正解です。これは、エコNPOの詐欺事件から出題したものです」
この問題の意図は、何だったのでしょうか。
「ロジックで計算すれば、投資の可否は見えてきます。ただ、実際には世の中には一見良さげな企画書があふれ、単位の言い換えも行われます。そうしたトリックを見破れるかが、会計センスなのです」
不定期高収入と定期低収入の組み合わせ
山田さんが挙げた三つ目のポイントは、「不定期高収入と定期低収入の組み合わせ」です。これも、以下のクイズで解説しました。
「宣伝」、「追加コスト(場所・食材)があまりかからない」、「大量購入でコストが下がる」などの答えが考えられます。それでも、山田さんが「一番欲しかった答え」として挙げたのは、「安定した現金収入」でした。
「多くのビジネスは、不定期高収入と定期低収入です。客単価5万円では現金で払う人がめったにおらず、カード決済か売掛金になります。しかし、入金を待つ間も給料、仕入代、家賃などは払わなければいけません。その点、ランチ営業にはカード決済不可の店が多く、確実に現金収入が入るメリットがあります」
山田さんは「会社が大赤字でも現金があればつぶれないのが、会計の大原則」と言います。
「『今は不定期高収入しかないから、定期低収入の格安ランチで現金を得た方がいい』という戦略的な提案やアドバイスができるか。そこに、経理部門の価値があります。固定費は現金収入、社員のボーナスはカード決済収入といった資金繰りこそが、キャッシュフロー経営なのです」
経理部門は隠れた資産
山田さんは最後に、経営層へ次のアドバイスを送りました。
「会計は、単に仕訳を切って経費精算を行う技術ではありません。経理部門の哲学をリーダー層に知ってもらいたいですし、何か生かせる方法はないかという発想で見ていただければ、隠れた資産が眠っていることに気づくのではないでしょうか」
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