1千度でも溶けないラベル「背水の陣」から生まれた世界シェア100%
1千度の鉄やアルミに貼り付けても、溶けないラベルと鮮明なままの文字。「YSテック」(大阪府吹田市)は、高温の金属に直接貼って管理ができる特殊なバーコードラベルを開発し、世界シェア100%を誇る。同社のモットーは「ニッチな分野におけるオンリーワン」だ。(安井健悟)
1千度の鉄やアルミに貼り付けても、溶けないラベルと鮮明なままの文字。「YSテック」(大阪府吹田市)は、高温の金属に直接貼って管理ができる特殊なバーコードラベルを開発し、世界シェア100%を誇る。同社のモットーは「ニッチな分野におけるオンリーワン」だ。(安井健悟)
親会社の「油脂製品」(大阪市中央区)は化学製品を扱う商社で、約20年前、製造元と顧客が商社を介さずに契約する「直接取引」の波に押されていた。窮地を脱しようと新たな活路を求めたのが、自社製品の開発だった。
営業職だった社員を集めて、現在の会社の母体となる「開発部隊」を結成。大学の研究室と連携するなどして独自製品の開発を急いだ。しかし、成果はひとつも得られなかった。
そんな中、取引のあったカナダのアルミ精錬工場から、相談が寄せられた。「高温の金属を安全に管理する方法はないでしょうか」。この工場では、製品を識別するため、500度に熱したアルミにチョークで番号を手書きしていた。開発部隊を立ち上げて約5年が経っていた。武久健治社長(56)は「まさに背水の陣だった」と振り返る。
鋼材に直接記入するという従来の手法では、やけどや書き間違いのリスクがあった。納品する金属を取り違えれば、その後の製造に重大な影響を及ぼしかねない。
「熱に強いラベル」があれば、出荷までの工程を、安全で正確に管理できる。チームはまず、500度に耐えられるラベルを目指した。
土台となるラベルや粘着剤の素材を模索し、熱に強いインクを組み合わせて、実験を重ねた。当初は印字したバーコードがにじんだり、ラベルがはがれたりする失敗の連続。試行錯誤を2年続け、ようやく製品化にこぎ着けた。
一般的な工業用プリンターで印刷できるという手軽さにもこだわった。開発した耐熱バーコードラベルは、「ヒートプルーフ」と名付け、2005年に売り出した。
その後も、耐久温度を高めるための研究を重ねた。常温の金属を熱加工する場合は1200度、高温の対象物に直接貼り付ける場合は1千度まで対応できるようになった。後者の世界シェアは100%を誇る。ヒートプルーフは、約25カ国の500社以上で使われている。
「耐久温度をもっと上げてほしい」といった相談は今も絶えない。武久社長は「『少量多品種』を武器に、様々な課題を解決したい。これからもかゆい所に手が届く会社であり続けます」と意気込む。(2021年5月15日朝日新聞地域面掲載)
2005年設立。従業員25人。カナダのトロントにも営業所をもつ。ヒートプルーフは鉄鋼業のほか、製菓会社でも導入。菓子を焼く際に高温で使うトレーにラベルを貼ると正確に管理できる。2014年、経済産業省から「グローバルニッチトップ企業100選」に認定された。
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