倒産件数は過去最多ペースに

 飲食業の苦境はデータでも明らかになっています。帝国データバンクが7月に発表した「飲食店の倒産動向調査」によると、飲食事業者の1~6月の倒産は398件を記録しました。このままのペースで倒産が発生すると、2020年の年間倒産件数は796 件前後となり、過去最多を更新する可能性があるとしています。

帝国データバンクの「飲食店の倒産動向調査」では、飲食業の倒産件数が過去最多ペースになると予測しています(グラフは帝国データバンク提供)

 緊急事態宣言などによって、夜間営業が厳しくなったジャンルが最も深刻です。同調査では、居酒屋やビヤホールのほか、焼き鳥店、おでん店、もつ焼き店などを含む 「酒場・ビヤホール」は2020年上半期の倒産が100件で、年換算した場合は200件となりました。

「新しい生活様式」を受けた対策

 影響は多くの大手外食チェーンにも広がっています。東証1部上場の大手ラーメンチェーン・幸楽苑ホールディングスは2018年に、創業者の新井田傳さんの長男である新井田昇さんが、45歳で社長に就任。働き方改革で2020年の元日を一斉に休みにするなど、独自色を打ち出していた矢先のコロナ禍でした。

 同社の発表によると、コロナの影響で、同社直営店の4月売上高は前期比50%にとどまりました。その後、徐々に上向いているものの、8月も前期比72.6%で、回復は途上です。役員報酬と社員の夏季賞与の不支給も決定しました。

 一方、コロナによる「新しい生活様式」を受けた攻めの対応にも乗り出しています。感染予防対策や人手不足解消を目的に、福島県内の店舗で、8月からAIを活用した非接触型の自動配膳ロボット「K-1号(ケー・イチゴウ)」導入の 実証実験を始めました。同じく8月から、本社を置く福島県郡山市と仙台市で、自社デリバリーも始めています。

夫の急死で後を継ぎ、新事業を展開

 名古屋圏を中心に展開している居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」は、2016年に創業者の山本重雄氏が59歳の若さで急死し、妻の久美さんが運営会社エスワイフードの社長になりました。

 元小学校教師で子育てに専念していた久美さんは当時、取締役に名を連ねていたものの、経営をほとんど知らなかったといいます。しかし、社長就任後は、女性を意識した飲茶(ヤムチャ)専門店「世界のやむちゃん」を開いたり、「山ちゃん」の店内に託児スペースを設けたりするなど、新たな事業展開に乗り出しました。

 「世界の山ちゃん」もコロナの影響で一時、店舗の休業を余儀なくされましたが、テイクアウト商品を充実させたり、一部店舗でランチ営業を始めたりしています。

コロナ禍でもインド進出

 大手カレーチェーンの「カレーハウスCoCo壱番屋」を運営する壱番屋は創業者の宗次徳二、直美夫妻が1974年に名古屋市内に開いた喫茶店が発祥で、1978年に1号店をオープンしました。全国へのチェーン展開を進めてきましたが、2015年にハウス食品の完全子会社となりました。資本力をバックに海外展開を進め、2020年夏には、カレーの本場インドに1号店を出しました。

壱番屋が2020年8月にオープンしたインド1号店

 新型コロナの感染拡大で休校が広がっていることなどを受け、2020年4月に、甘口カレーと子どもに人気の揚げ物を取り合わせた「エール弁当」(税込み300円)を発売したことでも話題になりました。

新しい飲み方が定着

 大衆酒場で愛されているホッピーを製造しているホッピービバレッジの3代目社長・石渡美奈さんは2010年に社長就任。積極的なブランディングで、売り上げを5倍にしました。

ホッピービバレッジ3代目社長の石渡美奈さん(同社提供)

 2020年6月のインタビューでは、新型コロナについて「影響は大きいです。社員は社員、私は私、それぞれの立場から、何が求められているか、飲食店の皆様と対話を繰り返しています」としながらも、前を向いています。

 「皆さんが元気になれる色々なプロジェクトを考えています。オンライン飲みという新しい飲み方も定着しつつあります。これまでの飲み会に加えて新たな選択肢が増えたととらえており、千載一遇のチャンスという側面もあると思っています」

1次産業を軸に新たなモデルを

 東京都内で居酒屋を運営しているゲイトは、2018年から三重県内で定置網漁に乗り出し、捕れた魚の加工品などを店舗に直送するなど、6次産業化の取り組みを進めています。社長の五月女圭一さんはインタビューで「いまの漁業を『儲かる漁業』へと構造を変え、海を豊かにする役回りを担いたいと考えました。地元の市場では取引されていないような魚を、自社で加工して東京の居酒屋に持っていき、メニューに加えています」と狙いを話しました。

ゲイトが運営する「くろきん神田本店」でのテラス営業(同社提供)

 コロナ前までは都内で数店舗を運営していましたが、東京・神田の1店を除いて閉店しました。産地から直接、海産物を運べるメリットを生かしながら、店舗前でのテラス営業を始めたり、デリバリーの拠点を増やしたりなど、新たなビジネスモデルを作ろうとしています。

 五月女さんは9月、「会食の需要が無くなり、お客さんが来店するのを待つ従来型の店では、どうにもなりません。漁場の三重県に海の家やバーベキューを行う場所を開くなど、1次産業を軸にした新しいモデルを考えたいと思っています」と話しています。

 コロナ収束の見通しは立っていません。それでも、飲食ビジネス業界は前を向きながら、ウィズコロナ時代にも食を楽しんでもらうための新たな事業展開を模索しています。