「涙のしずく」がヒント 京座布団の縫製技術を生かしたクッション
創業から間もなく100年を迎える大東(だいとう)寝具工業(京都市伏見区)は、布団の製造や販売などで培ってきたノウハウをもとに「快眠とくつろぎで世界を元気にする」を使命に掲げる。コロナ禍で在宅勤務(テレワーク)が奨励される中、注目されているのが、ビーズクッションだ。(佐藤秀男)
創業から間もなく100年を迎える大東(だいとう)寝具工業(京都市伏見区)は、布団の製造や販売などで培ってきたノウハウをもとに「快眠とくつろぎで世界を元気にする」を使命に掲げる。コロナ禍で在宅勤務(テレワーク)が奨励される中、注目されているのが、ビーズクッションだ。(佐藤秀男)
大東寝具工業の名を一躍、全国区にした商品「tetra(テトラ)」。形状がテトラポッド(消波ブロック)に似ていることから、その名が付いた。カタログハウスの「通販生活」で取り上げられるなど人気を集め、2006年の発売以来、累計で約15万個を売った。今では関連の年間売り上げが会社全体の約3割を占める看板商品だ。
記者も座り心地を体験させてもらった。姿勢を変えるたび、中に入っている発泡ビーズが体に寄り添うようにフィットして何とも気持ちいい。サイズは腰やひじの隙間に置ける「ミニ」、背もたれ代わりになる「レギュラー」、どっしりと深く座れる「ビッグ」の3種類ある。
カバーはしっかりした素材の「8号帆布」と、洗うほどになじむというデニム、こすれや引っ張りに強い柔道着素材の三つが定番だ。バリエーションも豊富で「着せ替え」も楽しめる。価格はレギュラーで税別1万3千円程度から。女性でも片手で持てるぐらいの重さで、持ち運びにも便利だ。
1990年代のバブル崩壊以降、それまで売り上げの多くを占めていた京座布団の売れ行きが鈍り、新商品開発の必要に迫られた。
初めは座禅で用いる座布団をイメージし、段差があって座り心地よく、立ち上がりやすいものを考えた。「涙のしずく形のカバーが作れないか」。後にそうひらめいたのが、開発を指揮していた現会長。3代目で現社長、大東(おおひがし)利幸さん(58)の母だ。
最終的に、細長い封筒を横に倒したような、今のフォルムにたどりついた。古新聞やそばがら、ウレタンチップなど、中に入れる素材も試行錯誤を重ねた。絶妙のフィット感は、直径約5ミリの発泡ビーズがもたらしている。レギュラーで、約80リットル分詰まっている。
「表に縫い目が見えない『くけ縫い』など、長年、座布団などの製造で培った縫製技術もテトラには生かされています」。広報担当の柳斎生(いっせい)さんが教えてくれた。
同社では、一般社団法人「日本睡眠教育機構」(滋賀県草津市)が認定する睡眠健康指導士の資格を社員に取得させるなど、教育にも力を入れる。大東社長は「眠りに関するあらゆる困りごとや相談に対応したい」と話す。(2021年1月16日付朝日新聞地域面掲載)
1925年に大東ふとん店として創業し、1963年に株式会社に。布団の製造・販売にとどまらず、寝室の内装からインテリアまで、快適な睡眠とくつろぎの空間をトータルに提案。睡眠に関するワークショップも開く。従業員28人(正社員17人)。年間売上高は4億2千万円。
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