レトロなビルや古い町家が散在する大阪市中央区の船場地区の一角に、日本精工硝子の直営店「キュートグラス ショップ・アンド・ギャラリー」がある。大正時代に建てられた町家を再生し、2年前にオープンした。

「キュートグラス ショップ・アンド・ギャラリー」の店内と、日本精工硝子の小西慈郎社長(右から2人目)ら。和室の下に防空壕(ごう)があり、ガラス越しに見学できる

 玄関から奥の蔵へと続く壁面には、ガラス瓶がずらり。円筒形や角形、ハート形のものもある。「美しいでしょう。この透明感がうちのガラスの特長なんです」。小西慈郎(じろう)社長(65)がほほえんだ。

 1895(明治28)年創業の同社は、60年ほど前から化粧品のガラス容器に着目した。市場縮小などで同業他社が廃業していく中、大手化粧品メーカー各社との取引を柱に事業を続けた。だが、化粧品容器はやがてプラスチックが主流となっていく。

 10年前から、製造の中心をジャムやオイルといった食品のおしゃれな容器に移した。化粧品容器で培ったデザイン力に加え、顧客の求めに応じる小ロット生産や品ぞろえの豊かさを武器にした。

 2012年からは海外でも事業をスタートした。透明度の高さやデザイン性が評価され、韓国では約50社が食品や飲料の瓶として採用した。

 瓶への印刷技術も磨き、しょうゆメーカーが米国で限定販売した「ハローキティ」の瓶も受注した。「今ではアジアを中心に、ロシア、フィンランドなど15カ国まで取引先が増えました」。海外事業部の清水曜介部長(63)は胸を張る。

米国で限定販売されたキティちゃんしょうゆ瓶(手前)。後ろは、蒔絵(まき・え)をイメージした印刷を施した瓶

 小西社長は毎春、入社式で新入社員に「自宅にいくつガラス瓶があるか、数えてくるように」と話してきた。6年前、「ひとつもなかった」と答えた社員がいたという。「悔しかった。それが直営店をつくったきっかけです」

 カフェのようなおしゃれな店内では、瓶のなかに花を詰めるハーバリウムの教室を開くなど、ガラス瓶の新たな魅力を発信している。

 2014年には、自社製ガラス瓶を使った化粧品も発売した。小西社長は語る。「ガラス瓶は工業製品だが、工芸品に近い。リサイクル可能で清潔感や高級感もある。この魅力にいま一度、光をあてたい」

日本精工硝子

 年商約30億円、従業員数約140人。大阪メトロ・阪急天神橋筋六丁目駅近くの本社所在地にあった工場は現在、三重県伊賀市に移転している。  直営店「キュートグラス ショップ・アンド・ギャラリー」(大阪市中央区伏見町2の4の4、電話06-6226-8360)は午前10時~午後5時オープン(土日祝休み)。