政府の重点施策に事業承継・M&A 100億円企業の創出促進も
政府が2024年11月にも総合経済対策へ盛り込む重点施策の一つとして、事業承継・M&Aが挙がっています。中小企業の事業承継・M&Aを促進するため、事業承継税制や中堅・中小グループ化税制などを最大限に活用するとみられます。ただし、社会問題化している不適切な買手によるM&Aトラブルへの対応については触れられていません。
政府が2024年11月にも総合経済対策へ盛り込む重点施策の一つとして、事業承継・M&Aが挙がっています。中小企業の事業承継・M&Aを促進するため、事業承継税制や中堅・中小グループ化税制などを最大限に活用するとみられます。ただし、社会問題化している不適切な買手によるM&Aトラブルへの対応については触れられていません。
目次
政府は2024年10月30日、総理大臣官邸で第30回新しい資本主義実現会議を開催しました。そのなかで、重点施策の一つとして、事業承継とM&Aが取り上げました。
ただし、中堅・中小企業の賃上げ環境の整備に向けた施策の一つとしてであり、石破首相は会議のなかで「経営力を高め、生産性を向上させるため、M&A(買収と合併)を通じたグループ化や事業承継を着実に支援してまいります」と発言しています。
具体的には、政府が示した「重点施策」のなかで、事業承継やM&Aについては以下のように報告しています。
後継者が不在の企業のうち7割以上は黒字企業であり、黒字企業であっても、後継者が不在であるために廃業に至る可能性がある。承継者については、近年、同族承継が低下し、企業内部からの昇格や M&Aによる外部からの就任が増加している。
また、M&Aは、従業員1人あたり売上高を伸ばし、複数回実施すると売上、利益、労働生産性、成長指標(修正ROIC)が上昇することが確認されている。
このため、事業承継税制や中堅・中小グループ化税制等、予算・税制措置を最大限に活用することにより、中小・小規模企業の多様な事業承継やM&A・グループ化を推し進め、成長・生産性向上を一層促進する。また、経営人材の確保について官民を挙げた広範なマッチングを進める。
重点施策のなかで取り上げた支援策は以下の通りです。
事業承継・引継ぎ支援センターとは、親族内や第三者を問わず事業承継のワンストップ支援をするために47都道府県に設置している国の公的相談窓口です。政府は、重点施策で、この窓口機能を強化して、後継者不在の中小企業・小規模事業者と譲受を希望する事業者とのマッチングや、事業承継計画の策定を支援することを挙げています。
政府は、改正産業競争力強化法で中堅企業を新たに定義し、成長意欲のある中堅企業に対する成長支援を強化しています。域内経済牽引や外需拡大に貢献し、賃上げを可能にする持続的な利益を生み出す目安の一つを売上高100億円超と定義。
政府はこうした100億企業への成長を志向する中小企業へのリスクマネーの供給等を通じて、100億企業の創出を促進することを計画しています。
事業承継税制には、事業承継時の相続税・贈与税負担を実質ゼロにする特例措置があります。ただし、この特例が認められるためには、承継時に、後継者が役員に就任して3年以上経過している必要があります。
特例承継計画の提出期限はすでに2026年3月末まで延長されたものの、後継者が役員に就任していない場合、特例措置の期限である2027年12月末の3年前となる2024年の12月末までに、役員に就任する必要があるため、この要件の見直しを検討しています。
M&A後の成長に向けては、円滑な経営統合(PMI:Post Merger Integration)が必要ですが、まだPMIが定着しているとは言えません。
そこで、PMIにおけるポイントを解説する「中小PMIガイドライン」やPMIの実施時に活用できる「PMI実践ツール」の浸透を図る予定です。同時に、事業承継・引継ぎ補助金において、PMIへの支援を予定しています。
コロナ禍の影響で、債務残高が積みあがった企業が増えました。しかし、債務の減免のために私的整理するには、すべての貸し手の同意がなければ債務の減免等の権利変更ができず、早期かつ迅速な事業再構築が行いづらいという課題がありました。
そこで、企業の事業再構築を容易にするため、金融債権者全員の同意がなくても、多数決により金融債務の減額を可能とする法案を早期に国会に提出することを計画しています。
経営者保証がM&A・事業承継の支障となるという指摘があることから、金融機関が整備すべき態勢などの明確化するため、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の一部改正が2024年10月に施行されました。
具体的には「主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した場合において、どうすれば経営者保証の解除の可能性が高まるか等の説明を事業者にすることを金融機関に求める」としています。これについて遵守徹底を図るとしています。
事業性融資推進法(事業性融資の推進等に関する法律)とは、事業者が不動産担保や経営者保証などによらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるようにするための法律です。
2024年6月に参院本会議で可決、成立しました。2年半以内に施行予定です。
施行までに、政府令などの整備や、実務上の課題について議論を行うなどの環境整備に取り組むほか、企業価値担保権の制度趣旨等に関する周知・広報等に取り組むことを挙げています。
以上のように、重点施策では「事業承継・M&A」の項目でありながら、M&Aの推進に重点が置かれています。M&Aは中小企業の後継者不足を解決する一手段ではあるものの、不適切な買手によるM&Aトラブルが社会問題化しています。
中小企業庁は事業者向けに注意を呼び掛けたり、2024年10月29日付けで不適切なM&Aを支援した15の仲介会社に対し、適切な対策の検討・実施を指示したりしました。
ただし、M&A仲介が売り手・買い手両方を仲介する「両手取引」など根本的な業界構造は変わっておらず、不適切なM&Aをどの程度抑止できるかは不透明です。
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