目次

  1. 米共和党の「トリプルレッド」 トランプ色前面に
  2. 最大の注目点は米中貿易摩擦の行方 日本企業にも影響
  3. 日本企業を直接標的にする可能性は低い
  4. 日中貿易に変化 日欧との関係再構築の可能性も

 選挙前の世論調査では、トランプ氏とハリス氏の支持率が拮抗し、結果が判明するまで数日を要する大接戦になるとの見方もありましたが、開票作業が始まるとトランプ氏の優勢がすぐに顕著になり、結果的にはトランプ氏の圧勝でした。

 トランプ氏は、選挙戦の勝敗を分けると言われるペンシルベニアやウィスコンシン、ノースカロライナなど7つの激戦州全てで勝利し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人に留まった民主党候補のハリス副大統領を大差で破りました。

 また、トランプ氏は今回の選挙で7500万票あまりを獲得し、2016年と2020年の大統領選挙を上回る獲得票数を記録するだけでなく、議会の上院と下院で共和党が過半数を獲得する「トリプルレッド」と呼ばれる状況となっています。

 さらに、トランプ氏は2期目ということで再選できるかどうかの支持率を気にする必要がなく、政権人事でも1期目の教訓から自らに忠誠的な要人を重要ポストに起用していることから、1期目以上にトランプ色が強くなると言われています。

 では、第2次トランプ政権の誕生によって、日本企業にはどのような影響が考えられるのでしょうか。

 まず、トリプルレッド達成により、トランプ次期大統領の減税政策などでインフレ圧力が高まるとの観測から長期金利が上昇したため、2024年11月14日の東京外国為替市場の円相場は、一時1ドル=156円台まで値下がりし、約4カ月ぶりの円安ドル高となりました。

 国際経済に目を向けると、最大の注目点は、米中貿易摩擦の行方です。トランプ氏は、政権2期目で外交・安全保障政策を担う国務長官や安全保障担当の大統領補佐官に対中強硬派を起用するようです。

 国務長官には対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員を起用される予定ですが、ルビオ氏は新疆ウイグルの人権問題を強く非難し、台湾を軍事的に支援する立場に徹しています。安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が起用される予定で、ウォルツ氏も軍備拡張が進む中国海軍に対抗するため米海軍の艦船や装備を増強する必要性を訴えます。

 このような人事から、第2次トランプ政権が中国に対して厳しい姿勢で臨むことは間違いありません。

 そして、第2次トランプ政権の米中対立の主戦場は、経済や貿易の領域となるでしょう。トランプ氏は選挙戦の最中から中国製品に対する関税を一律60%に引き上げると主張していますが、これは選挙公約のようなもので、政権発足後に実行に移されていく可能性が高いでしょう。

 中国で製品を作り、それを米国へ輸出する日本企業も多いですが、その製品も関税60%の対象となることは避けられず、大きな負担になる可能性があります。

 また、トランプ氏はメキシコから入ってくる輸入車に対する関税を「必要なら」200%に引き上げると示唆しています。これはメキシコで自動車を生産し、それを米国へ輸出する中国企業を意識したものであるものの、日本の大手自動車メーカーもメキシコで製造し、米国へ輸出していることから、関税200%の影響を受けることになります。

 これについて、メキシコで生産している自動車の8割を米国へ輸出しているホンダは11月6日にオンラインで実施した決算説明会で、強い懸念を示しました。

 また、トランプ氏は中国を除く外国製品に対する関税も10%〜20%引き上げると主張していますが、これも実行に移されることになるでしょう。日本や欧州など米国の同盟国が適用外になることはあり得ず、日本企業はトランプ政権の関税政策に直面していくことが考えられます。

 トランプ氏は自らをタリフマン(関税男)と自認しており、政権1期目の時に米国の対中貿易赤字を是正する目的で、2018年から4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す制裁措置を次々に打ち出していきました。

 中国もそれに対して報復関税を仕掛けるなどし、米中間では米中貿易摩擦が激化していきました。しかし、トランプ氏はそれを超える60%の関税を示唆し、上述のとおり、トランプ氏はトリプルレッドという最高の政治環境下にあり、中国に対する貿易規制で1期目以上に強硬姿勢に出る可能性が懸念されます。

アメリカ大統領選の日本企業向けアンケート調査
アメリカ大統領選の日本企業向けアンケート調査(東京商工リサーチの公式サイトのデータをもとに編集部作成)

 東京商工リサーチが実施したアンケートで日本企業の間では、トランプ氏とハリス氏のどちらが望ましいかという問いに対して、ハリス氏の勝利を望む声が多かったこともあり、トランプ再選によってその後の影響を懸念する声が聞かれます。

 しかし、トランプ氏が日本企業を直接標的とするような行動に出る可能性は低く、石破政権下でも基本的には安定的な日米関係が継続していると考えられます。対中国を進めるにあたり、トランプ政権にとっても日本は重要なパートナーであり、それはバイデン政権だろうがトランプ政権だろうが変わりはありません。

 一方、トランプ政権の発足により、対中国での結束、米欧関係、対北朝鮮での日米韓の結束などには変化が生じてくると考えられ、中国はそこを上手く生かそうと考えていると思われます。今後の国家間関係の変化に注目していく必要があります。

 第2次トランプ政権が保護主義的な姿勢を全面に出してくることは想像に難くありません。これに対し、中国がトランプ政権1期目のように米国に対する報復関税を仕掛けることに集中せず、欧州や日本などと経済や貿易の面で関係を再構築しようとする可能性が考えられます。

 バイデン政権下では、民主主義諸国の間で中国による経済的威圧や戦略物資の過剰生産などに強い懸念が示され、経済安全保障の観点から対中国で結束する動きが広がりましたが、トランプ政権の発足によってそういった動きが後退することが考えられます。

 対する中国はトランプ政権の発足によって米国の保護貿易的な動きを自由貿易に対する脅威と訴え、米国から日本や欧州などを遠ざけようとする姿勢に転じる可能性があります。

 習近平国家主席は11月にブラジルで開催されたG20の首脳会議で、「中国はグローバルサウスの一員であり、多国間主義と国連を中心とする国際システムを堅持する」、「単独主義と保護主義に反対するべきであり、開かれた世界経済を構築する必要がある」と主張するなど、中国の存在感が目立ちました。これは保護貿易主義的な姿勢を示すトランプ政権を念頭に置いた発言と考えられます。

 11月のAPEC首脳会議でも、習氏は石破首相をはじめ、環太平洋地域の首脳との会談を設けていました。近年、日本産水産物の全面輸入停止、先端半導体の覇権競争をめぐる日中摩擦などにより、日本と中国の経済・貿易関係は良好とは言えませんでしたが、今後は中国側の反応が注目されます。