コロナ禍で脚光 「黒衣役」だった和光電研のインバーター
直流から交流へ、電流を効率よく変換して省エネなどにいかす電子基板は「インバーター」と呼ばれ、様々な電化製品に組み込まれている。その開発・製造を長年にわたり手がける「和光電研」(大阪府八尾市)が累計5000万台以上の生産で培った技術が今年、コロナ禍でヒットしたある商品に生きた。(松田史朗)
直流から交流へ、電流を効率よく変換して省エネなどにいかす電子基板は「インバーター」と呼ばれ、様々な電化製品に組み込まれている。その開発・製造を長年にわたり手がける「和光電研」(大阪府八尾市)が累計5000万台以上の生産で培った技術が今年、コロナ禍でヒットしたある商品に生きた。(松田史朗)
「殺菌灯に使うインバーターがつくれないか」。今春、同社に取引企業約30社から依頼が殺到した。殺菌灯は紫外線を放射してウイルスを死滅させる蛍光灯の一種。新型コロナウイルスの感染対策で、それを「空気清浄機に組み込んで発売したい」というメーカーからだった。
蛍光灯が照明の主流だったのは2000年代まで。当時は多くの企業がインバーターを生産していたが、LED(発光ダイオード)がそれに取って代わると次々と撤退していった。技術を保持するのは和光電研を含め、全国でも数少ない企業だけになっていた。
同社は「古くなった製品でも、修理して使い続けたい人が必ずいる」との理由で、取引先に一度納めたインバーター基板は「安定供給を永遠に行う」と宣言し、実行してきた。今年の「殺菌灯」向けインバーターの売り上げは約1億円に達し、会社の信条が思わぬ形で業績にも貢献した。
古い技術もおろそかにしない社風は、創業者の林隆一社長(77)が築いてきたもの。関西の大学で電気工学を学んだ後、大手メーカーに就職して電子ジャーなどの開発にあたっていた1972年、「平凡なサラリーマンで終わりたくない」と独立し、和光電研を設立した。
「自分で営業するのは苦手」(林社長)という理由で、ほかの企業からの依頼で設計から開発、製造までをまるごと請け負うODM(オリジナル・デザイン・マニュファクチャリング)というビジネスモデルを採用。照明器具だけでなく、炊飯器やIH調理器具などにも使われるインバーターのほか、様々な電子回路、部品を扱い、黒衣役として顧客企業を長年、支えてきた。工場や体育館など、天井の高い建物につけるLED照明もその一つだという。
同社の理念は「人のまねをしない」こと。林社長は「同じ種類の電子回路でも、部品点数を減らすことで故障や発熱のロスを防ぐことができる。『より安価で高性能に』という(他社との)差別化に今後も腐心していきたい」と話す。
1972年創業。年間の売上高は12億円で、従業員は25人(正社員は20人)。「事業をしている研究所」との自負で、難しい開発依頼の相談にも応じる。「理論・理屈にあった設計をする」「難しくとも諦(あきら)めずやり遂げる」を経営理念に掲げる。
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