目次

  1. IT導入補助金とは
  2. IT導入補助金の問題点、会計検査院が指摘
    1. キックバックや虚偽申請による不正受給
    2. ITツールの解約状況を正確に把握できていない
    3. 不正防止対策も不十分
    4. 生産性向上の効果把握にも不備

 会計検査院の公式サイトで公表された報告書によると、中小企業基盤整備機構は、国の運営費交付金や国庫補助金をもとに、中小企業生産性革命事業の一環として、サービス等生産性向上IT導入支援事業を実施しています。

 サービスデザイン推進協議会やTOPPANを事務局として、生産性向上に役立つITツールを導入する中小企業・小規模事業者に対し、経費の一部を補助するIT導入補助金を交付しています。

 IT導入補助金では、事前にメーカー、ベンダー、ソフトウェアの適合性などを審査し、IT導入支援事業者、ITツールとして登録する必要があります。IT導入補助金は、登録済みのIT導入支援事業者から登録済みのITツールを導入するための経費が補助対象となります。

 IT導入補助金の不正受給をめぐり、会計検査院が指摘した問題は以下の通りです。

IT導入事業が適正に行われていないなどの事態
IT導入事業が適正に行われていないなどの事態

 補助金計1億812万円でキックバックなどの問題が見つかりました。具体的には、IT導入支援事業者やその関係会社等から資金の還流を受けるなどして、中小企業などの自己負担額を減額または無償、もしくは自己負担額を上回る不当な利益を得ていたといいます。

 多くの場合は、ベンダーであるIT導入支援事業者側から持ちかけていたといい、キックバックに関与したベンダーは15社に上ります。15社が関与したのは1978事業(補助金交付額58億2891万円相当)に上り、事務局は引き続き調査を続けています。

 このほか、補助金2848万円分については、キックバックとは言えないものの、虚偽申請、第三者申請による不正によりIT導入補助金が過大に交付されていました。

 会計検査院の指摘を受けた中小機構や事務局は、IT導入支援事業者の登録を取り消し、IT導入補助金のウェブサイトで公表しました。中小企業などに向けても補助金の自主返還手続を呼び掛けています。

 このほか、IT導入補助金を使ってITツールを導入後、途中で解約した場合は、事務局に対して辞退届を提出し、補助金の交付取り消しや一部返還などが必要になります。

ITツールの解約状況を正確に把握できていないなどの事態
ITツールの解約状況を正確に把握できていないなどの事態

 事務局は、2023年4月以降、事業主体がITツールを現在も継続的に利用しているという宣誓事項に同意しなければ、ITツールの導入効果の報告ができない仕組みを導入していますが、ITツールを解約しているのに辞退届が未提出だったり、解約したのに、継続的に利用していると宣誓した上で導入効果の報告をしていたりするケースが相次ぎました。

 会計検査院はこのうち、1094万円分について不当事項として指摘しています。

 また、同一のITツール(取得価格の単価50万円以上)について、ITツールを減価償却する「資産」の科目で会計処理している企業と、減価償却するものとはせず「費用」の科目で会計処理している企業に分かれていることも判明。返還を求めるときの判断がまちまちになるといった問題もあると会計検査院は指摘しています。

 不正対策も不十分だったといいます。たとえば、補助金の採択審査などで、IT導入支援事業者が確認しているから、申請内容は基本的に正しいという前提で審査をしていたため、今回のような虚偽申請を検知できていませんでした。

 また、キックバックができるのは、十分な機能を備えていないITツールや高額ツールが使われることが想定されるのに、ITツールの実際の機能等や価格の妥当性について、現物を取り寄せることや市場価格の調査をしていなかったため、キックバックを防ぐのに十分な機能を備えていませんでした。

 中小機構も事務局も、警察からの捜査関係事項照会やコールセンターの通報から不正の疑義を把握していたはずなのに、会計検査院の調査で不正が多数判明するまで立入調査を一度も実施していませんでした。

 中小企業などは、交付申請のときに労働生産性の数値目標を達成可能なITツール導入後3年間の生産性関連情報の計画値を設定し、効果報告の際に実績を報告することになっています。

IT導入支援事業の効果を正確に把握できていない事態
IT導入支援事業の効果を正確に把握できていない事態

 しかし、報告が必要な323社の342事業(補助金交付額計9億256万円)のうち、255社の271事業(同6億7224万円)で数値の不備が判明しました。生産性の向上の目標を達成したと報告していたもののなかにも未達成が多数含まれることがわかりました。