オフィスに並ぶモニターに映る車体やパーツの3D画像に、社員がペンで形や色を整えていく。若者が憧れる310馬力の最先端マシンや、中高年が食いつく1960年代の旧モデルを意識したレトロ単車など、好評のカワサキデザインはここで生まれた。

モニター上でバイクのデザインに手を加える=ケイテック提供

 前身は川崎重工業のバイク事業デザイン部門で、1990年に独立した。オートバイの「鈴鹿8時間耐久ロードレース」の監督なども務めたケイテックの吉武秀人社長(60)は「芸術肌のデザイナーの人材確保は、生真面目な重工文化での採用になじまない。分社化の狙いの一つだった」と話す。

 車体の空気抵抗や振動・衝撃などのコンピューターシミュレーションのほか、スマホを操作して様々な角度からバイクを見ることができ、車体の色も変えられる電子カタログ作りなど、情報技術を生かしたフィールドは多岐にわたる。

 カワサキは1960年代から、いかつくパワフルなイメージのモデルを連発してきた。女性に好まれるスクーターのようなオートマチック車をほとんどつくらず、趣味性の高さを押し出す。付いたあだ名が「男カワサキ」。購買層は限られ、販売は長らくライバル社の後塵(こうじん)を拝した。

 販売好調の最近は、カワサキに乗る女性ライダーが少なくない。湖中(こなか)秀和・3D開発部長(53)は「女性社員の新鮮な色彩感覚を製品に取り入れている。女性客に対しては、彼女らの感性が役立っているのかも」。ケイテックの女性比率は26%だが、3D職場は35%。「男カワサキ」は昔話だ。

 販売店などから「関西から遠い消費地への交換部品の供給が遅い」などとも言われてきたが、それも同社のIT管理で改善した。吉武社長は「ネガティブな要因をつぶすにはIT利用が効果的。いずれ川重グループ全体にケイテックを役立ててもらいたい」と意気込む。(2021年8月14日朝日新聞地域面掲載)

ケイテック

 川崎重工業のバイク事業「モーターサイクル&エンジンカンパニー」(10月に分社化)のデザインやIT関連の業務を主に担う。バイクの走行・耐久実験も実施し、特別職のテストライダーも雇用している。社員数約400人。2020年度の売り上げは41億9100万円。