平屋建てで、延べ床面積は約180平方メートル。2018年に改修工事を実施し、壁紙などを張り替えてベッドを置いた。だが改修はあえて最低限にとどめ、柱には釘を打った跡も残した。

僧侶が寝泊まりした築400年超の建物「妙厳院」が、宿坊「和空三井寺」に生まれ変わった。柱の傷などはそのままだが、畳の上にはベッドや机を置いた

 1日1組限定の一棟貸しで、宿泊者は境内の別の建物にある国宝の客殿を貸し切りにして座禅の指導を受けたり、修験者の装束を着て山伏体験をしたりできる。宿泊は2人以上で、1泊あたり1人平均10万円と高額だが、コロナ前は開業日のほぼ半分が予約で埋まった。

 僧侶の西坊信祐さん(42)は「宿泊して長く滞在してくれる参拝客が増え、交流できる時間が増えた」と喜ぶ。今後は、朝の掃除など日常的な仕事も体験に組み込みたい考えだ。

 経営するのは、株式会社「和空プロジェクト」(大阪市)。全国寺社観光協会による監修のもと、寺社の相談に乗ったり、開発を手助けしたりする「宿坊創生」事業に力を入れる。日本独自の木造建築で、歴史を感じられる寺社宿泊の需要は大きいと考えたからだ。

 三井寺ではコロナ禍前、インバウンド(訪日外国人客)による参拝が急増したものの、一方では使っていない建物の管理に頭を悩ませていた。宿泊施設として生かすことで建物を有効利用することを寺に提案した。

 全国には、宿坊が500以上あるとされる。歴史的な建物の改装が必要だが「時代にあわせて参拝に来ていただきやすい形を考え、伝統を『化石』にしないのが重要」(西坊さん)という。

 これまでに全国の約50の寺社から、宿坊開業などの相談を受けてきた。寺社を改装して経営する宿坊は三井寺のみだが、2017年には四天王寺(大阪)、2019年には法隆寺(奈良)の近くにホテルも開業した。宿泊者にはガイド付きの寺めぐりなどを提供し、寺社にもお金が落ちる仕組みづくりを進める。コロナや高齢化で参拝客や檀家(だんか)が減るなか、寺の経営を支えたいという。

 専務の田代忍さん(38)は「人口減が進むなか、寺社の新たなファンを増やしたい。寺社を中心に観光をもり立てれば、地方の魅力発信にもつながる」と期待を込める。(2021年9月18日朝日新聞地域面掲載)

和空プロジェクト

 全国寺社観光協会の協力会社として2015年に設立。社員25人。地域振興や寺社の収支改善につながる取り組みを幅広く手がける。僧侶がオンラインで市民らの悩み相談に乗る「僧侶クリニック」をコロナ禍で開始。全国の御朱印を集める旅なども企画している。