目次

  1. 源泉徴収票の乙欄とは
  2. 源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄の違い
    1. 源泉徴収税額表の甲欄
    2. 源泉徴収税額表の乙欄
    3. 源泉徴収税額表の丙欄
  3. 源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄の見方
    1. 給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の見方
    2. 給与所得の源泉徴収税額表(日額表)の見方
    3. 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表
  4. 納税者区分が年度の途中で変更となった場合の手続き
    1. 乙欄から甲欄に変更となった場合
    2. 甲欄から乙欄に変更となった場合
    3. 丙欄から甲欄や乙欄に変更となった場合
  5. 源泉徴収税額表の乙欄に関する注意点
  6. 甲欄・乙欄・丙欄の納税者区分を正しく理解しましょう
源泉徴収票の乙欄
源泉徴収票の乙欄(筆者提供)

 源泉徴収票の乙欄とは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出有無と年末調整の実施状況を示す欄です。源泉徴収票の乙欄に「〇」がある場合、扶養控除等申告書が未提出で年末調整が行われていないことを意味します。この場合、摘要欄には「年調未済」と記入され、丙欄適用者(日雇賃金の支払を受けている人)はさらに「丙欄適用」と記入されます。

 税法上、給与等の支払を受ける従業員は、毎年初めに扶養控除等申告書を会社に提出しなければなりません。この申告書を提出した従業員には「甲欄」が適用され、年末調整が行われます。

 つまり、源泉徴収票の乙欄を見ることで、甲欄が適用されておらず、年末調整が行われていない従業員かどうかがすぐにわかるというわけです。

 年末調整が終わった後に会社が従業員に配布する源泉徴収票のことを、正確には「給与所得の源泉徴収票」といいます。給与所得の源泉徴収票は、1月1日~12月31日の1年間に会社が従業員に「支払った給与額」と、従業員から「源泉徴収した税額(所得税の金額)」が記載された書類です。

 源泉徴収税額の計算には、国税庁が毎年公開する「源泉徴収税額表」を使います。この税額表には、月額・日額・賞与の3種類があり、従業員の状況に応じて甲欄・乙欄・丙欄の区分が適用されます。

 ここでは、源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄の違いについて詳しく解説します。

源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄の違い
甲欄 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人の納税者区分
乙欄 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない人の納税者区分
丙欄 日雇賃金の支払を受けている人の納税者区分

 源泉徴収税額表の甲欄とは、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合に使用する納税者区分です。

 申告書の頭に「扶養控除等」と付いているため、扶養親族や配偶者がいない人は提出する必要はないと思い込んでしまう従業員が少なからずいますが、扶養親族や配偶者の有無にかかわらず提出が必要です。

 扶養控除等の申告がなければ、乙欄の納税者区分が適用され、より高い税負担が求められます。源泉徴収の際にさまざまな控除を受けることができず、年末調整も行われません。

 年末調整の際に配布される翌年分の申告書の提出がなければ、翌年は乙欄の納税者区分が適用されてしまう点にも注意が必要です。

 源泉徴収税額表の乙欄とは、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合に使用する納税者区分です。

 ただし、提出しようにも提出できない人もいます。2カ所以上の企業から給与等の支払を受けていて、その会社の給与が主たる給与ではない従業員です。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、主たる給与等の支払者である会社にしか提出できません。

 近年の働き方改革で、副業や兼業などのダブルワークを認めている会社の場合、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受ける際は、自社が主たる給与等の支払者であるかどうかを従業員に確認するようにしておきましょう。

 源泉徴収税額表の丙欄とは、日雇賃金を支給している場合に使用する納税者区分です。日雇賃金とは、日々雇い入れられる人が労働日数や時間によって給与計算が行われ、労働した日ごとに支払を受ける給与等のことをいいます。

 同じ給与等の支払者から継続して2カ月を超えて給与等が支払われた場合、その2カ月を超える期間分の給与等は日雇賃金に含まれません。

 日雇賃金に含まれない給与等の支払については、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していれば源泉徴収税額表の日額表の甲欄を、提出していなければ日額表の乙欄の納税者区分を使用することになります。

 では、実際に源泉徴収税額表の甲欄・乙欄・丙欄をどのように見たらよいのでしょうか。ここでは、それぞれの見方を紹介します。

給与等に関する源泉徴収税額表の種類 納税者区分
給与所得の源泉徴収税額表(月額表) 「甲欄」「乙欄」
給与所得の源泉徴収税額表(日額表) 「甲欄」「乙欄」「丙欄」
賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表 「甲欄」「乙欄」
給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の見方
給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の見方(筆者作成)

 月額表は、次の3つに区分されています。

 ・「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」
 ・甲欄(扶養親族等の数)
 ・乙欄

 社会保険料等控除後の給与等の金額とは、給与等の課税支給額から以下の社会保険料等の金額を控除した金額のことを意味します。

 ・健康保険料
 ・介護保険料
 ・厚生年金保険料
 ・雇用保険料

 実際に支払った社会保険料等控除後の給与等の金額が176,000円、扶養親族等の数が1人だった場合を例に解説します。

 従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合は甲欄を使用します。月額表の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」で176,000円を探します。

 176,000円は「175,000円以上、177,000円未満」に該当するので、同じ行の甲欄で扶養親族等の数が「1人」の欄を探しましょう。2,290円と記載されていますので、税額は2,290円であることがわかります。

 従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合は、乙欄を使用します。同じ行の乙欄を見てみると、12,700円と記載されています。乙欄の従業員は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していないわけですから、扶養控除の適用はなく、扶養親族等の数を確認する必要もありません。源泉徴収すべき税額は12,700円ということになります。

給与所得の源泉徴収税額表(日額表)の見方
給与所得の源泉徴収税額表(日額表)の見方(筆者作成)

 日額表は、次の4つに区分されています。

 ・「その日の社会保険料等控除後の給与等の金額」
 ・甲欄(扶養親族等の数)
 ・乙欄
 ・丙欄

 実際に支払った社会保険料等控除後の給与等の金額が3,120円、扶養親族等の数が0人だった場合を例に解説します。

 日雇賃金を従業員に支給している場合は丙欄を使用します。日額表の「その日の社会保険料等控除後の給与等の金額」で3,120円を探します。3,120円は「3,100円以上、3,150円未満」に該当するので、同じ行の丙欄を探しましょう。0円と記載されていますので、源泉徴収すべき税額がないことになります。

 日雇賃金に該当しない日給や週給等の支給を受けている従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合は、甲欄を使用します。同じ行の甲欄で扶養親族等の数が「0人」の欄を探します。15円と記載されていますので、税額は15円とわかります。

 日雇賃金に該当しない日給や週給等の支給を受けている従業員で「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合は、乙欄を使用します。同じ行の乙欄を見ると、110円と記載されています。源泉徴収すべき税額は110円ということになります。

賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の見方
賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の見方(筆者作成)

 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表は、これまでの月額表や日額表とは異なり、次のような区分が設けられています。

 ・「賞与の金額に乗ずべき率」
 ・甲欄(扶養親族等の数/前月の社会保険料等控除後の給与等の金額)
 ・乙欄

 前月の社会保険料等控除後の給与等の金額とは、賞与を支給する月の前月中に支給された給与等の課税支給額から以下の社会保険料等の金額を控除した金額のことを意味します。

 ・健康保険料
 ・介護保険料
 ・厚生年金保険料
 ・雇用保険料

 実際に支払った社会保険料等控除後の給与等の金額が176,000円、扶養親族等の数が1人だった場合を例に解説します。

 従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合は甲欄を使用します。算出率の表の甲欄の扶養親族等の数が「1人」で「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」である176千円を探します。

 176千円は「94千円以上、243千円未満」に該当するので、同じ行の「賞与の金額に乗ずべき率」の欄を探してみると、2.042%と記載されています。賞与の支給額から賞与から控除する社会保険料等の金額を控除した残額に、2.042%を乗じた金額(1円未満の端数は切り捨てます)が、その賞与から源泉徴収すべき税額となります。

 従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない場合は、乙欄を使用します。同じ行の乙欄を見てみると空欄になっています。その4行下を見てみると「222千円未満」と記載があります。

 乙欄の場合、甲欄のように「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」で細かな段階が設けられてはおらず、「222千円未満」「222千円以上、293千円未満」「293千円以上、524千円未満」と段階の幅がかなり広く設けられています。

 「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」が176千円だった場合は「222千円未満」の行で「賞与の金額に乗ずべき率」を探すことになります。10.210%と記載されているので、賞与の支給額から賞与から控除する社会保険料等の金額を控除した残額に、こちらの率を乗じた金額が源泉徴収すべき税額として求めることができます。

 甲欄適用の従業員は、正しく年末調整が行われた結果である源泉徴収税額が「給与所得の源泉徴収票」に記載されることになります。給与所得以外に特段の所得がなければ、確定申告の必要はありません。

 一方、「給与所得の源泉徴収票」の乙欄に「〇」が記入されている従業員は年末調整が行われていないため、確定申告を自身で行う必要があります。それに伴い、企業も手続きが必要になります。

 ここでは、納税者区分が年度の途中で変更となった場合、企業はどのような手続きをしなければならないのか、例を挙げて解説します。

 A社で正社員として勤務している従業員が、副業先のB社ではアルバイト勤務していたとします。A社には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、毎月の給与から甲欄の納税者区分で源泉徴収が行われています。一方、B社のアルバイト料からは乙欄の納税者区分で源泉徴収が行われています。

 年度の途中でA社を退職、B社で正社員として勤務することになった場合、それぞれの会社ではどのような手続きが必要となるのでしょうか。

 A社では、従業員の退職時に源泉徴収票を発行しなければなりません。源泉徴収票には年初から退職までに支払われた給与等から甲欄の納税者区分で源泉徴収した税額を記載することになります。摘要欄には「年調未済」と記入します。

 B社では、入社の際に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。年初から入社前までに支払われた給与等は乙欄の納税者区分、入社から年末までに支払われる給与等は甲欄の納税者区分で源泉徴収することになります。年末調整には、A社から発行された源泉徴収票の提出が必要です。年末調整後、従業員に発行する源泉徴収票には、A社に関する次の情報を摘要欄に記入しましょう。

 ・A社の会社名
 ・所在地
 ・退職日
 ・総支給額
 ・社会保険料等の控除額
 ・源泉徴収税額

 年度の途中でA社を正社員ではなくパートタイム勤務に変更、B社で正社員として勤務することになった場合はどうでしょうか。

 A社では、従業員が正社員として勤務していた期間の源泉徴収票(甲欄適用)と、パートタイム勤務していた期間の源泉徴収票(乙欄適用)を別々に作成しなければなりません。それぞれの摘要欄には「主たる給与等の支払者でなくなった旨」とその「年月日」を記入しておく必要があります。

 B社では、年末調整の際、従業員からA社で正社員として勤務していた期間の源泉徴収票(甲欄適用)を提出してもらいます。年末調整後、従業員に発行する源泉徴収票には、A社に関する次の情報を摘要欄に記入しましょう。

 ・A社の会社名
 ・所在地
 ・主たる給与の支払者でなくなった年月日
 ・総支給額
 ・社会保険料等の控除額
 ・源泉徴収税額

 C社で日雇賃金の支給を受けている従業員が2カ月を超えて雇用契約を継続することになった場合は、どのような手続きが必要となるのでしょうか。

 C社では、日雇賃金に該当する期間分(丙欄適用)と日雇賃金に該当しなくなった期間分を合算して源泉徴収票を発行することになります。

 後者の期間では、従業員が「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していれば源泉徴収税額表の日額表の甲欄の納税者区分、提出していなければ日額表の乙欄の納税者区分で源泉徴収を行います。

 甲欄の納税者区分を使用している場合は年末調整を行います。乙欄の納税者区分を使用している場合は摘要欄に「年調未済」と記入しましょう。

 従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されていなければ、会社は源泉徴収税額表の乙欄の納税者区分で毎月の源泉徴収を行わなければなりません。

 もし従業員からの提出がないにもかかわらず、会社が回収を怠ったまま毎月の源泉徴収を甲欄の納税者区分で行っていた場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

 万が一税務調査が入って指摘を受けた場合、納税者区分を誤っていた当初に遡ってすべての期間の差額分の税額を納付しなければなりません。給与等の金額によっては税額が相当な高額になることは避けられません。くれぐれも注意しましょう。

 従業員から扶養控除等申告書が提出されていない理由には、以下のようなケースが考えられますので、それぞれ注意が必要です。

従業員から扶養控除等申告書が提出されていないときに考えられる理由
会社が申告書の配布を忘れている 会社が配布を忘れていた場合、年末調整前までに必ず配布をし、きちんと回収することを心がけましょう
従業員が申告書の提出を忘れている 提出しない場合は年末調整は行わず、従業員自身で確定申告を行う必要があることを伝えましょう。提出がない従業員は乙欄の納税者区分で算出した税額で源泉徴収を行うため、甲欄と比べて高い税負担となることも忘れずに説明しておきましょう
2カ所以上から給与をもらっており、主たる給与の会社に申告書を提出している 副業や兼業などのダブルワークを認めている会社の場合、別の会社に扶養控除等申告書を提出しているため、その会社に提出しないケースが考えられます。提出のない従業員には、その理由を確認しておいた方が良いでしょう

 冒頭、源泉徴収票の「乙欄」の項目に着目しました。源泉徴収税額表で使用される納税者区分(甲欄・乙欄・丙欄)を従業員が直接目にする数少ない機会といえるでしょう。

 給与等の支払者である会社は、源泉徴収義務者です。源泉徴収票は、従業員に発行するためだけに作成する書類ではありません。会社の所轄税務署には給与所得の源泉徴収票等の法定調書として、従業員の住所地がある市区町村には給与支払報告書として、毎年1月末までに作成・提出が義務付けられている大切な書類でもあります。

 源泉徴収税額表の正しい見方・使い方を身につけ、毎月の給与等の源泉徴収や年末調整を正しく行うことを常日頃から心がけておくようにしましょう。