杉本哲也社長(60)は根っからの研究者。甲南大理学部を卒業後、繊維大手のユニチカに研究職で入った。空気中のニオイや液体の不純物を吸着する「活性炭繊維」の開発に携わった。特許を会社に譲り、30歳を前にして退職。父の故・常壱(つねいち)さんが約60年前に起こした東洋シールに移り、2007年に跡を継いだ。

 祖業は一升瓶のお酒の口に巻く飾り「アルミキャップシール」の印刷。やがて瓶に貼るラベルも手がけ、食品トレー用のシールの印刷も担うようになった。

東洋シール大阪工場のシール印刷機

 杉本社長は研究者としての知見を発揮し、印刷から製造まで事業の幅を広げた。生分解性バイオマスラベルや、ニオイを吸収する素材を次々と開発して商品化。なかには抗ウイルス加工も含まれていた。だが当初は需要がなく、「ほとんど売れなかった」。

 そんななか、新型コロナウイルスの感染が拡大した。2020年4月にしっくいのコーティングを施した抗ウイルスのシールを、照明のスイッチなどに貼れる形にして売り出した。販売は好調だったが、もの足りなさも感じた。不特定多数の人が触れる物や場所はたくさんあるのに、製造能力や販路が限られるからだ。考え抜いた先に出た結論は、「それならシールの上だけ売ったらええ」だった。

 薄さ25マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の透明なフィルムに、均一に抗ウイルス加工を施し、半年で「抗ウイルスラミネート」を商品化した。抗ウイルス性能を評価するISO(国際標準化機構)規格も取得。透明で薄いため、飲食店のメニューやエレベーターのボタンなど、どこでも簡単に貼れるのが特徴だ。2020年9月に売り出すと、同業のシール会社からも注文が殺到。「技術を囲い込むこともできたが、使い方をみなさんで考えてもらい、広く使ってもらうことを優先した」

 2021年3月には、少量で価格を抑えた商品も出した。商社を通じて販売したところ、海外からの引き合いもあるという。杉本社長は「子供からお年寄りまで、誰が触っても安心できるラミネートが当たり前の社会にしたい」と話す。(2021年3月13日朝日新聞地域面掲載)

東洋シール

 1960年創業。杉本哲也社長が2代目。従業員15人。2010年に大阪工場(大阪市東成区)が操業し、2013年にはデジタルプリント室を開設した。肌に貼れる「フェイスペイントシール」や、サッカーJ1セレッソ大阪のステッカーも手がける。