コロナで苦境の製造業 新事業を切り開く後継ぎ経営者を紹介
新型コロナウイルスの影響で、景気悪化が深刻な製造業ですが、日本経済のV字回復の切り札としての期待も背負っています。大企業から中小企業まで、新事業を切り開こうとする製造業の後継ぎを紹介します。
新型コロナウイルスの影響で、景気悪化が深刻な製造業ですが、日本経済のV字回復の切り札としての期待も背負っています。大企業から中小企業まで、新事業を切り開こうとする製造業の後継ぎを紹介します。
中小企業庁が発表した2020年4~6月期の中小企業景況調査(PDF形式:630KB)によると、製造業の景況判断DIは、マイナス65.9ポイントとなり、8期連続の低下となりました。中でも前期(1~3月期)と比べると、38.5ポイント減となり、新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の著しい低下で、急激に景況感が悪化したことがうかがえます。
業種別に見ても、食料品、パルプ・紙・紙加工品、輸送用機械器具など全業種で低下しました。グラフを見ると、どの業種も4~6月期は急激に景況判断が悪化したことが明らかです。調査に応じた企業からは「コロナウイルスの影響は、製造業において深刻化している。自動車市場が好転しないと、この一年で小規模鉄工会社の廃業が相次ぐ」(金属製品・滋賀)などの深刻な声が寄せられています。
コロナ危機でも底力を示しているのが、トヨタ自動車社長の豊田章男さんです。多くの大企業が今期の業績予想の発表を見送る中、5月の決算発表では、2021年3月期の営業利益を5000億円と打ち出しました。前年比約8割減という数字ですが、黒字予想を維持。6月の株主総会で「赤字には陥らないというメッセージだ」と強調しました。
日本の後継ぎ経営者の筆頭格である豊田さんは2009年、豊田家出身としては14年ぶりの社長に就任しました。「豊田章男 100年の孤独」(週刊東洋経済)などによると、豊田さんがアメリカの投資銀行に勤務した後、トヨタ自動車への入社時に重視したことは、「現場」でした。社長昇格を発表する2009年1月の会見では、「現場にいちばん近い社長になりたい」とメッセージを出しました。
トヨタは従来のものづくりの範囲にとどまらず、未来の街づくりにも動いています。今年1月には、自動運転や人工知能などの先端技術とサービスの開発を目的にした実証都市「ウーブン・シティ」を、静岡県裾野市の完成車工場の跡地につくることを明らかにしました。3月には約2千億円を出資して、NTTと業務資本提携を結び、スマートシティー構想を強力に進める方向を発表。豊田さんは「NTTとともに未来を創造するための投資だ」という強いメッセージを発しました。
生活用品製造大手のアイリスオーヤマは2018年、株式会社化後の初代社長・大山健太郎氏の長男・晃弘さんが社長に就任。47年ぶりのトップ交代となりました。2019年11月にはテレビ事業に本格参入し、音声で操作できる4K対応液晶テレビ「LUCA」シリーズを発売するなど積極的な事業展開を進めています。また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、国内工場でマスクの増産態勢を整備しました。
電子部品大手の村田製作所は、2020年3月、専務だった中島規巨さんが、創業家以外で初の社長に昇格する人事が発表されました。6月には繊維大手の帝人フロンティアと、電気を起こして抗菌力を発揮する世界初の繊維を開発したと発表するなど、新事業への展開も進めています。
コロナの収束の見通しはまだ立っていませんが、中小の製造業の後継ぎも、大企業に負けじと、コロナ危機に立ち向かおうとしています。
愛知県豊川市で電気部品の加工や自動車・精密部品の生産などを手がける「山本製作所」は、2020年5月、ネコの形をしたマスク掛け「しっぽ貸し手」を製造販売し、ヒットさせました。発案したのは、経営者の田中倫子さんでした。
田中さんは前職が看護師で、父の急逝をきっかけに「最後の親孝行」と思い、家業の町工場を継ぎました。コロナ危機後、看護師たちが、ごはんを食べたり水を飲んだりマスクを外す時に、保管するところがないと困っていることを知りました。田中さんはインタビューで「せめてマスクの内側だけはきれいにしておきたい……という声に応えるマスク掛けはできないかと考え始めたんです」と振り返ります。
ネコの形のマスク掛けにしたのにも、田中さんの狙いがありました。「ものづくりの楽しさは、使っている人が喜んでくれるかだと思います。医療の現場にいる人たちは『自分がコロナにかかったらどうしよう』『でも働かないといけない』と不安になっています。そんななかで、くすっと笑える・癒やしになる要素でつくれないかな、と思いました」
初のBtoC製品がヒット。購入者のデータをとると、半分が医療従事者、もう半分はデザインに癒やされた人たちでした。「初のBtoC製品のヒットで、お客様の声がダイレクトに届くようになって、社員が喜んでいます。作り手は機能を考えがちですが、ストーリーや思いに付加価値を感じてもらって、購買意欲を持ってくれるんだなという学びもありました」
コロナ危機でも新規問い合わせが増えているのが、岐阜県関市の工業用刃物製造業「エドランド工業」です。同社5代目で取締役の久保有希さんは「既存の取引先からの注文は減っているんですが、新規の問い合わせ件数が過去最高で、対応しきれない状況です」と言います。
エドランド工業は展示会での商品PRに力を入れてきましたが、コロナで次々と開催が中止されました。そこで、WEBマーケティングを強化したのです。2020年3月から、新規の取引先獲得につながるランディングページの作成に取り組みました。
展示会で反応が良かった「1個からオーダーメイド」という表現を、ページに用いたり、事例の情報がよく見られていることがわかれば構成を変えたりしながら、工夫を重ねていきました。試行錯誤の結果、同社は2020年6月の新規問い合わせ件数が、過去最高の79件になりました。
久保さんは「もちろん自社もコロナの影響を大きく受けています。でもリーマンショックの時と比べると、大きく会社が成長していることを実感しました。リーマンショックの影響を受けた2009年6月、月間売上前年比は60%減と大打撃でした。ところが2020年6月は前年比で17%減に止めることができました」と話します。
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