業務フローとは わかりやすい書き方のルールや手順を解説
中小企業は限られた従業員数で仕事をしているため、仕事が属人化しがちです。業務フローを作成することで、業務の標準化と生産性の向上が図れます。この記事では、業務フローの作り方やポイントについて、これまで200社を超える中小企業の現場を見てきた中小企業診断士が解説します。
中小企業は限られた従業員数で仕事をしているため、仕事が属人化しがちです。業務フローを作成することで、業務の標準化と生産性の向上が図れます。この記事では、業務フローの作り方やポイントについて、これまで200社を超える中小企業の現場を見てきた中小企業診断士が解説します。
目次
業務フローとは、業務内容や業務の流れを視覚的に表現したフローチャートのことです。業務フローを作成することで「誰が」「いつ、何をきっかけに」「どんな作業を」「どんな場合に」するのかを明確にできます。
多くの場合、業務フローは規模の大きいシステム開発やプロジェクトなどで作成されます。その業務を誰でもできるように、業務マニュアルと一緒に作成されることもあります。
従業員数が限られている中小企業や、従業員の異動が少ない企業では、仕事が属人化しがちです。属人化すると、業務はブラックボックス化(仕事の内容が不透明で、特定の人以外わからなくなること)します。そして、退職などでその仕事のやり方がわかる人がいなくなってしまった場合、業務継続性にも悪影響を及ぼしてしまいます。
中小企業でも業務フローを作成することで、業務の属人化を防ぎ、業務の無理や無駄を省いて生産性の向上につなげられます。
業務フローは、生産性向上をはじめ業務上のあらゆることに役立てられます。ここでは、業務フローの役割およびメリットについて解説します。
業務フローは従業員間の情報共有に役立ちます。業務フローでは決まった記号や図を用いることから、テキストベースの書面と比較し、業務の流れを可視化しやすいためです。
業務の内容に詳しくない人でも視覚的なイメージがしやすいので、例えば従業員の異動や退職、新入社員の入社などのタイミングでも情報の共有がスムーズになります。
業務フローの作成は生産性向上のきっかけにもなります。業務フローを作成するときには、その業務で必要な作業をすべて洗い出すというプロセスが発生するためです。この業務の洗い出しをすることで、実は必要ない業務や、順番を変えたほうがよい業務などが明らかになり、これまで慣例的におこなっていた業務の流れを見直せます。
業務の生産性向上の視点としては「ECRSの法則」が参考になります。
ECRSの法則(ECRS Rule)は、生産性を向上させるために業務を見直す際の視点とプロセスをまとめたものです。ECRSは以下の四つの英語の頭文字から成り立っており、E→C→R→Sの順番で業務見直しをおこないます。
Eliminate (なくせないか) | 不要なプロセスや作業をなくすことです。必要のない活動や無駄を取り除くことで作業が効率化できます。 |
Combine (まとめられないか) | 関連するプロセスや活動をまとめることです。複数のプロセスや作業を組み合わせることで、作業の流れがスムーズになり、時間や労力が節約されます。 |
Rearrange (いれかえられないか) | プロセスや活動の順序をいれかえます。順番を変更すること「まとめられないか」と同様、作業の流れがスムーズになり、時間や労力が節約されます。 |
Simplify (簡単にできないか) | プロセスをより簡単かつ効率的にする方法を考えることです。作業の複雑さを減らし、より簡単に実行できるようになります。 |
業務フローを作成する過程で、ECRSの法則をもとに業務を見直すことで、組織の生産性向上につなげられます。
業務フローを作成し、業務プロセス全体を可視化することで、業務で発生している問題点に気付けるようになります。またミスしやすい業務については、ミスを防ぐための業務プロセスを入れるなどの改善が可能です。
業務フローを作成せず、かつ同じ人が長らく一つの業務に携わっていると、業務の問題点に気付いたり、改善を図ったりすることは困難です。
業務フローを作成することで、誰がその業務をおこなってもミスや滞りがなく進められるようになります。
わかりやすい業務フローを作成するためには、いくつかの基本ルールを押さえておくことが必要です。ここでは、初めて業務フローを作成する中小企業が間違えやすい点を中心に、業務フロー作成のルールについて解説します。
「スイムレーン」とは、業務フローで「誰が」その業務をおこなうのかを示したものです。スイムレーンという言葉は、水泳のレーンからきています。水泳のレーンのように関係者それぞれにレーンが割り当てられ、業務がそのなかをどのように動いていくかを可視化します。
関係者に部署や階層(担当・課長・部長など)がある場合はその点も明確にし、職務分掌をわかりやすく整理します。
次に、「いつ、何をきっかけに」「どのような作業を」「どういう場合に」の三つをフロー図で表し、業務の流れを洗い出します。
業務フローでは、標準化された図形を用いて業務の流れを示します。以降、図形ごとの役割を紹介します。
開始図形はプロセスの開始と終了を表す図形で「端子」とも呼ばれます。図形には、業務を始めるきっかけ(トリガー)となるものを記載します。いつ・なにをきっかけに・誰がやるのかを押さえることがポイントです。
業務フローで最も使われる図形です。ここに具体的な作業や手続きを書きます。
判断図形は、業務プロセスのなかで判断が必要なプロセスに用います。一般的にはYESかNOの二択です。判断の選択肢が三つ以上でも利用できます。
データをデータベースや別のシステムへ入出力する際に使用します。
矢印を使って業務や処理の流れを表現します。
業務が洗い出せたら、全体の流れを明確にします。
人間の目線は左から右、上から下に動くといわれています。そのため、業務フローでも左から右、上から下に向かって業務の流れを書きます。
業務全体を一連の流れとして認識できるように作成することが大切です。
一つひとつ手順を追って作成することで、適切かつわかりやすい業務フローが完成します。ここでは、業務フローの作成手順を紹介します。
まず、なぜ業務フローを作成するのかを整理します。
例えば、引き継ぎ用のマニュアルであれば、目的は後任者が業務内容を明確に把握することです。
誰のために、そして何のために業務フローを作成するのかを明らかにすることで、業務フローに落とし込む内容が固まります。
次に、業務フローに記載する業務を「誰が」おこなうのかをすべて洗い出します。
社内だけで完結する業務であれば社内の人間だけでよいですが、社外にも関係者がいる場合には、それらの人々も忘れずに洗い出しましょう。例えば、官公庁への届け出業務などの場合は、官公庁も関係者になります。
実務では「◯◯部署の△△さんに聞いたほうがよい」のように、暗黙の了解になっている関係者も多いものです。本当にその関係者に確認すべき作業なのか、また何を確認するのかを明確にしましょう。
関係者を整理できたら、次に「いつ、何をきっかけに」「どのような作業を」「どういう場合に」おこなうのかをすべて書き出します。必要な作業をなるべく詳細に書き出すことで、業務のヌケモレを防げます。
作業が一つでも抜けてしまうと、業務フローを見ながら作業する人が「ここに書いていない作業がある」と、迷ってしまいかねません。そのため作業を洗い出す際には、実際に作業をおこないながら、タスクを一つひとつ書き出すとよいでしょう。そうすることで「実はこんな作業もあった」と気付くきっかけになります。
また、洗い出す過程で生産性を阻害していたり、必要性が低かったりする作業が見えてくることもあります。例えば「ある部署の担当者にデータを送ることが慣例となっているが、データを受領する側ではすでにそのデータは使われていない」などです。このような作業が明らかになった場合には改善を図りましょう。
タスクを洗い出したら、スタートからゴールまで時系列に沿って矢印でつないでいきましょう。このとき、最初に作成した関係者の割り振りを表すスイムレーンに、図形を用いながらタスクを挙げていきます。
業務フローは、誰が見ても理解しやすいものでなければなりません。最適な業務フローを作成するには、以下のポイントをおさえておきましょう。
順に詳しく説明します。
業務フローを一人で作成すると、業務のヌケモレや不必要な業務、業務の問題点になかなか気付けません。
必要に応じて担当者の上司や関係部署も巻き込んで作成することで、業務を標準化したヌケモレのない業務フローを作成できます。
業務を初めておこなう人が見ても理解しやすいように、なるべくシンプルな図にまとめましょう。記号の数が多すぎると、わかりにくい業務フローになってしまいます。記号の数を最小限に抑えることは、業務の簡素化にもつながります。
業務フローを作成する際は、業務マニュアルとの連携を意識します。業務フローは、あくまで業務の手順やプロセスを可視化したものです。それぞれの作業の詳細については、業務マニュアルにテキストベースで記載することになります。もし業務フローと業務マニュアルの内容が一致しなければ、それらを確認して業務をおこなおうとする人が困ってしまいます。
業務フローは業務マニュアルと一緒に作成し、お互いに相違がないか、またヌケモレがないか確認しながら作成するとよいでしょう。
少人数で業務をおこなっている中小企業は、いわゆる「職員技」といったような、個々人のノウハウの積み上げに頼っているケースが少なくありません。
しかし、熟練職人の退職や新入社員の入社など、中小企業でも従業員の入れ替わりが発生することがあります。
業務の生産性を向上させるには、業務フローを作成して「誰が」「いつ、何をきっかけに」「どのような作業を」「どういう場合に」を明確にすることが有効な手段の一つです。
日常業務に追われがちになりますが、従業員が入れ替わる前に業務フローの作成を通じて、業務の見える化と生産性向上を図っていきましょう。
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