河部精密工業が2015年に開発した「utiles(ユーティレス)」は、のこぎりには見えない丸みを帯びた形状と色合いが特徴だ。代表取締役の河部那津子・商品部チーフによると、自分で何かをつくったり修繕したりする「DIY女子」が話題になったころに、ホームセンターから商品開発を持ちかけられた。居間のペン立てや台所に置いても違和感がないのこぎりを作ろうと取り組んだという。

用途に合わせて3種類あるユーティレス

 本体は、だれにでも扱いやすいように26センチと短くし、握りやすいようグリップに薄くゴムを巻いた。刃にはカバーをつけ、引き出しなどに安全に収納できる。一方で刃はプロ用と同じ工程で作った。特殊鋼に高周波焼き入れ処理をして曲げても折れない丈夫さと切れ味を確保したという。

 刃先は用途に合わせて3種類。メタル用は金属製品やスチールパイプ、プラスチックなどの硬い素材を切断でき、ゴルフクラブや傘などに使える。クラフト用は段ボールやじゅうたん、発泡スチロールなどに使うことができる。ウッド用は木材や庭木などの切断向けだ。

 ホームセンター業界の展示会「ジャパンDIYホームセンターショウ2015」の商品コンテスト新商品部門で、大手企業の製品を抑えて経済産業大臣賞を受賞。経産省近畿経済産業局の関西のクールジャパン商品にも選ばれて、パリで展示販売された。

 だが、発売当初はなかなか売れなかったという。プロ向けと同じ工程でコストがかかる分、価格はやや高め。外装に凝ったこともあって、ホームセンターからは「いままでののこぎり売り場では置くところがない」という声もあがったそうだ。

 売れ出したきっかけは、通信販売のカタログだった。廃棄に困るテーブルやプラスチックケースなど粗大ごみを解体するのにいいと提案した。ホームセンターののこぎり売り場を訪れる人たちではない客層をつかむことができた。河部さんは「一般の人の生活に根ざしたところに、これまでと違うのこぎりの市場があった」という。(2021年9月4日朝日新聞地域面掲載)

河部精密工業

 1967年創業、従業員12人。金属や塩ビなどを切るのこぎりなど業務用の切断工具を国内で製造。自社ブランドのKSKのほかOEM商品も手がける。ユーティレスは1本税込み3080円。主にテレビやインターネットの通販で販売している。