目次

  1. 価格転嫁とは 読み方は「かかくてんか」
  2. 価格転嫁率49.7%も進む二極化
  3. 価格転嫁の交渉、事例を紹介
  4. エネルギー価格の転嫁交渉、経産省がポイント解説
    1. 負担額
    2. 上昇分を⽰すデータ(価格の推移)
    3. 製造拠点、⼯場ごとの電気使⽤料⾦
  5. 価格転嫁後押し 埼玉県が価格交渉支援ツールを公表

 価格転嫁(かかくてんか)とは、原材料・人件費・光熱費のコスト上昇分を製品やサービス価格に上乗せすることです。下請取引の公正化や下請事業者の利益保護のための代表的な法律に「下請法」があります。「下請代金支払遅延等防止法」では、下請取引上の親事業者の義務と禁止行為を定めています。

 しかし、それでも親事業者と下請け事業者との間の取引では、十分に価格転嫁が進んでいないことが課題となっていました。

 価格の改定は、半期に一度、4月と10月に行う企業が比較的多いことから、中小企業庁は、毎年3月と9月の「価格交渉促進月間」に合わせ、受注企業が、発注企業にどの程度価格交渉・価格転嫁できたかを把握するための調査を実施しています。

 中小企業庁の公式サイトによると、2024年9月時点の調査の結果は以下の通りでした。

 価格交渉が行われた割合が増加するなど、価格交渉できる雰囲気が醸成されつつあり、価格転嫁率は49.7%でした。コストの増額分を全額価格転嫁できた企業の割合が増加しましたが、「転嫁できた企業」と「できない企業」とで二極化が明らかとなっています。

 また、労務費の価格転嫁が難しいという課題が元々ありましたが、今回の調査では、価格交渉が行われた企業のうち、7割超が「労務費についても価格交渉が実施された」と回答しました。

 一方で、サプライチェーンの段階と価格転嫁の関係については、受注企業の取引階層が深くなるにつれて、価格転嫁の割合が低くなる傾向がみられました。

 このほか、政府は下請け企業との価格交渉や価格転嫁に後ろ向きな企業を法律にもとづいて公表しており、調査ごとに注目されています。

 それでは、中小企業は価格転嫁の交渉をどのように進めればよいでしょうか?

髙木健次さんへの公開インタビューは4月にオンラインで開催しました

 クラフトバンク総研所長の髙木健次さんは、記事「値上げの交渉力を高める九つのポイント 建設業・製造業向けに解説」のなかで、交渉力を高めるポイントを詳しく解説しています。

  1. 取引依存度3割の見極め
  2. 新規開拓・新規事業の進捗
  3. 相手先の業績と自社の位置づけの把握
  4. 競合の廃業による供給力の変化
  5. 地域別相場の把握
  6. 原価計算の根拠
  7. 相手が受け入れやすい複数案
  8. 担当者の力量と決裁権を見極める
  9. 「値決めは経営」経営者が主導する

 さらに、段ボールをベースにしてデザイン性を持たせた美粧箱などの製造工程を担う「大光紙工」3代目社長の江崎高志さんも交渉の過程について、記事「取引先への値上げ交渉 新社長が心がけたデータと覚悟と『歴史を知る』」のなかで明らかにしています。

大光紙工3代目社長の江崎高志(えざき・たかし)さん 大光紙工は1967年設立。段ボール紙器製造と梱包資材を手がけるなかで、主力事業は片面段ボール合紙。美粧印刷・表面加工した板紙に、片面段ボールを貼り合わせて、デザイン性を持たせた美粧箱を製造する工程を担っている。(写真はいずれも大光紙工提供)

 経済産業省の公式サイトでは、エネルギー価格の転嫁交渉(PDF方式)を解説しています。それによると、価格上昇の根拠を⽰すために、⼀般的には次のような“客観的なデータ”をエビデンスとして提⽰することが求められるといいます。

  1. 負担額(電⼒料⾦における再⽣可能エネルギー発電促進賦課⾦、燃料費調整額を含む)
  2. 上昇分を⽰すデータ(価格の推移)
  3. 製造拠点、⼯場ごとの電気使⽤料⾦

 詳しくは以下の通りです。

 基本料⾦だけでなく、電気料⾦に関しては燃料費調整額や再⽣可能エネルギー発電促進賦課⾦も含めた全体のコストを提⽰し、会社全体の売上に対して、エネルギーに係るコスト負担が何%を占めているか、数値によって明確に⽰すことを勧めています。

 上昇率(例︓過去1年で○○%増)や、差額(例︓昨年1⽉より○○万円増)を推移表やグラフにして
⾒える化したり、統計情報(LNG輸⼊CIF価格など)の活⽤することを勧めています。

 製造拠点、⼯場が独⽴している場合は、製造拠点や⼯場あたりのコストを把握し、できる限りシンプルかつ迅速にデータを算出し、取引先と交渉することを勧めています。

 帝国データバンクの調査で、自社の商品・サービスについて多少なりとも価格転嫁ができた理由について尋ねたところ、コスト上昇の程度や採算ラインなど「原価を示した価格交渉」が45.1%と最多でした。

 ただし、原価などすべてのデータを開示するのは難しい場合があります。そんな場合に活用できる「価格交渉支援ツール」を埼玉県の公式サイトが提供しています。特徴は次の通りです。

  • 主要な原材料価格の推移を示す資料を簡易に作成可能
  • 日本銀行の公表データに基づいており、正確性を担保
  • 表計算ソフトを使用

 2025年2月からは、労務費の価格交渉にも対応できるよう、労務費データ(業種別現金給与総額、都道府県別最低賃金、男女間賃金格差)を分析できる機能を追加しました。