目次

  1. 政府の総合経済対策とは
  2. 賃上げ促進のための価格転嫁支援
  3. 省力化・デジタル化投資の促進
  4. 中堅・中小企業の経営基盤の強化・成長の支援(事業承継・M&Aも)
  5. 103万円の壁とガソリン減税も検討へ

 政府の総合経済対策とは、補正予算だけでなく、税制、制度・規制改革などを含めた総合的な経済対策のことを指します。石破首相として初となる総合経済対策は以下の3つの柱で構成されています。()内は各項目の財政支出額です。

  • 賃金・所得の増加に向けた経済の成長(10.4兆円程度)
  • 物価高への対応(4.6兆円程度)
  • 安心・安全の確保(6.9兆円程度)

 総合経済対策全体としては、実質GDPを1.2%程度(年成長率換算)押し上げる効果が見込まれると説明しています。

 経済対策のねらいの一つとして、石破首相は記者会見で「最低賃金の引上げ、あるいは中小企業を始めとした事業者の皆様方が、確かにもうかり、現下の賃上げができますように、経営基盤の強化、成長のための支援、これは具体的には価格が転嫁されるということをちゃんと後押しをする仕組みを構築し、実施をする。あるいは、省力化、デジタル化投資、これを支援するということであります」と説明しています。

 「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~」は内閣府の公式サイトで確認できます。

 経済対策のなかから中小企業に関連する部分を中心に紹介します。

 経済対策では「適切な価格転嫁と生産性向上支援によって、最低賃金の引上げを後押しし、2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」と明記。

企業数の99%以上、従業者数の70%近くを占める中小企業を中心として、価格転嫁の円滑化等の環境整備を推進するとともに、経営基盤の強化・成長に向けた支援を充実する
企業数の99%以上、従業者数の70%近くを占める中小企業を中心として、価格転嫁の円滑化等の環境整備を推進するとともに、経営基盤の強化・成長に向けた支援を充実する

 中小企業が賃上げの原資を確保するためには、政府が価格転嫁を後押しすることが鍵となるとして、政府は、これまで取り組んできた以下の政策を一層強化するとしています。

  • 価格交渉促進月間を活用した交渉・転嫁の要請
  • 下請Gメンによる取引実態調査
  • 下請かけこみ寺との連携による情報収集
  • 公正取引委員会と連携した下請法の執行強化
  • パートナーシップ構築宣言のさらなる拡大と実効性向上
  • 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針
サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法の執⾏強化等に取り組む
サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法の執⾏強化等に取り組む

 さらに、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法について、コスト上昇局面における価格据置きへの対応、荷主・物流事業者間の取引への対応、事業所管省庁の指導権限の追加などについて改正を検討し、早期に国会に提出することを目指すことを明らかにしました。

 また、2024年11月に手形サイト短縮に係る指導基準の見直しをしましたが、さらに、約束手形・電子記録債権等の支払サイトの短縮・現金払い化、2026年の約束手形の廃止に向けて力を入れるとしています。

 建設業・物流業界に向けては、第三次・担い手3法・改正物流法を着実に施行し、その内容の周知広報を徹底するといいます。多重の下請け構造の適正化に向けた実態調査、適正な見積りの普及、建設Gメンやトラック・物流Gメンを活用した事業者間の取引の調査・改善指導を強化します。

 自動車整備業では賃金状況の実態調査を予定しています。警備業については、2024年8月に改定された業界の自主行動計画を踏まえ、民民の取引及び官公需で、労務費を含めた適切な価格転嫁を進める。

 クリエイターとの取引慣行を是正していくため、音楽・放送分野について、公正取引委員会の実態調査を2024年内に完了し、その結果を踏まえ、実演家と事務所との間の契約を適正化する観点から指針を作成する予定です。

 このほか、国内映像制作に関する事業者向け支援として、労働基準法の準拠等を定めるガイドラインに沿って対応を行う事業者を優先的に支援します。クリエイターの作品が適法かつ円滑に利用され、適正な対価還元が促進されるよう、オンライン上での権利情報集約・情報検索を可能とする分野横断権利情報検索システム及び個人クリエイター等権利情報登録システムの構築にも取り掛かる予定です。

 人手不足が深刻化するなか、中小企業向けの補助金の柱の一つは2025年も「省力化・デジタル化」となります。

人手不足が深刻化する中、省力化投資に関して、カタログから選ぶような汎用製品の導入に加え、業務に応じたソフトウェアの簡易な選択及び導入を支援する。その際、生産現場のみならず、会計事務等を効率化するためのIT化も支援するとともに、導入後のサポート支援も行う
人手不足が深刻化する中、省力化投資に関して、カタログから選ぶような汎用製品の導入に加え、業務に応じたソフトウェアの簡易な選択及び導入を支援する。その際、生産現場のみならず、会計事務等を効率化するためのIT化も支援するとともに、導入後のサポート支援も行う

 省力化投資について、カタログから選ぶような汎用製品の導入に加え、業務に応じたソフトウェアの簡易な選択や導入も支援する予定です。生産現場のみならず、会計事務などを効率化するためのIT化も支援するとともに、導入後のサポート支援も加えます。

 さらに、事業者それぞれの業務に応じたオーダーメイド型の省力化投資を支援することや、中堅・中小企業が工場等の拠点を新設する場合や大規模な設備投資への支援、産業立地を推進するための地域未来投資促進法等を活用した設備投資や産業用地確保の支援も盛り込んでいます。

 賃上げを更に普及・拡大するためには、中小企業が稼ぐ力を強化し、その原資を確保できるよう支援することが必要であるとしています。

 その一環として、M&Aと事業承継の環境整備に取り組むとしています。M&A関連で強化することとして以下を挙げています。

  • 2024年8月に改訂した「中小M&Aガイドライン」を周知徹底
  • 「中小PMIガイドライン」「PMI実践ツール」の周知
  • 複数回のM&Aによるグループ化を後押しするため、中堅・中小グループ化税制等の活用を促進
  • 事業承継税制の特例措置について、2024年内を目途に役員就任要件の見直しを検討
  • 事業承継・引継ぎ支援センターによる中小企業・小規模事業者の事業承継支援を強化

 中小企業の経営改善・事業再生・再チャレンジも以下のように支援します。

  • 中小企業に対する民間金融機関のプロパー融資を促進するため、民間金融機関が行う信用保証付融資の保証料引き下げ
  • 協調支援型の信用保証制度を新設
  • 経営改善・事業再生に取り組む事業者の資金繰りを後押しする信用保証制度を新設
  • 成長する中小企業に対しても、資本性劣後ローンの利用を促進
  • 中小企業活性化協議会による再生計画策定の支援等を通じ、経営改善・事業再生・再チャレンジを支援

 さらに、経営者の判断により早期の事業再構築を進めることができるよう、多数決によって金融負債の整理を進めることができる法案について、早期に国会に提出することを目指すとしています。

 売上高100億円超の中小企業を創出する支援策にも力をいれます。事業転換、革新的な新商品・サービスの開発、販路開拓、海外展開、M&A、人材育成等をハード・ソフトの両面で支援する予定です。

 さらに売上高100億円超を目指す中小企業に対し、官民ファンドからのリスクマネー供給及びハンズオン支援を行うとともに、その設備投資に対する支援策を検討する。国際協力銀行(JBIC)を通じて、成長力に資する国内の中堅・中小企業の海外展開について、地域金融機関とともに支援します。

 中小企業の生産性向上と成長を加速するため、地域の金融機関、ITベンダー、コンサルタント等の支援機関と連携するIT導入・活用支援の更なる充実、全国の地域DX推進ラボとよろず支援拠点の連携強化を通じて、全国的にDX支援の裾野を広げようとしています。

 このほか、「103万円の壁」については、2025年度税制改正の中で議論し引き上げると明記されました。

 また、いわゆる暫定税率の廃止を含む「ガソリン減税」については、自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得るとしています。