寒い冬に欠かせないカイロの主な成分は鉄と炭で、開封すると空気中の酸素と反応し、熱を発する。

 カイロに注目したのは2015年冬、父親から引き継いだコンビニ店を経営していたころだ。アルバイトの中国人留学生の女性が「暖かくてとっても喜ばれる」と、母親への土産としてカイロを山ほど持って帰省した。「当たり前やと思ってたものやのに」。妙に気になり、カイロについていろいろ検索した。

 東京海洋大の佐々木剛教授が、使用済みカイロを利用し、水を浄化する基礎研究に取り組んでいると知った。「これや」と思った。店で売れなかったおにぎりや弁当などが廃棄されることが気になっていた。資源の再利用に人一倍敏感だったこともあり、事業化をめざしてプランを練った。

 佐々木さんと連絡をとり、2017年冬、初めて東京で会った。研究に感銘したこと、資源再利用への思い、考えた事業化のプランを熱く語った。15分の約束だった面会は2時間に及んだ。

 協力を快諾した佐々木さんと開発したのが、カイロの中身に有機酸の一種を加えた「Go Green Cube」だ。

使用済みの使い捨てカイロで作った「GoGreenCube」のイメージ

 1粒6グラムほど。ヘドロがたまった汚水に入れると、鉄イオンが溶け出す。ヘドロに含まれる有害な硫化水素が鉄と反応して無害な硫化鉄になり、水質が改善する。硫化水素が放つ悪臭も抑えられるほか、水中に酸素が供給され、水生植物が繁殖しやすくなるという。

 大学の実験池では、水の汚染度を示す化学的酸素要求量(COD)が半減し、生き物の姿も戻ってきた。

 2018年春に株式会社化し、兵庫県内のゴルフ場の池で実証実験に取り組んだ。週に1回、広さ1600平方メートルの池に20キロのキューブを投入すると、40センチほどあったヘドロが5カ月後に4分の1に減った。

 取り組みを知った兵庫県内のゴルフ場や全国50校超の学校がカイロの回収に協力してくれている。

子どもたちがつくった使用済みカイロの回収箱

 山下さんがめざすのは、「地球を喜ばせること」。「みんなにとって唯一無二の地球を使い捨てカイロできれいにしたい」(2021年2月27日朝日新聞地域面掲載)

Go Green Cube

 2018年設立。2025年の大阪・関西万博で会場になる人工島「夢洲(ゆめしま)」周辺の海をきれいにすることをめざし、クラウドファンディングなどで資金を集める。使用済みや有効期限切れのカイロも郵送で受け付けている。詳細はホームページ