山口さんは幼い頃、会社の近くに住んでいました。祖父や父の時代は親戚もドライバーとして働いており、「おじちゃんたちに可愛がってもらっていたし、ゴミ屋さんに対して悪いイメージは特になかったです」と振り返ります。
今考えると、ゴミ屋は市民の方から低く見られるところがあったからかもしれません。また、当時はみんなパンチパーマで、そう思われても仕方なかった気もします。
家業を嫌だとは思っていませんでしたが、そういうイメージから脱却したいという思いはずっと持っていました」
2018年、山口さんはエンタープライズ山要の代表取締役に就任。以来、妹と協力しながらグループ全体を支えています。
山積する課題を解決するため企業理念を作る
祖父と父の頃の会社は、今で言う超ブラックな“昔のゴミ屋さん”でした。風邪で休めば「明日からもう来るな」と言われ、意見をすると意地悪される。従業員は何も考えず、何も言わないようになっていき、やる気があり仕事のできる人から辞めていったといいます。
逸材を残したい、仕事にやりがいを感じてもらいたい、従業員エンゲージメントを高めたい、ちゃんと制服を着てほしい、市民クレームを減らしたい…。
山口さんは就任後、会社の抱える多くの課題を解決するため、 “いい会社”と言われるさまざまな会社を調査しました。その結果、企業理念の必要性を感じるようになり、「わたしたちはゴミ処理サービスを通じて、笑顔を提供する企業です」という企業理念を作りました。
「自分や妹をはじめとする主要メンバーの求める“ちゃんと”が一体何なのか、自分たちがお客様にどんなサービスを提供したいのかをしっかり言語化しようと思ったんです。そうすれば、みんながブレずに同じ方向に進めるので」
課題解決のためにチーム制を導入
企業理念が決まると、いよいよ課題の解決に着手しました。しかし、数ある課題に対して、山口さんが一つひとつ指示を出していくわけにはいきません。すべての課題を解決するには、従業員全員で関わる必要がありました。
そこで、責任の所在をはっきりさせるためにチーム制を導入。6つのチームを作りました。
立ち上げ当初は不満を言う人も多く、なかなかうまくいきませんでした。
同じ頃、新人もベテランも一律だった評価制度を、がんばった人が評価される360度評価に変更したこともあり、多くの古株メンバーが去っていきました。
しかし、残されたメンバーの取り組みは、着実に実を結んでいきます。
例えば、ニコニコチームは毎日10~20本の電話がかかってきていた「ゴミの取り忘れに関するクレーム」への対応を任されました。
会社にとって大きな課題だったので、山口さんはチームに原因究明をしてPDCAを回しながら改善してくれることを期待していました。しかし、メンバーは「クレームの電話がかかってきたら取りに行くチーム」程度の認識だったといいます。
そんな考えでは、取り忘れが無くなるはずはありません。「メンバーとのコミュニケーションが足りないから、認識に齟齬があるのでは?」と考えた山口さんは、メンバーと話し合う機会を設けました。
「彼らが『僕はこのチーム嫌です』『リーダーを辞めたいです』など、自分たちの思いをきちんと伝えてくれたので良かったです。
そもそも『何曜日と何曜日に何個ゴミを取る』というお約束のもとに私たちは毎月お金をいただいていること、ゴミが残っているのは私たちの約束違反で悪いのは私たちであること、お客様にクレームの電話をさせてしまうのも良くないことだと伝えました。
そして、ただゴミを運ぶだけではなく、お客様のお困りごとを解決するのが私たちのサービスだという認識を持って業務にあたってくださいと話しました。この意識の浸透に、企業理念が役立ちました」
山口さんと認識や目的を共有したメンバーは、まず取り忘れのデータを取り、現状を認識するところからスタート。その後、毎月の会議で施策を考えPDCAを回すようになりました。すると、半年間で取り忘れをゼロにすることができたのです。
「リーダーがメンバーをしっかりフォローしてくれて、みんなが実直にコツコツやり続けた成果だと思います」
思わぬ早さで課題を解決できたニコニコチーム(現在は業務改善ニコニコチームに変更)は今、「交通事故撲滅を目指す」という新たな目標に取り組んでいます。
認証・資格の取得で社会的な信用と従業員に誇りを
産業廃棄物処理業界には、都道府県や政令市から与えられる優良産廃処理業者認定制度があります。認定を受けるためにはさまざまな条件がありますが、そのうちの一つが「ISO14001、エコアクション21等の認証を受けていること」です。
山口さんは、2011年にエコアクション21を取得。その後、大阪府より優良産廃処理業者に認定されました。
さらに、コロナ禍の2021年7月、BCP災害対策チーム主導のもと「レジリエンス認証(国土強靱化貢献団体認証)」を取得しました。
この認証は、内閣官房国土強靱化推進室が制定したガイドラインにもとづき、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会が災害やパンデミックが起こった場合でも事業を継続できるように事業継続の取り組みを行う事業者を「国土強靭化貢献団体」として認証するものです。
「認証を取ろうと思った理由は、社会的な信用を得るためだけではなく、資格と一緒で無くならないと思ったからです。他社との差別化や、SNS発信時に『〇〇に合格しました』というタイトルが欲しかったこともあります。
また、『ゴミ屋風情が』と言われることも多かったので、払拭したい気持ちもありました。従業員たちが『うちの会社すごいんやで』と思えるようにもしたかったですね」
産廃業界でレジリエンス認証を取得したのは、エンタープライズ山要が全国で初めて 。反響は思いのほか大きく、複数の業界紙に掲載され、講演依頼も受けました。
有事の際に事業を継続させるための取り組みは企業に対しても訴求力が高く、営業面でも良い影響があったそうです。
地域にも貢献 サンタの姿でゴミ収集
社会貢献を目的とするCSRチームを中心に、地域社会への貢献にも力を入れています。
チームメンバーからの提案で、国土交通省の「ボランティア・サポート・プログラム」にボランティア団体として登録。月に1回、美化活動として地域の道路のゴミ拾いをしています。
5年続けた取り組みが評価され、近畿地方整備局からは感謝状が贈られました。
「毎日トラックを走らせるので、どうしても二酸化炭素を排出します。ただ、拾ったゴミは自分たちで処理場に持っていけますし、ゴミ拾いをすると海に流れる排水がキレイになって環境保全につながるため、そういうところで社会に貢献したいと思っています」
また、地域の方々に少しでも喜んでほしい、従業員との交流の一助になればという思いから、クリスマスにはパッカー車をラッピングし、サンタのコスプレをした従業員がゴミ収集をしています。
さらに、子どもの絵を車にラッピングすることで交通安全啓発を行う「こどもミュージアムプロジェクト」にも参加。普段ゴミを収集している幼稚園の協力を受け、園児の書いた絵をラッピングしたパッカー車を毎年2台ずつ増やしています。
「ラッピングをすることで、お子さんや地域の方々が手を振ってくれたり、声をかけたりしてくださる機会がすごく増えました。従業員も歩行者から見られていると感じ『ちょっと緊張して運転するようになった』と話しています。
当社の取り組みを知っていただく機会にもなりますし、従業員の運転マナーも良くなるので、やって良かったです」
SNS発信でブランディング 受注や採用に影響
これらの取り組みを、山口さんはX(旧ツイッター)、ブログ、YouTube、会社前のホワイトボードなどさまざまな形で発信しています。
きっかけは、エクスペリエンスマーケティングについて書かれている藤村正宏氏の著書を読んだことでした。
「これからはファンを作り、そのつながりで仕事が来る時代。値下げ合戦をするとどんどん疲弊してしまう。だったら逆に自社のサービスや、利用することでどんな経験ができるのかを伝えられるブランディングをすることで値段を高く設定できると知ったんです」
藤村氏のマーケティング塾に入って学び、SNS発信を強化すると同時に、価格競争からも脱出。高いクオリティのサービスを提供する代わりに値下げをやめ、父の代では企業によって変えていた価格も統一すると決めました。
SNS発信を続けることで、企業や廃棄物処分場から直接依頼や問い合わせがくるようになり、受注につながっています。
採用にも大きな影響がありました。父の代と比べると従業員は1.5倍になり、応募者はそれ以上に増えたのです。
エンタープライズ山要と寝屋川興業で働くのは、20代から50代の37人。「友達に誘われたから」「父が働いているから」と紹介で入社する人が多くいます。
以前は入社後1ヶ月以内に退職する人がたくさんいましたが、ここ2~3年で入社した若い従業員の退職者はほとんどいません。
応募者の層も変わり、大学中退者や大卒者からの応募が増加。「社会貢献をしたい」という理由で応募してくる若者も多いといいます。
「気になる会社があれば、みんなすぐにインターネットで検索しますよね。なので、ホームページは仕事を得るためではなく、採用を目的にして作っています」
スタッフ紹介ページで顔をしっかり出しているのも大きいといいます。
「『なんで(当社を)受けたん?』と聞くと、『ブログにみんながニコニコ取り組んでいる写真があったり、You Tubeでサンタの服を着ていたりと若い子が多かったから、僕も働けるかなって思ったんです』と答えた人が何人もいましたね」
山口さんがホームページやSNSの文章を書くときは、自社の思いやスタンスが伝わるように心がけています。
「当社は一緒に社会貢献をしながらお客様のためのサービスを提供してくれる人を求めており、それを理解してくれる人に仲間に入って欲しいと思っています。
また、育児や介護を優先したい、勉学を優先したいなど、一人ひとりにフィットした働き方ができるようにしているので、それが伝わる書き方をしています。
条件で選ぶ人は、もっといい条件の会社があればすぐに変わってしまいます。だから私たちのファンになってもらうこと、仲間になりたいと思ってもらうことが今後必要になると思います」
山口さんは採用にお金をかけず、手間暇をかけてでも自分たちで発信することを選んでいます。
「みんなで作った売り上げを、みんなの昇給や福利厚生に充てたいんです。だから『みんなで会社の企業価値を高める活動をして、仕事が増えるようにするんだよ』と話しています」
SNS発信は「とにかく楽しく続けること」
山口さんにSNS発信のコツを聞くと、「背伸びしない、カッコつけないことが大事」との答えが返ってきました。
「例えば、ゴミ拾いで拾った吸い殻を使って、CSRチームが毎月“ポイ捨てアート”をしています。『こんなにゴミを取りました』『キレイにしました』というのは事実なんですけど、そんな発信はダサいと思っていて。見ている人も飽きますよね。
そうじゃなくて『今月はどんなデザインかな』『また見よう』って楽しんでもらえるようにしたいので、あんまりいいカッコしないことを意識して取り組んでもらっています。
カッコ悪いことは出した方がいいけれど、愚痴は書かない。私はたまに酔っぱらって書きますけど(笑)」
「続けることと等身大、透明性が大切だと思います。どんなにいいカッコをしても文章には人柄が出るので、とにかく楽しく続けることです」
今後の目標を聞くと、「なりたい職業に“ゴミ屋さん”を入れること」と笑顔で返ってきました。
「ゴミはなくなりません。ゴミのプロとして、みんなの持続可能な未来を作っていきたいです」