脳・心臓疾患の労災認定の新基準とは 約20年ぶりの改正ポイントを解説
過労死が社会問題となっているなか、脳出血や心筋梗塞などを発症した労働者の労災認定基準が約20年ぶりに改定されました。労働時間だけでなく労働時間以外の要因も総合評価してより柔軟に労災を認定するようになります。全国の労働基準監督署で2021年9月15日から運用が始まりました。労災基準とは何かや事業主の義務についても紹介します。
過労死が社会問題となっているなか、脳出血や心筋梗塞などを発症した労働者の労災認定基準が約20年ぶりに改定されました。労働時間だけでなく労働時間以外の要因も総合評価してより柔軟に労災を認定するようになります。全国の労働基準監督署で2021年9月15日から運用が始まりました。労災基準とは何かや事業主の義務についても紹介します。
目次
労災認定とは、簡単に言うと、病気やケガ、死亡原因が仕事に関係していると労働基準監督署が認めることを指します。労災保険は、原則として一人でも労働者を雇用している事業すべてに適用されます。
たとえば、仕事でケガをして業務からしばらく離れなければならなくなった労働者は、労働基準監督署に請求し、認定されれば、休業補償などの労災保険給付を受けることができます。
労災の具体例としては、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害などがあります。
冒頭のグラフのように、人口動態統計で、1947年から2020年までの死亡率の変動をみると、心疾患が悪性新生物に次いで増加を続けており、2番目に多い死因です。
脳血管疾患は1971年から減少傾向でしたが、それでも老衰に次いで4番目に多い死因となっています。
こうしたなか、脳・心臓疾患の労災認定基準が2021年9月15日に改正されました。
改正された背景の一つに、脳・心臓疾患の労災認定率が低下していることがあります。
遺族側から労働基準監督署が労災かどうか判断する材料として、長時間労働が発症の原因なのかを判断する「過労死ライン」に比重を置きすぎてきたという指摘が出ていました。
過労死ラインとは、病気や死亡に至るリスクが高まる時間外労働時間のことを指します。今回の改正で、過労死ラインは改正前の基準を維持されることになりました。
具体的には、発症前1カ月間に100時間または2~6カ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強いというものです。
ただし、これだけではなく月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まるとも指摘されています。
脳・心臓疾患の労災認定の新基準は、これまでの労災認定基準と同じように、次の2つが影響しているという基本的な考え方は変わっていません。
ただし、労災認定の基準となる負荷要因が見直され、より柔軟に労災を認定できるようになりました。
厚労省の資料によると、改正された労災認定基準は、の主なポイントは次の通りです。
それぞれについて詳しく紹介します。
労働時間以外で労働者に負荷がかかる要因として、これまで次のような例が挙げられていました。
上記に加え、新基準では次のような負荷要因が追加されました。
とくに勤務間インターバルは、終業後に一定の睡眠時間や生活時間の確保に役立つもので、一定以上のインターバルを取ることを制度化している企業が国内でも少しずつ増えています。
改正された新基準では、時間外労働が「過労死ライン」に至らなくても、上記のような労働時間以外の負荷要因も考慮して総合的に労災認定できることが明記されました。
短期間の過重業務などで業務と発症との関連性が強いと判断できる場合について「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」などと例示しました。
新しい基準の下では、労災認定される脳・心臓疾患の対象疾病に「重篤な心不全」が追加されました。
脳血管疾患の対象疾病は次の通りです。
心疾患などの対象疾病は次の通りです。
事業主には、労働災害の防止義務、補償義務、報告義務があります。
労災事故が発生した場合、事業主は補償責任を負う必要があります。しかし、労災保険に加入していれば、労災保険による給付が行われ、事業主は労働基準法上の補償責任を免れます。
労災保険に加入していない場合は、労働基準法上の補償責任を負うことになります。また、労災で労働者の休業1~3日目の休業補償は、労災保険から給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります。
詳しい申請方法は、厚労省の公式サイトで確認してください。
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