目次

  1. 主婦から突然の後継ぎに
  2. 千葉から夜通し通い続ける
  3. パッケージデザインを一新
  4. 「たまりせんべい」が全国表彰
  5. せんべいの価格を3倍に
  6. コロナ禍を逆手に宿泊業に挑む
  7. 宿泊施設を増やして魅力を高める

 夜明けまえの午前4時。山中煎餅本舗の一日は、炭火をおこすところから始まります。

 れんが窯に2時間かけて炭火をおこすと、その日の気温や湿度によって焼き方を変えながら6時間焼き続けます。炭火は一定になることがないため、ひっくり返すタイミングが1秒ズレるだけでも焼き上がりが変わる繊細な作業です。山中煎餅本舗では、先々代の時代から勤める職人が親子2代にわたって変わらぬ製法を守り、せんべいを手焼き製造しています。

山中煎餅本舗でせんべい焼き職人を務める荒澤清人さん。父の一利さんと親子2代で職人を務めています(山中煎餅本舗提供)

 山中煎餅本舗は1890年創業。醸造業が盛んな喜多方市で、良質な米としょうゆを使った手焼きのせんべいを作り続けてきました。

 渡部さんは4人きょうだいの3番目。幼いころからせんべいを焼く職人の後ろ姿を見て育ちました。「せんべいってぶわっと一気に膨らむんですよ。それが面白くて今でも何時間でも見ていられます」

 店を継ぐつもりは一切なかったという渡部さんですが、きょうだいの中で唯一、家業をよく手伝ったそうです。工場での袋詰め作業や店番など「好きだから苦にならなかった」と振り返ります。

 高校卒業後は美容師を目指して上京。20代で結婚し、千葉県で夫と子ども2人と暮らしていました。穏やかな生活を送っていた2008年、父が急逝したという知らせが届きます。急きょ、家業は都内で会社員をしていた長男が継ぐことになりましたが、「自分には合わない」と3年たたずして辞めてしまいます。

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