【原価管理とは】導入の目的・手順・メリットを事例でわかりやすく解説
事業承継に伴い、原価管理のやり方を見直そうとしている後継ぎの方も多いのではないでしょうか。経営者に把握してほしい原価管理の目的や導入の手順やメリット、システム導入の考え方などについて、原価管理を進めて成果を上げた解体工事会社へのインタビューなどをもとに解説します。
事業承継に伴い、原価管理のやり方を見直そうとしている後継ぎの方も多いのではないでしょうか。経営者に把握してほしい原価管理の目的や導入の手順やメリット、システム導入の考え方などについて、原価管理を進めて成果を上げた解体工事会社へのインタビューなどをもとに解説します。
目次
原価管理とは、材料費、労務費、外注費などのコストを「製品」「顧客」「案件」にひもづけて算出し、改善を行うことです。
経理部門が「決算を締める」目的に加え、経営者が収益を「製品別」「顧客別」「案件別」に管理し、意思決定に生かして、経営改善を進める目的で行います。
原価管理は「経理部門だけのものではなく、経営者が生かすためのもの」と理解するといいでしょう。
有料のシステムを入れるか、標準のエクセルなどを使うかといった管理の方法や、「標準原価計算」(※)など原価の計算手法も、この観点で判断する必要があります。
(※原価計算手法の一つで、最初に基準となる原価を設定しておき、実際に発生した原価と比較分析、原価を改善していく手法を指す)
原価管理は「顧客別、製品別の収益」などを算出して、取引先別の営業方針や価格基準を検討するなど、経営判断に生かすことなどを目的に行います。数字で経営判断するための土台ともいえるでしょう。予算などを作成するときも、正確な顧客別の収益実績などが分からないと適切な予算は組めないからです。
それでは、原価管理と事業承継は、どのように関係するのでしょうか。
上の会話は、筆者が実際に2代目経営者から相談を受けた事例です。この事例にある「経営判断のために数値を見える化する」手法の一つが、原価管理なのです。
中小企業、特に下請けと呼ばれる建設業や製造業の場合、数値(決算書上の実績などの財務会計に加え、顧客別の採算などの管理会計も含む)で会社を管理することは、資金繰りや従業員の定着の観点からも重要です。
上の会話も、筆者が接したことがある中小企業で、実際に起きていた現象です。この内容については、2021年1月に公開した記事「下請けが値下げ要求されたら?」もご参照ください。
コロナ禍などで景気が悪化する状況では、元請けなどの「カモ」にされないように対策し、利益を確保していくことが重要です。
では、「数値の見える化」はどのように進めればよいでしょうか。以下、図表にまとめました。
中小企業の場合、①~③の「前提」が整っていないことが少なくありません。一足飛びにデータを分析しようとするのではなく、まず、言語化やデータの入力習慣から始める必要があります。
経営者と従業員を結ぶ「共通言語」が無いことから、お互いの理解が進まず、新たに採用した人材が定着しない、という事例もあります。同じ言葉でも、部門間によっては違う意味で使っていた会社もありました。
経営者が原価管理の重要性を認識しても、実際に運用していく上で、従業員にどのように説明し、運用や定着を進めればいいのでしょうか。
実際に原価管理を経営改善につなげた、解体工事・産廃処理会社「クワバラ・パンぷキン」(さいたま市)の3代目・桑原優太専務に、お話を伺いました。
――原価管理は、どのようなシステムを使っていますか。
googleスプレッドシート(以下、スプレッドシート)のみで、(有料の)システムは使っていません。色々と検討しましたが、自社の事業(解体工事)に即したものがありませんでした。
自社の事業に合わないシステムを探し続けるよりも、スプレッドシートやエクセルで工夫したほうが良いと考えました。
――どのような項目を入力しているのでしょうか。
現場別、元請け別、営業責任者別、管理責任者別に分けて、収入、原価、粗利、利益率などを算出しています。数字だけでなく、担当者ごとに評価のコメントも入れています。
――原価管理では、データの入力が最初のハードルになるケースが少なくありません。従業員の方から、反発はありませんでしたか。
導入して最初の半年は、文句も出ました。しかし、最初は嫌々だったとしても、それで自分たちが楽になると気づいてもらえれば、そこから戻ることはありません。
管理部門だけでなく、施工の責任者も入力を必須にしています。以前は幹部にさえ、数字が断片的にしか開示されていませんでしたが、現在は全社員が数字を確認できるようにし、会議資料として活用しているので、少しずつ理解が得られました。
――どういう手順で現在の形に落ち着きましたか。
まずは資金の管理から着手しました。半年かけて、請求書の正確な把握、過去実績からの入出金予測、差異分析を行い、その過程でエクセルを整備していきました。
それが、現在の原価管理のスプレッドシートにつながっています。偶然、経理部門にスプレッドシートにたけた人材がいて、助けられました。
――原価管理をどうやって経営改善につなげたのでしょうか。
判断軸を売上主義から粗利主義に変え、採算の悪い大型案件を戦略的に減らしていきました。
社内から反発もありましたが、収益を確保し、賞与や休暇(建設業ではまだ6%以下の週休2日制や男性の育休制度の導入など。参考記事)の待遇を改善したので、徐々に理解を得られました。
数値が「見える化」されたことで、これまで評価されていなかった人たちを、評価できるようになりました。
業界全体が伸びているときは、低い利益率の仕事を限られた元請けから受注するだけでも、経営は何とかなります。しかし、今はコロナ禍で工事も減り、その手法では行き詰まっていきます。
――従業員とのコミュニケーションで苦労されたことは何でしょうか。
売上主義から粗利主義に思考を切り替えてもらうのに苦労しました。人事評価基準を変えて、賞与額も売り上げではなく利益で判断するようにしました。
待遇も同時に改善し、「社員にとってプラスになることをやっていた」と思っていましたが、それでも理解を得られず、辞めていったベテランもいました。周囲からは「あの人が辞めて大丈夫?」という声もありました。
歯を食いしばって数字に沿って従業員に説明して、理解を得るよう努めました。
――中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)については、どのようにお考えですか。
まずは経営者がデジタルの勉強をすることからだと思います。DX以前に「デジタル化の前提」が整備されていない会社があります。
例えば、勤怠管理をスマホやSaaS(クラウド上でサービスが利用できるソフトウェア)でやっているか、(チャット・コミュニケーションツールの)チャットワークやZoomを使えるか。
そのレベルの前提が無いのに、外部のITベンダーに頼り切り、自社の事業に合っていないシステムに多額の投資をするのは、おかしな話です(参考記事)。
――桑原さんと同じように、中小企業で奮闘している後継ぎ経営者へのメッセージをお願いします。
自分も消去法で会社を継ぐことを選んだ、いい加減な3代目でした。会社が苦しくなって再建に関わることになり、現場の最前線に立って、社員の協力とサポートのおかげで、3年で事業を再建できました。
承継されて満足している経営者もいますが、先代と同じままで満足してしまうと自分の次の世代が苦労します。
自分たちのように解体・土木工事に適したシステムが無くて、苦労した経験から、解体・土木工事に特化したシステムの開発も、新たな取り組みとして進めています。
建設業に限らず、コロナ禍で収益を確保しにくくなったという会社は少なくありません。実際に、人件費、資材費、物流費などあらゆるコストが上昇傾向にあります。
「増収増益」「過去最高益」と好決算の企業がある一方、廃業も増加し、二極化しているのが現状です。そんな中で、先代からの「どんぶり勘定」、「アナログ管理」、「売り上げ主義」をデジタル化して数値を把握し、見直したいという後継者の相談が増えています。
事例にもあったように、SaaSの普及で様々なITツールは、無料から月数万円で活用できるようになりました。今、デジタル化は「お金よりも人の問題」です。現場も巻き込んで「昭和から令和のやり方に軌道修正する」ことが重要になってきています。
筆者は、建設業の経営者の経営相談に応じているほか、専門紙などでDX、ウッドショック(木材の価格高騰)対策、働き方改革など、本記事に関連した連載も手がけています。少しでも経営者の方のお役に立てば幸いです。
【参考資料】
昭和37年 大蔵省企業会計審議会中間報告 原価管理の目的
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