政府の総合経済対策、中小企業向けに省力・デジタル化を支援 M&Aも強化
石破茂首相は2024年11月22日、首相官邸で記者会見し、閣議決定した「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」について説明しました。財政支出は21.9兆円規模となる経済対策のうち、中小企業に関連する賃上げ促進のための価格転嫁支援、省力化・デジタル化投資の促進、M&A強化などについて整理しました。
石破茂首相は2024年11月22日、首相官邸で記者会見し、閣議決定した「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」について説明しました。財政支出は21.9兆円規模となる経済対策のうち、中小企業に関連する賃上げ促進のための価格転嫁支援、省力化・デジタル化投資の促進、M&A強化などについて整理しました。
政府の総合経済対策とは、補正予算だけでなく、税制、制度・規制改革などを含めた総合的な経済対策のことを指します。石破首相として初となる総合経済対策は以下の3つの柱で構成されています。()内は各項目の財政支出額です。
総合経済対策全体としては、実質GDPを1.2%程度(年成長率換算)押し上げる効果が見込まれると説明しています。
経済対策のねらいの一つとして、石破首相は記者会見で「最低賃金の引上げ、あるいは中小企業を始めとした事業者の皆様方が、確かにもうかり、現下の賃上げができますように、経営基盤の強化、成長のための支援、これは具体的には価格が転嫁されるということをちゃんと後押しをする仕組みを構築し、実施をする。あるいは、省力化、デジタル化投資、これを支援するということであります」と説明しています。
「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~」は内閣府の公式サイトで確認できます。
経済対策のなかから中小企業に関連する部分を中心に紹介します。
経済対策では「適切な価格転嫁と生産性向上支援によって、最低賃金の引上げを後押しし、2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」と明記。
中小企業が賃上げの原資を確保するためには、政府が価格転嫁を後押しすることが鍵となるとして、政府は、これまで取り組んできた以下の政策を一層強化するとしています。
さらに、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法について、コスト上昇局面における価格据置きへの対応、荷主・物流事業者間の取引への対応、事業所管省庁の指導権限の追加などについて改正を検討し、早期に国会に提出することを目指すことを明らかにしました。
また、2024年11月に手形サイト短縮に係る指導基準の見直しをしましたが、さらに、約束手形・電子記録債権等の支払サイトの短縮・現金払い化、2026年の約束手形の廃止に向けて力を入れるとしています。
建設業・物流業界に向けては、第三次・担い手3法・改正物流法を着実に施行し、その内容の周知広報を徹底するといいます。多重の下請け構造の適正化に向けた実態調査、適正な見積りの普及、建設Gメンやトラック・物流Gメンを活用した事業者間の取引の調査・改善指導を強化します。
自動車整備業では賃金状況の実態調査を予定しています。警備業については、2024年8月に改定された業界の自主行動計画を踏まえ、民民の取引及び官公需で、労務費を含めた適切な価格転嫁を進める。
クリエイターとの取引慣行を是正していくため、音楽・放送分野について、公正取引委員会の実態調査を2024年内に完了し、その結果を踏まえ、実演家と事務所との間の契約を適正化する観点から指針を作成する予定です。
このほか、国内映像制作に関する事業者向け支援として、労働基準法の準拠等を定めるガイドラインに沿って対応を行う事業者を優先的に支援します。クリエイターの作品が適法かつ円滑に利用され、適正な対価還元が促進されるよう、オンライン上での権利情報集約・情報検索を可能とする分野横断権利情報検索システム及び個人クリエイター等権利情報登録システムの構築にも取り掛かる予定です。
人手不足が深刻化するなか、中小企業向けの補助金の柱の一つは2025年も「省力化・デジタル化」となります。
省力化投資について、カタログから選ぶような汎用製品の導入に加え、業務に応じたソフトウェアの簡易な選択や導入も支援する予定です。生産現場のみならず、会計事務などを効率化するためのIT化も支援するとともに、導入後のサポート支援も加えます。
さらに、事業者それぞれの業務に応じたオーダーメイド型の省力化投資を支援することや、中堅・中小企業が工場等の拠点を新設する場合や大規模な設備投資への支援、産業立地を推進するための地域未来投資促進法等を活用した設備投資や産業用地確保の支援も盛り込んでいます。
賃上げを更に普及・拡大するためには、中小企業が稼ぐ力を強化し、その原資を確保できるよう支援することが必要であるとしています。
その一環として、M&Aと事業承継の環境整備に取り組むとしています。M&A関連で強化することとして以下を挙げています。
中小企業の経営改善・事業再生・再チャレンジも以下のように支援します。
さらに、経営者の判断により早期の事業再構築を進めることができるよう、多数決によって金融負債の整理を進めることができる法案について、早期に国会に提出することを目指すとしています。
売上高100億円超の中小企業を創出する支援策にも力をいれます。事業転換、革新的な新商品・サービスの開発、販路開拓、海外展開、M&A、人材育成等をハード・ソフトの両面で支援する予定です。
さらに売上高100億円超を目指す中小企業に対し、官民ファンドからのリスクマネー供給及びハンズオン支援を行うとともに、その設備投資に対する支援策を検討する。国際協力銀行(JBIC)を通じて、成長力に資する国内の中堅・中小企業の海外展開について、地域金融機関とともに支援します。
中小企業の生産性向上と成長を加速するため、地域の金融機関、ITベンダー、コンサルタント等の支援機関と連携するIT導入・活用支援の更なる充実、全国の地域DX推進ラボとよろず支援拠点の連携強化を通じて、全国的にDX支援の裾野を広げようとしています。
このほか、「103万円の壁」については、2025年度税制改正の中で議論し引き上げると明記されました。
また、いわゆる暫定税率の廃止を含む「ガソリン減税」については、自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得るとしています。
企業数の99%以上、従業者数の70%近くを占める中小企業を中心として、価格転嫁の円滑化等の環境整備を推進するとともに、経営基盤の強化・成長に向けた支援を充実する
サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるため、下請法の執⾏強化等に取り組む
人手不足が深刻化する中、省力化投資に関して、カタログから選ぶような汎用製品の導入に加え、業務に応じたソフトウェアの簡易な選択及び導入を支援する。その際、生産現場のみならず、会計事務等を効率化するためのIT化も支援するとともに、導入後のサポート支援も行う
全国津々浦々の地方公共団体において、産官学金労言から成る地域のステークホルダーが知恵を出し合い合意形成に努めるなど、地域の希望・熱量・一体感を取り戻す形で、新たな地方創生施策(地方創生2.0)を展開する。
特区において取り組む制度・規制改革に関する提案募集を継続するとともに、現在検討中の事項について、早期に具体化することを目指す。 ・ドローンのレベル4飛行に係るエリア単位での飛行許可の実現に向けた措置(福島県、長崎県)【2024年度内を目途に所要の措置を講じる】 ・ 銀行によるGX関連事業に対する出資規制の緩和(北海道)【2024 年内を目途に所要の措置を講じる】 ・ 在留資格認定証明書交付申請手続の英語対応(札幌市、大阪府・市、福岡県・市 【2024年度内に所要の措置を講じる】
改正食料・農業・農村基本法に掲げられた食料安全保障の確保等に向け、初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進められるよう、2024年度内に基本計画を改定する。人口減少下においても、農林水産業・食品産業の生産基盤を強化し、安定的な輸入と備蓄を確保することなどを通じて、食料システム全体が持続的に発展し、活力ある農村を後世へ引き継げるよう、施策を充実・強化する。
観光地の再生・高付加価値化を進めるため、観光・宿泊施設の改修を支援する。訪日観光客の地方への誘客を促進するため、地域の多様な観光資源を活かした体験コンテンツの造成、高付加価値なインバウンド観光地づくりを支援する。デジタル技術を活用したオーバーツーリズムの防止・抑制に資する観光需要の分散・平準化、バリアフリー設備の整備、観光地における二次交通の確保など、訪日外国人旅行者の受入環境整備を支援する。
海洋分野は「海洋基本計画」「海洋開発等重点戦略」に基づき、自律型無人探査機(AUV)等の利用実証、海洋情報の産業分野での利活用促進、南鳥島周辺海域のレアアース生産の社会実装に向けた取組を推進する。管轄海域保全のための国境離島の状況把握の「地形照合システム」の整備、北極域研究船「みらいⅡ」の建造等を加速し、より精度の高い海洋調査、資源開発及び海洋状況把握を可能とすることを含め、海洋の開発・利用を進める。
宇宙分野においては、スタートアップ、民間企業、大学等が複数年度にわたって行う技術開発や実証、商業化への支援を加速・強化するため、「宇宙戦略基金」について、総額1兆円規模の支援を目指す。その際、防衛省等の取組と連携し、政府全体として適切な支援とする。日米首脳共同声明で掲げた米国人以外で初となる日本人宇宙飛行士の月面着陸という目標の実現に向け、アルテミス計画における与圧ローバの開発を本格化する。準天頂衛星システムについて、7機体制を整備し、11機体制に向けた開発を進める。官民のロケット開発や打上げ高頻度化、衛星コンステレーションの構築、次期気象衛星の整備など、宇宙分野を成長産業とする取組を一体的に進める。
フュージョンエネルギーの早期実現と産業化を目指し、ITER計画の実施や世界最大の超伝導トカマク装置(JT-60SA)の2025年度加熱運転開始に向けた機器の整備に加え、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構をイノベーション拠点とするための実証試験施設・設備群を整備し、官民の研究開発力を強化する
災害情報の全体把握や被災者支援の充実等に向け、新総合防災情報システムを中核とする防災デジタルプラットフォームやデータ連携基盤の構築・活用、ドローン等の防災IoTデータの収集・共有、次期物資調達・輸送調整等支援システムの整備等による備蓄状況の可視化・共有、官民の多様なシステムの相互連携等を推進する。
日本が高い潜在力を持つ地熱発電や中小水力発電については、早期の事業化を支援する。地熱発電の有望な開発地域の地表調査・坑井掘削調査の支援、次世代型地熱技術の事業化に取り組む。中小水力の未開発地点の調査や地方公共団体の案件形成に向けた調査を支援する。
特に物価高の影響を受ける低所得者に対し、迅速に支援を届ける。2023年度から地方公共団体が行ってきた物価高対策を支援するための「重点支援地方交付金」のうち「低所得世帯支援枠」について、低所得世帯の食料品やエネルギー関係等の消費支出に対する物価高の影響のうち賃上げや年金物価スライド等で賄いきれない部分を概ねカバーできる水準として、住民税非課税世帯一世帯当たり3万円を目安として、給付金の支援を行う。また、住民税非課税世帯のうち、子育て世帯については世帯人数が多いことを考慮して、子ども一人当たり2万円を加算する。
「重点支援地方交付金」が物価高の影響緩和に必要とされる分野に迅速かつ有効に活用されるよう、医療・介護や中小企業といった各行政分野を所管する府省庁が、地方公共団体に対し、物価高対策として特に必要かつ効果的であって広く実施されることが期待される事業について、優良な活用事例を始め必要な情報を積極的に提供し、それらの分野における重点的な活用を推奨するとともに、活用状況を定期的にきめ細かくフォローアップするなど、十分な取組を行う。
物価高により厳しい状況にある生活者を支援するため、家庭の電力使用量の最も大き い時期である1月から3月の冬期の電気・ガス代を支援する。生活困窮者への灯油購入の助成や消防・救急車両等の燃料油代の増額など、地方公共団体が実施する原油価格高騰対策に対して、特別交付税を措置する。
家庭分野については、省エネ性能に優れた住宅の普及を促進するため、子育て世帯や若者夫婦世帯を対象とした高水準の省エネ住宅の新築、住宅の省エネリフォームを支援する。断熱窓への改修、高効率給湯器の導入を支援する。
令和6年能登半島地震やその後の豪雨により度重なる被害を受けた能登半島の復旧及び創造的復興を一層加速する。道路の早期復旧、災害公営住宅の建設など住まいの確保、災害廃棄物処理の加速化等の生活環境の整備、心のケアの充実を含め被災者の生活再建を進めるとともに、産業の再建支援や雇用対策など、被災事業者のなりわいの再建、国定公園施設の復旧を進める。令和6年能登半島地震を含め、近年の自然災害で被災したインフラや病院、学校等の公共施設等の復旧を進める。今後も、甚大な豪雨被害や地震被害が発生した場合は、その復旧・復興に当たっては、これまでに策定した支援パッケージを踏まえながら、早急かつ柔軟に対応する。
自然災害への備えに万全を期すため、発災時に快適なトイレ、プライバシーを守るパーティション、簡易ベッド、温かい食事を速やかに提供できるよう、必要な資機材の備蓄を推進し、キッチンカー、トレーラーハウス、トイレカー等の登録制度を創設するなど、避難所環境の抜本的改善に取り組む。女性の視点を活かした避難所運営等に取り組む。避難所となる全国の学校体育館への空調整備について、ペースの倍増を目指して計画的に進める。政府の災害対応体制の強化、被災自治体・被災者への支援の強化等に向けて必要な制度見直しを行う法改正を検討し、早期に国会に提出することを目指す。防災庁の設置に向けた準備を進める。
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