第一弾は微細な和柄のiPhoneケース モルファが金属雑貨で新ブランド
「金属加工のコンシェルジュ」。兵庫県伊丹市の「モルファ」は、自社をこう位置づける。ロケット部品や試験片などの製造に加え、協力企業と連携して特注部品に対応する商社的役割をこなす。さらに、日本の技術力をデザインの力を借りて世界に発信しようと、金属雑貨のブランドを立ち上げた。(中塚久美子)
「金属加工のコンシェルジュ」。兵庫県伊丹市の「モルファ」は、自社をこう位置づける。ロケット部品や試験片などの製造に加え、協力企業と連携して特注部品に対応する商社的役割をこなす。さらに、日本の技術力をデザインの力を借りて世界に発信しようと、金属雑貨のブランドを立ち上げた。(中塚久美子)
同社は、同県尼崎市で創業したまちの鉄工所。髪の毛の太さより小さな10マイクロメートル(0.01ミリ)の穴を開けることができる精密加工技術を持つ。
機能性重視の加工技術に、デザイン性をプラスしてつくり上げたのが、「MORPHA WORKS(モルファ・ワークス)」という金属雑貨ブランドだ。最初に手がけたのは、薄さ0.8ミリ、重さ20グラムのジュラルミン製の金属iPhoneケース。「薄金(うすかね)」と名付けた。四隅の曲面はプレス加工の技術を用い、ネジを使わない構造だ。切削、磨き、表面処理など各分野の職人が関わり、和柄を背面パネルに彫り込んだ。
ブランド設立は、2代目社長、平山哲史(さとし)さん(38)のアイデアだ。大学卒業後、大手自動車メーカーでエンジン制御開発に関わった。最先端の現場だったが、違和感もあった。「自動化する未来は均一化して面白くない」。3年間勤めた後、尼崎に戻り、実家で金属加工を学び始めた。
モルファに正式入社した2008年、リーマン・ショックが世界を襲った。周りは廃業していった。当時、ホームページ(HP)を持つ鉄工所は少数派。平山さんがHPをつくるとメーカーからの直接注文が増えた。同社の技術は10マイクロメートルの穴加工が宇宙航空研究開発機構(JAXA)に採用されたり、50マイクロメートルのスリット加工をした試験片が原子力の配管の非破壊検査用に使われたりしている。
そうした最先端の微細加工こそ技術の差が分かる、と考えた平山さん。そこに伝統の和柄を融合させた。知り合いのデザイナーとスマホケース作りに取り組みながら、到達した発信方法だ。
2018年、一つの形になった。文化庁などが主催する英ウェールズ国立博物館での企画展で、「薄金」が先端技術の中に伝統装飾を生かしたアート作品として展示された。
平山さんは「機能的なものづくりは価格競争に巻き込まれ、定量化されていく。でも、好き嫌いという感情に訴えるものは人間にしかできない。そうしたものづくりを、時間をかけてやっていきたい」と話す。(2021年3月6日朝日新聞地域面掲載)
1992年、平山社長の父親が創業。2020年春、本社を兵庫県伊丹市に移転した。スマホケースは、金属加工で出来る限界への挑戦と世界への発信を達成できたため現在、作っていない。一方、持続可能なモノづくりを目指し、時代が変わっても必要とされる名刺ケースやしおりなど、金属製の文具を製作・販売している。
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