価格転嫁とは 交渉方法や事例・役立つツールをわかりやすく紹介
価格転嫁は、原材料・人件費・光熱費などあらゆるモノ・サービスが値上げするなかで中小企業にとって必要な交渉です。中小企業庁や公正取引委員会はコストの上昇分を取引価格に反映することに消極的な企業を実名リストとして公表しています。今後、どのように価格交渉すればよいのか、交渉方法や事例、役立つツールを紹介します。
価格転嫁は、原材料・人件費・光熱費などあらゆるモノ・サービスが値上げするなかで中小企業にとって必要な交渉です。中小企業庁や公正取引委員会はコストの上昇分を取引価格に反映することに消極的な企業を実名リストとして公表しています。今後、どのように価格交渉すればよいのか、交渉方法や事例、役立つツールを紹介します。
目次
価格転嫁(かかくてんか)とは、原材料・人件費・光熱費のコスト上昇分を製品やサービス価格に上乗せすることです。下請取引の公正化や下請事業者の利益保護のための代表的な法律に「下請法」があります。「下請代金支払遅延等防止法」では、下請取引上の親事業者の義務と禁止行為を定めています。
しかし、それでも親事業者と下請け事業者との間の取引では、十分に価格転嫁が進んでいないことが課題となっていました。
帝国データバンクの2022年12月調査(有効回答企業数は1万1680社、回答率43.0%)によると、自社の主な商品・サービスにコストの上昇分をどの程度転嫁できているかと尋ねたところ、回答の割合は次の通りでした。
ただし、価格転嫁をしたいと考えている企業の販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は39.9%でした。つまり、コストが100円上昇した場合に39.9円しか販売価格に反映できていないのが現状です。
さらに価格転嫁できない、価格転嫁が難しい理由を尋ねたところ、次の通りでした。
そこで、政府は下請け企業との価格交渉や価格転嫁に後ろ向きな企業を法律にもとづいて公表しています。
中小企業庁の公式サイトは2023年2月、コスト上昇分を下請け企業との取引価格に反映しているかどうかを受注側の中小企業の回答結果を整理した発注企業リストを公表しました。10社以上の下請けから名指しされた発注元150社の実名も公表しました。
4段階評価で、価格転嫁について、平均点が最も低かったのは「日本郵便」でした。この結果に対し、日本郵便の公式サイトは全国約1000の集配郵便局全局および全国13支社で、配達・集荷などの委託契約に関する自主点検をしました。
すると、取引先からのコスト上昇を理由とした委託料の引上げ要請に対し、「取引先と協議することなく委託料を据え置く」または「委託料を据え置いた際、その理由を文書やメールで回答していない」事例が139局と2支社で見つかりました。
また、価格交渉で平均点が最も低かったのは、産業用機械を手がける「不二越」でした。
価格転嫁・価格交渉ともに、4段階評価で下から2番目の低評価だったのは次の企業でした。
五洋建設
三井住友建設
東芝プラントシステム
オカムラ
NTN
関⻄電⼒
⼀条⼯務店
ダイフク
前⽥道路
オリックス⾃動⾞
凸版印刷
⽇⽴グローバルライフソリューションズ
佐川急便
関電⼯
⽇本郵便輸送
中電工
価格交渉について4段階評価で下から2番目の低評価だったのは次の企業でした。
三機⼯業
東急コミュニティー
スズキ
トーエネック
価格転嫁について4段階評価で下から2番目の低評価だったのは次の企業でした。
NTTドコモ
ヤマト運輸
清⽔建設
⽇本特殊陶業
⼤東建託
⽇本通運
太平洋セメント
ユアテック
富⼠通Japan
タカラスタンダード
鴻池組
東海理化電機製作所
⽇本電設⼯業
アイシン
NECソリューションイノベータ
⽇⽴Astemo
⽇鉄テックスエンジ
⽇本精⼯
昭和電⼯
⽇本道路
エヌ・ティ・ティ・データ
⽇産⾃動⾞
ジェイテクト
デンソー
公正取引委員会の公式サイトは2022年12月、受注者からの値上げ要請の有無にかかわらず、取引価格が据え置かれており、事業活動への影響が大きい取引先として受注者から多く名前が挙がった発注者のうち、多数の取引先について「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」に該当する行為が確認された13社を公表しました。
佐川急便
三協立山
全国農業協同組合連合会
大和物流
デンソー
東急コミュニティー
豊田自動織機
トランコム
ドン・キホーテ
日本アクセス
丸和運輸機関
三菱食品
三菱電機ロジスティクス
公取委は2023年3月1日、この13社について「その後の価格転嫁の取組状況の確認(フォローアップ)を行う」ことを明らかにしています。
中小企業庁は2023年6月、価格交渉促進月間のフォローアップ調査の結果を公表しました。相対的に価格交渉に応じている業種としては、造船、繊維でした。価格転嫁に応じていない業種は通信、トラック運送、放送コンテンツでした。
価格交渉状況の業種別ランキングは次の通りです。
それでは、中小企業は価格転嫁の交渉をどのように進めればよいでしょうか?
クラフトバンク総研所長の髙木健次さんは、記事「値上げの交渉力を高める九つのポイント 建設業・製造業向けに解説」のなかで、交渉力を高めるポイントを詳しく解説しています。
さらに、段ボールをベースにしてデザイン性を持たせた美粧箱などの製造工程を担う「大光紙工」3代目社長の江崎高志さんも交渉の過程について、記事「取引先への値上げ交渉 新社長が心がけたデータと覚悟と『歴史を知る』」のなかで明らかにしています。
経済産業省の公式サイトでは、エネルギー価格の転嫁交渉(PDF方式)を解説しています。それによると、価格上昇の根拠を⽰すために、⼀般的には次のような“客観的なデータ”をエビデンスとして提⽰することが求められるといいます。
詳しくは以下の通りです。
基本料⾦だけでなく、電気料⾦に関しては燃料費調整額や再⽣可能エネルギー発電促進賦課⾦も含めた全体のコストを提⽰し、会社全体の売上に対して、エネルギーに係るコスト負担が何%を占めているか、数値によって明確に⽰すことを勧めています。
上昇率(例︓過去1年で○○%増)や、差額(例︓昨年1⽉より○○万円増)を推移表やグラフにして
⾒える化したり、統計情報(LNG輸⼊CIF価格など)の活⽤することを勧めています。
製造拠点、⼯場が独⽴している場合は、製造拠点や⼯場あたりのコストを把握し、できる限りシンプルかつ迅速にデータを算出し、取引先と交渉することを勧めています。
帝国データバンクの調査で、自社の商品・サービスについて多少なりとも価格転嫁ができた理由について尋ねたところ、コスト上昇の程度や採算ラインなど「原価を示した価格交渉」が45.1%と最多でした。
ただし、原価などすべてのデータを開示するのは難しい場合があります。そんな場合に活用できる「価格交渉支援ツール」を埼玉県の公式サイトが提供しています。特徴は次の通りです。
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