目次

  1. 経営者保証とは
  2. 「経営者保証なし」融資の割合、銀行間で差
  3. 調査した企業
  4. 会社と同時に破産する経営者が9割
  5. 産業別では建設業が最多
  6. 原因別では「販売不振」が最多
  7. コロナ禍での経営者保証の見通し

 税理士法人「山田&パートナーズ」の解説記事によると、経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者やその家族が会社の債務の連帯保証人となる仕組みです。金融機関からの融資で会社の信用補完として求められることが少なくありません。

経営者保証の仕組み(政府広報オンラインから引用)

 経営者保証を締結していると、会社の返済が滞ったときに、経営者自身の預貯金、土地や建物、生命保険等の個人財産を処分してでも返済する義務が発生します。経営者保証は非常に責任が重く 、事業の円滑な承継を阻害する恐れがあるなど、様々な課題が指摘されてきました。

 そこで、政府は、経営者保証なしでも融資を受けられる道を示そうと「経営者保証に関するガイドライン」を公表しました。

 金融庁によると、「経営者保証なし」で融資している割合は銀行ごとにかなり差があります。東京スター銀行のように、9割を超える銀行がある一方、地銀のなかには2割ほどにとどまるところも複数あります。

 経営者保証の現状を調べるため、東京商工リサーチは2020年4月1日~2021年3月31日の官報公告で、破産開始決定を受けた株式会社、有限会社、合同会社の5,552社を調べました。同じ経営者で複数の会社が破産している場合は、1社のみを調査対象にしました。

 調査結果によると、破産した5552社のうち、経営者個人も破産したのは3789件で、割合にして7割近くに上りました。3789件の9割は、会社と同時に経営者個人も破産開始決定を受けていました。

 産業別では、建設業が経営者の破産率が高い結果となりました。これについて、東京商工リサーチは「設備投資が重く、経営者個人の資産投下や担保提供が負担になっているようだ」と分析しています。

産業 経営者も破産した件数 構成比(%) 2020年度全倒産との比率の差
農・林・漁・鉱業 47 1.30 ▲0.01
建設業 638 17.68 2.09
製造業 398 11.03 ▲0.47
卸売業 510 14.13 0.91
小売業 511 14.16 0.69
金融・保険業 17 0.47 0.03
不動産業 128 3.54 ▲0.13
運輸業 120 3.32 0.16
情報通信業 164 4.54 0.92
サービス業ほか 1075 29.79 ▲4.19

 原因別では、「販売不振」が最も高く、2020年度の全倒産の原因別比率と比べても、とくに経営者個人が破産した会社は「販売不振」の比率が2.3ポイント高い結果となりました。東京商工リサーチは、売上低迷が長引き、資金調達や取引に際し、経営者個人の保証を付けるケースが多かったと分析しています。

 また、赤字累積の「既往のシワ寄せ」も0.6ポイント高く、破産するまで経営者個人の資産を投下し、債務を膨らませながら事業継続を目指したとみられます。

原因 経営者も破産した件数 構成比(%) 2020年度全倒産との比率の差
放漫経営 178 4.93 0.34
過小資本 82 2.27 0.14
他社倒産の余波 86 2.38 ▲2.45
既往のしわ寄せ 372 10.31 0.60
信用性低下 18 0.49 0.06
販売不振 2775 76.91 2.34
売掛金等回収難 13 0.36 0.11
在庫状況悪化 1 0.02 ▲0.02
設備投資課題 18 0.49 ▲0.11
その他 65 1.80 ▲1.02

 新型コロナウイルスの感染拡大で、政府の方針で企業への実質無利子・無担保融資が行われたため、条件付きながら経営者の個人保証が付かないケースもあります。

 しかし、返済見通しが立たない過剰債務を抱えた会社が多く、東京商工リサーチは「コロナ収束後の国の支援策の状況によっては、経営者の破産率が高まる可能性がある」とみています。

 さらに今後については次のような見解を示しています。

 「長年続いた経営者の個人保証を、急にすべて解除することは現実的に難しい。コロナ禍が長期化し、資金が必要な企業が多いだけに、事業再生や廃業などの支援策を含め、緻密なハンドリングが求められている」