「50人がほしい服」手がける縫製会社 職人は自宅でミシン
国内で流通する衣類のうち、日本製は約2%とも言われる。縫製業の衰退が進むなか、技術を持つ人を支えようと設立された縫製会社がある。2016年設立のヴァレイ(奈良県上牧町)。2021年5月期の年商は2億円。コロナ禍でも売り上げを伸ばしている。(米田千佐子)
国内で流通する衣類のうち、日本製は約2%とも言われる。縫製業の衰退が進むなか、技術を持つ人を支えようと設立された縫製会社がある。2016年設立のヴァレイ(奈良県上牧町)。2021年5月期の年商は2億円。コロナ禍でも売り上げを伸ばしている。(米田千佐子)
多数のミシンが並ぶ工場を持たない。全国で約250人が主に自宅でミシンを操る。同社では「MY HOME ATELIER(マイホームアトリエ)」と名付ける。「1人で縫えることが大事なんです」と社長の谷英希さん(31)。
谷さんが会社を設立したきっかけは、6年前の母との電話だった。当時、報道や広報宣伝を学ぶ準備でオーストラリアにいた。母は上牧町でユニホームなどの縫製を請け負う工場を営んでいた。元請け企業が海外製品に押されて倒産し、廃業の危機だった。日本に戻り、後を継ぐことを申し出たが、拒否された。
輸入品の増加や工場の海外移転に伴い、日本の縫製業の衰退は進んでいた。経済産業省の工業統計によると、国内の繊維産業の事業所数も1985年から約30年で約5分の1に。「ほっといたら10年後、縫製工場がなくなるやん」。自ら会社を立ち上げると決めた。
生地の型抜き、資材管理、依頼主との交渉などは本社でし、縫製は登録する熟練の職人に委託する。親の介護で工場のない離島の故郷に帰った人、出産を機に離職した人ら技術を持ちながら働く場を失った人たちが腕を振るう。パリコレクションに参加するデザイナーの急な注文にも応えられるほど技量が確かだ。
仕組みは軌道に乗ったが、限界にぶつかった。縫製の加工賃を1着500円上げると、数万円の商品価格に数千円が上乗せされ、買うハードルが上がる。
「自社製品を作るしかない」。デザイナーと組んでブランドをもち、小売りも手がけて利益を確保する方法を模索し始めた。
医療用ガウンをアレンジしたエプロンも人気だ。ガウンは数百円だったがエプロンは数千円で売れた。従来にない機能性とデザインが美容師らに受けた。
谷さんは「小ロットの注文に細やかに早く応えられるのが強み。『500枚は売れないかもしれないけれど、50人がほしい服』を作り、1億人それぞれが着たい服をつくりたい」。(2021年10月23日朝日新聞地域面掲載)
本社工場は奈良県上牧町桜ケ丘1丁目。パートを含め従業員数は24人。縫製のポイントや見積もりを一覧できるシステムで管理している。職人は宮城から鹿児島まで、奈良県まで1日で荷物が届くところにいる。2020年9月、セレクトショップ併設の配送センターも町内に完成した。
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