きっかけは「自分でつくれるでしょう?」

 「日本製のマスク製造器を探してほしい」。3月半ば、ハムスの宮地康次社長(58)は、中国で自社製品を営業する代理店に頼まれた。新型コロナウイルスが猛威を振るい、取引先の工場が至急欲しいという。日本の知り合いに聞くと「注文の電話が鳴りっぱなし。とても無理だ」。結果を伝えると言われた。

 「ハムスさん、自分で作れるでしょう?」

 その一言がきっかけで開発したのが、8月発売したマスク製造ロボット(税別398万円)。アーム式ロボットの先端にある超音波カッターで、生地を裁断する。事前に形状を設定し、ボタンを押せば約30秒で1枚できる。宮地社長は「マスクの備蓄が必要な自治体や介護施設にニーズがあると思った」。注文や問い合わせが相次いでいる。

 創業者の父、信次さん(92)の代から縫製工場の自動化や省力化に注力してきた。1965年、国内の大手下着メーカーに頼まれ、ブラジャーの留め金を縫い付ける自動ミシンを開発した。この分野で国内100%、海外でも約50%のシェアを誇る。

 その後、ブラの肩ひもを縫い付けたり、リボンを結んだりする装置の開発に成功。1975年には、ジーンズのベルトを通すループの自動縫い付けミシンを作ってリーバイスの全工場で採用され、会社の躍進につなげた。

ランニングシューズのかかと部分を機械で縫うのは難しいとされてきた。ハムスはミシンの平台をおわん状(金属部分)にカーブさせ、シーソーのように動かすことで機械化に成功した=ハムス提供

 2012年にはアディダスの依頼でシューズのかかと部分を縫う自動ミシンを作り、省力化に大きく貢献した。どの技術も、「営業マンが足しげく顧客のもとに通って困りごとを聞き、試作を重ねる。それを愚直に繰り返した結果です」と宮地社長は言う。

 9月には、飛沫(ひまつ)を防ぐプラスチック製などのボードを裁断できる機械を売り出した。「素材やサイズ、デザインを自由に選べる。価格は120万円程度と手頃です。飲食チェーン店などに使ってもらえれば」。コロナ以前は売り上げの8割は海外だったが、当面は国内向け販売に力を入れる。

ハムス

 「宮地ミシン工業社」として1954年に創業。社名は「Human Apparel Machine System」の頭文字からとった。機械に任せられる仕事は機械に任せ、人は少しでも人間らしい仕事をするとの意味という。従業員約30人。年間売上高は約6億円。