国産綿の一大産地だった加古川、「綿のカシミヤ」で思い描くブランド化
アパレル業界で中国・新疆ウイグル自治区産の綿花の使用を中止する動きが出るなど、綿花の産地問題が注目を集めている。今はほぼ完全に輸入に頼る日本だが、江戸から明治期にかけて国内各地に産地があった。その一つ、兵庫県加古川市で地元産綿の復興やブランド化を目指す動きが本格化している。(森田岳穂)
アパレル業界で中国・新疆ウイグル自治区産の綿花の使用を中止する動きが出るなど、綿花の産地問題が注目を集めている。今はほぼ完全に輸入に頼る日本だが、江戸から明治期にかけて国内各地に産地があった。その一つ、兵庫県加古川市で地元産綿の復興やブランド化を目指す動きが本格化している。(森田岳穂)
7月上旬、JR神戸線宝殿駅から車で10分ほどの畑に、背丈20~30センチほどの緑の葉が伸びていた。加古川市の衣類メーカー「ワシオ」の鷲尾吉正社長(62)が植えた綿だ。秋ごろになれば背丈が1メートルを超え、実がはじけるとふわふわの綿花が姿を現す。
鷲尾さんが綿の栽培を始めたのは10年前。遺伝子組み換えや大量の農薬使用が問題視され、無農薬で環境に配慮した「オーガニックコットン」への注目が高まっていた。
かつて綿の一大産地だった加古川で最高品質の国産綿を復活させ、地場産業に育てたいと、社内プロジェクトとして開始。2015年に「かこっとん」という別会社を立ち上げた。周囲の農家の協力を取り付け、栽培面積を8000平方メートルまで広げた。
価格競争では、収穫の自動化が進む米国や人件費が安い中国やインドにかなわない。
かこっとんは品質にこだわった。栽培する品種は「シーアイランドコットン」。繊維が長く、光沢感の強いのが特徴で、なめらかな質感の生地になる。「綿のカシミヤ」とも呼ばれる最高級品種だ。紡績会社など外部企業と協業し、綿糸から製品に仕上げる。
靴下1足で5000円ほどにもなる製品もあるが、国産綿の希少性や高い品質を強みに、国内有名ブランドへの納入実績も出てきた。
兵庫県は奈良県に次ぐ全国2位の靴下生産量を誇る一大産地。将来は加古川産の綿をつかって地元で縫い上げた高品質の靴下に、愛媛県の「今治タオル」のように認定マークをつけてブランド化する構想を思い描く。
綿への理解や関心を高めてもらおうと、地域の家庭に種や苗木を無料で配り、育った綿花を買い取る取り組みも始めた。地元の社会福祉協議会と協力し、綿花畑を障害者雇用の場として活用してもらうことも計画している。
鷲尾さんは「国産綿は、どこでどうやって、誰が作ったのかが完璧にわかる、透明性の高い安全な材料。高品質な綿で知られていた伝統がある加古川ならではの価値を高めていきたい」と意気込む。(2021年7月17日朝日新聞地域面掲載)
2015年設立。従業員は1人で、綿の栽培や縫製などは地元農家や外部企業と分業する。綿の種子を利用した高級食用油や和紙の開発にも挑戦。年間の売上高は300万円ほど。赤字が続いているが、販路は徐々に広がっているという。
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