トタン製バケツの業界シェアは最盛期で4割。1948年創業の老舗企業だ。ところがキャンプ好きの間では「ONOE」として、ちょっと知られた存在になっている。

 最近力を入れているのが、薪を載せる専用の台や、火の近くで使える鉄製テーブル、鉄鍋を炎の上につるすハンガーなど、「たき火」に特化したラインアップ。大手メーカーだと数万円の価格帯も珍しくない中、1万円以下という手軽さが人気の理由だ。

 2020年10月に義父の後を継いで就任した名城嗣明社長(39)は、月2回はキャンプ場でテントに泊まり、アイデアを練る。周囲のキャンパーから学ぶことも多い。「バーベキュー用コンロをたき火台として使っている人を見て、『これからはたき火だ』と確信したんです」

 商品開発に生かそうと、利用者の率直な感想に出会えるツイッターやインスタグラムをチェックする。ユーチューバーの投稿動画に出演し商品をアピールすることもある。

 社史をひもとくと、逆風を好機に変えてきた。会社のルーツは、先代の尾上和幸会長(71)の父が始めた鉄工所。トタン板でバケツやじょうろなどを作り、急成長した。

 1970年代の主力商品は「計量式米びつ」だったが、他メーカーの参入や米消費の減少が重なった。見切りをつけて活路を見いだしたのが、創業以来の伝統だったバケツだ。

創業以来作り続けてきたトタン製バケツを持つ尾上和幸会長

 1989年の年間製造量は70万個に上った。しかし、水道の普及で需要が減り、プラスチック製バケツの台頭にも押され始めた。そこで尾上会長が目をつけたのがバーベキューコンロ。「30年以上前やね。当時は米国製の高価な商品だけ。安いコンロはよう売れた」。今では、アウトドア部門は同社の売り上げの5割を占めるまで成長した。

 緊急事態宣言などがあった今年前半は、売り上げが落ちた。ところが「密を避けるレジャー」としてキャンプが注目されると、夏以降は注文が殺到。「例年の倍以上で生産が追いつかないほど」。名城社長も手応えを感じている。(2020年12月19日付朝日新聞地域面掲載)

尾上製作所

 従業員24人。売り上げはアウトドア製品5割バケツ3割で、それ以外にじょうろやちりとり、湯たんぽなどを製造している。尾上会長の祖父は神社の銅板屋根をふく職人で、本業の傍らでバケツも家内工業で作っていたという。