テレワークの人事評価、なぜ難しい?社労士が具体例から課題と対策を解説
在宅勤務などテレワーク下での適切な人事評価は難しいとされています。評価者(上司)が被評価者(部下)が離れて仕事をしており、勤務態度や仕事の進め方を把握しづらい課題があるからです。その対策としてテレワークに適した評価方法や運用方法を社労士が解説します。
在宅勤務などテレワーク下での適切な人事評価は難しいとされています。評価者(上司)が被評価者(部下)が離れて仕事をしており、勤務態度や仕事の進め方を把握しづらい課題があるからです。その対策としてテレワークに適した評価方法や運用方法を社労士が解説します。
目次
テレワークにおける人事評価の難しいとされている理由に、日々の仕事ぶりや状況、勤務態度などが不明なことが挙げられます。
これは、同じようにテレワークでは難しいと言われている人材育成とも重なり、上司と部下が同一の場所にいてコミュニケーションを取れないテレワークならではのものと言えます。
識学が、企業経営者に対して実施した意識調査の結果をご紹介します。
人材評価制度を課題と答えた割合はリモートワーク導入企業が77.4%、未導入企業が48.7%という結果となり、リモートワーク導入企業の方が課題として認識している割合が高い結果となった。 リモートワーク導入企業からは、「目の前にいないため、通常の頑張りを評価にどう反映させていくか。大きな課題であると認識している。」「従来の評価基準から変更せざるを得ないので、あらたな基準がマッチしているのかを評価する時間が現時点では不足している」などの回答が見られた。
経営者のリモートワークの悩みは「コミュニケーション」と「評価制度」識学が経営者の課題調査結果を公表
多くの会社の人事評価では主に、数値では量れない「定性評価」と数値で量ることが出来る「定量評価」を組み合わせて評価します。
テレワークでの評価が難しい項目は「定性評価」であると言われています。人事評価で使われる主な定性評価の項目をあげます。
定性評価の項目は、その行動や成果を数値化して目に見える形にするのが困難です。
評価者が近くにいればわかる項目であっても、テレワークで離れて仕事をしている中で確認していくのは難しいと言えます。
また、定性評価の項目の中では、テレワークで評価することに意味が無い項目、例えば上記の中では服装や勤怠状況(事業場外のみなし労働時間制や裁量労働制を活用するなど裁量に任せている場合)が出てくることが考えられます。
では、テレワークにおいてどんな人事評価が望ましいと言えるのでしょうか。
一つの解決方法として「評価項目の見える化」があげられます。
上記の定性評価の項目の中から例を一つあげると「業務改善策の提案が行われているか」については、提案件数や提案の施策を試行して実績値を評価するなどが考えられます。
評価の見える化の方法として、様々な評価制度をあげていきます。
評価の見える化の方法として、多くの日本企業で導入されている目標管理制度の改善が考えられます。目標管理制度は、労務行政研究所の調査によると、2013年には日本の企業の88.5%で導入されています。
一般的な目標管理制度とは、評価期間の初めに被評価者が期間内に達成したい目標を決め、方法や中間・最終評価時の目標なども定めて、評価期間経過後に自己評価を行った後に評価者にフィードバックをもらうものです。
テレワーク下であっても、最終目標を数値で判断しやすい目標にすることや細かくフィードバックの面談を実施することによって、適正な評価を実施しやすいと言えます。
例えば、「新規業務に積極的に取り組むこと」を目標とするのではなく、「期末までに新規業務を3つ以上手掛けること」を目標にすることなどです。
あるいは、目標管理制度を改善するのではなく、思い切って廃止にし、別の評価制度を採用する方法もあります。参考までに、独立行政法人労働政策・研修機構のキヤノン事例に基づくコラム記事を紹介します。
同社の旧評価制度では、「成果」と「能力・意識」が評価要素となっていた。成果については上司が「目標達成度」と「日常業務遂行度」の両面で評価していた。この目標達成度を測るツールが目標管理制度だったのである。(中略) 新制度では評価要素は「役割達成度」と「行動」に変更された。各職務に応じた役割シートの設定によって、個人の役割・期待が明確になり、以前の目標達成度と日常業務遂行度を統合して評価するような形となった。また、行動の基準も、(1)仕事上の個人の行動(2)組織人としての行動(3)社会人としての行動――に切り分けて明確にした。目標管理制度の運用で悩む企業も少なくないが、トヨタと並んで勝ち組企業の筆頭であるキヤノンが廃止したというインパクトは、そうした企業にとって決して小さなものではないだろう。
荒川 創太「成果主義ブーム後の着目点」
キヤノンでは、目標設定のあいまいさから目標管理制度を取りやめ、役割シートの設定に基づく絶対評価基準を採用しました。
目標管理制度に固執せず、広い視野をもつことが、評価項目の見える化を実現する上で大切なポイントと言えるでしょう。
職務分析とは、社内の様々な職務に関する情報を収集・整理し、職務内容を明確にすることを言います。
職務評価とは、社内の職務内容を比較し、その重要性や大きさを相対的に測定する手法です。
現在、同一労働同一賃金に対応するため、パートタイム労働者・有期雇用労働者の基本給について、待遇差が不合理かどうかの判断や、公正な待遇を確保するため、賃金制度を検討する際に有効なツールとされています。
職務分析・職務評価を導入することで各自の職務の重要性を評価することが出来ます。加えて、各自の職務に期待された役割を把握することも可能です。
職務分析・職務評価した結果を人事評価と組み合わせることで、客観的な評価制度を構築できるでしょう。
また、職務分析・職務評価については、厚生労働省の職務分析・職務評価導入支援サイトや個別のコンサルティングも含めて、様々な支援策が用意されていることも魅力です。
上記サイトでは様々な企業の事例が見られるので、ぜひご覧下さい。
定量評価目標としてわかりやすい目標を設定することが、テレワーク下の人事評価では望ましいです。具体例として、キャスターのフルリモートワークの実践例を紹介します。
職種名 | 業務内容例 | 成果例 |
---|---|---|
営業 | 見込み顧客へのサービス提案 | 商談数・売上 |
人事 | 採用・研修・労務・評価・制度・社内イベント | 採用数・給与計算の締めの早期化 |
経理 | 決算業務・経費精算・銀行折衝 | 決算の締めの早期化・コスト削減 |
法務 | リーガルチェック・契約書押印・文書管理 | 業務効率化 |
派遣コーデイネーター | 派遣スタッフとの面談・企業との折衝 | マッチング数 |
会社や上司、また在宅勤務者の観点から、「テレワークで何をこころがけるべきか」について、「労働政策フォーラム」の基調講演で配布された「在宅勤務の課題」の資料で、まとめられています。
資料から分かるように、大切なことは「コミュニケーション」「見える化と情報共有」です。
特に人事評価において評価者(上司)と被評価者(部下)へのコミュニケーションによる評価のフィードバックは重要です。
日常的な業務進捗の見える化と情報共有によって、評価の納得性を高めるとともに、今後の仕事に対するモチベーションを高める効果を得ることが出来ます。
テレワーク時では直接会う機会も少なくなり日々の仕事の中でフィードバックを行うことも難しいかも知れません。
その中でも評価者の心構えとして在宅勤務者を信頼するとともに、見えない相手に対して何を伝えていくのかのネットリテラシーの向上が必要不可欠です。
そのためには、今まで人事評価考課者研修以外にも、各種ネットツールの使いこなしが必要になります。例えばクラウド型の人事評価ツール「あしたのチーム」などを活用する方法が考えられます。
一方、月刊総務の調査によれば、2020年4~5月に発出された緊急事態宣言下で、リモートワークができた総務社員は1.6%で、出社した一番の理由は郵便物の対応でした。
テレワークが推奨されている状況であっても、他の社員のためテレワークで出来ない仕事を担当してくれている社員もいます。このような社員に対しての評価項目や評価軸を準備することも、重要な視点と言えます。
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