目次

  1. エスカレーションとは
    1. エスカレーションと報連相の違い
    2. ビジネスにおけるエスカレーションの活用シーン
    3. 業界・職種別のエスカレーションの具体例
  2. エスカレーションが重要な理由
    1. 問題解決の迅速化
    2. 組織の改善と成長
  3. エスカレーションを円滑に進めるためのポイント
    1. エスカレーションフローを定める
    2. 報告者の責任を問わない
    3. ルールを周知・更新する
  4. エスカレーションフローの作り方
    1. 報告事項と重要度を規定する
    2. 報告手段やルートを規定する
    3. データベース化のルールを規定する
  5. エスカレーションを行うときの注意点
    1. 適切なタイミングで行う
    2. 明確に詳細を伝える
  6. エスカレーションを活用して組織力を強化する

 ビジネスシーンにおけるエスカレーションには「段階的な上位へのアプローチ」という意味があります。具体的には、業務上の下位者が対応しきれない事態が発生した際に上位者に報告し、最適な判断を仰いだり対応を委ねたりすることを指します。

 そもそもエスカレーション(escalation)とは、「上昇」や段階的な「拡大」といった意味を持つ言葉です。元々は、百貨店やビルに設置された「エスカレーター」という単語が先にできた言葉で、1900年に米国のオーチス・エレベーター社が商標登録しました。

 このことから、エスカレートやエスカレーションという言葉は、当初「エスカレーターに乗る(こと)」を意味していましたが、転じて段階的に上がったり増えたりする様を指すようになりました。

 エスカレーションと混同されがちな言葉として、報連相(報告・連絡・相談)が挙げられます。自身で対応が困難な事態について上位者に頼るエスカレーションに対し、報連相はエスカレーションよりも広い意味で使われる言葉で、日報や月報などの各種報告や連絡、それにともなう相談といった緊急性の薄い日常業務も含みます。

 報連相は組織における情報共有全般を指す言葉であり、エスカレーションは報連相のなかでも緊急性に特化して使う言葉と捉えると理解しやすいでしょう。

 エスカレーションの対応が必要なケースには、インシデント(重大な事件や事故につながりかねない出来事)が発生した場合や、自身の知識や経験・責任範囲では対応が不可能な場合などが挙げられます。

 例えば、「マニュアルに沿ってクレーム対応をしていたものの、顧客に納得してもらえなかったので上司にエスカレーションした」「取引先から新規案件を提案されたが、担当者に決定権限がないため上司にエスカレーションした」「個人の知識やスキルでは対応できないシステム障害が発生したため、専門部署の担当者にエスカレーションした」といった使い方が一般的です。

エスカレーションの活用シーン
・マニュアルやFAQだけでは対応しきれない顧客クレームで、責任者への交代を求められた
・大幅な値引き交渉など個人の裁量を超えた業務で、権限者の対応が必要になった
・システム障害や納品遅延など、緊急性の高いトラブルが発生した

 エスカレーションはさまざまな業界や職種で行われる対応で、特にコールセンターやSE(システムエンジニア)・サーバー管理者、営業部門などで頻繁に発生します。ただし、業界・職種によって微妙にニュアンスが異なります。

業界・職種別のエスカレーションの具体例
コールセンター 顧客からのクレームや質問について担当者では対応できない場合に、責任者や上司へ転送して対応を代わる
SE(システムエンジニア) 管理を委託されているシステムに障害が発生した場合に、顧客企業へ復旧の目途や障害の影響範囲などを伝える
サービス業 取引先との商談で担当者の裁量を超えた大幅な値引きを打診された場合や取引先からクレームを受けて担当者個人では解決が難しい場合に、上司に判断や指示を仰ぐ

 エスカレーションの効果は、個人の負担軽減や組織全体の効率性向上などさまざまです。なかでも、多くの企業がエスカレーションを実施する理由は、主に「問題解決の迅速化」と「組織の改善と成長」にあります。

 企業におけるインシデントは、発生から時間が経つにつれて問題が悪化していく傾向にあります。そのため、適切なタイミングでエスカレーションを実施し、迅速に問題を解決することが重要です。

 インシデントへの対応遅れで顧客や取引先との関係が悪化する前に上司や専門部署などの手を借りてスムーズな問題解決につなげるエスカレーションは、顧客や取引先との良好な関係性を維持する重要な役割を担っています。

 ビジネスを円滑に進めるために組織内の部門間連携は欠かせませんが、エスカレーションの実施には部門間の情報共有とコミュニケーションが必須となるため、組織全体が活性化されます。

 また、エスカレーションにより組織内の問題や課題が発見され、組織の改善に向けた切り口となる場合も多くあります。このように、エスカレーションによって得られた知見を組織内にフィードバックすることで、組織の成長が促進されます。

 円滑なエスカレーションを実施するためには、組織全体で取り組む必要があります。そのうえで、「エスカレーションフローを定める」「報告者の責任を問わない」「ルールを周知・更新する」という3つのポイントを踏まえて環境を整備していくことが重要となります。

 エスカレーションフローとは、「インシデントが発生してから、エスカレーションを行うまでの流れを規定したもの」を指します。

 インシデントが発生した後にエスカレーションを行うべきかどうかの判断基準を取り決めておき、エスカレーション先となる部署や担当者を規定しておくことで、現場の従業員がエスカレーションの判断を行う際に迷わなくなり、迅速な対応が可能となります。

 本来はエスカレーションを行う必要のあるトラブルを現場で解決しようとすることによる、トラブルの拡大も防止できます。

 エスカレーションフローの作り方は後述しますので、そちらを参考にしてください。

 エスカレーションは、トラブルやクレームの報告といった内容が多いため、報告者は不安を感じやすくなります。その結果、報告者が億劫になり、エスカレーションを行わずにインシデントを隠してしまうケースも見受けられます。しかし、インシデントを隠してしまうと、適切な初動対応を行えないことで問題解決が遅れ、さらに事態を深刻化させてしまいかねません。

 このような事態を回避するためにも、エスカレーションを行っても責任を問わないというルールを設けて周知し、従業員が安心して上司や関係者に判断を仰げる企業風土を作ることが重要になります。

 エスカレーションのルールは、部署ごとでなく企業全体で適用され、正しく運用されなければなりません。そのため、明文化されたドキュメントを社内に共有し、企業内の全従業員にエスカレーションを行う意義を理解させ、ルールを周知徹底させる必要があります。

 そのうえで、ルールは定期的に見直しを行い、社内で共有することが求められます。古いルールを適用し続けると、外部環境の変化などの要因で最新のインシデントに対応できなくなったり、顧客や取引先が求めている対応を理解しきれずに信頼低下につながったりする恐れがあるため注意が必要です。

 前述のエスカレーションフローは、インシデントが発生する前に作成しておくのが基本です。ここでは、エスカレーションフローを作るときの重要なポイントを解説します。

エスカレーションフローの作り方
報告事項と重要度を規定する 「誰に対して」「どのタイミングで」「何を報告するのか」「どの程度で(重要度で)」を決めておく
報告手段やルートを規定する 「誰が」「どのような手段で」「何分以内にエスカレーションするのか」「どのルートで」を決めておく
データベース化のルールを規定する エスカレーションの過程をデータ化してナレッジとして蓄積するとともに、なぜエスカレーションが必要な状況に陥ったのかの原因追及を行う

 報告事項とは、「誰に対して」「どのタイミングで」「何を報告するのか」に関する規定です。報告内容が不足していると、エスカレーションによって判断を求められた上司や他部署の担当者が最適な対応を取れない可能性が高まります。エスカレーションに不可欠な情報をあらかじめ規定しておけば、迅速かつ確実な対応が可能になります。

 また、各インシデントの重要度を規定しておくことも必要です。インシデントが発生しても、従業員によって重要度の捉え方が異なる場合があります。そのため、どのようなインシデントにおいてエスカレーションが必要かを定めることが大切となります。

 報告については、「誰が」「どのような手段で」「何分以内にエスカレーションするのか」を規定することで、スムーズなエスカレーションが可能になります。例えば、「インシデントの認知から5分以内にAに報告し、30分以内に対応できない場合はBが権限をもって処理する」など、規定された報告先である上司や関係者が不在の場合にはどうするかも、漏れなく決めておきましょう。

 また、報告ルートを定義しておくことも大切です。ルートが不明確だと、余分な手間や時間がかかり、対応が遅れる原因になります。例えば、「従業員→所属部署の上長→所属部門の上長」などのルートを定義しておけば、スムーズなエスカレーションを実現できます。

 行ったエスカレーションの過程をデータ化してナレッジとして蓄積し、組織内で共有できる仕組みを整備することは、今後のエスカレーションにとって大変重要になります。同様のインシデントが発生した際に、過去の事例を参考にしながら従来よりも精度の高い対応をとれるためです。

 また、データベース化により、問題や課題の解決後に「なぜエスカレーションが必要な状況に陥ったのか」などの原因追及も可能となります。企業や商品・サービスの潜在的な課題抽出のきっかけとなることも多く、課題を共有して企業の体質改善や商品やサービスの品質向上につなげていく必要があります。

 エスカレーションを行う際の注意点としては、「適切なタイミングで行う」「明確に詳細を伝える」の2点が挙げられます。

 エスカレーションを行うタイミングが早すぎると、上司や関係者へのエスカレーションが過大となり、対応ができなくなる可能性があります。一方、エスカレーションを行うタイミングが遅すぎると、問題が複雑化して解決までに多くの時間を費やしてしまう恐れがあります。そのため、問題を適切なタイミングでエスカレーションすることが求められます。

 エスカレーションを行う際には、インシデントの内容を明確かつ詳細に上司や関係者に伝える必要があります。誤った内容の把握で対応すると、問題が複雑化してしまうことも少なくありません。問題の内容や背景、対応状況などを詳細に伝えることで、上司や関係者が正確な判断や対策を行えるようになります。

 エスカレーションを定め、組織で適切に運用することは、トラブル対応の迅速化のみならず、日頃のスムーズなコミュニケーションに貢献するでしょう。また、エスカレーションフローが決まることで、組織の心理的安全性向上も期待できます。

 組織が多様化し、変化も速い時代だからこそ、ルールを定めて組織力を強化することが大切です。