和菓子店の五穀祭菓をかの、元ギャル6代目のまずやってみる改革で赤字脱却
埼玉県桶川市で、130年以上にわたって和菓子店を営む「五穀祭菓をかの」。赤字続きでしたが、溶けないアイス「葛きゃんでぃ」や自家製シロップの「かき氷」のヒットで、黒字化に成功しました。考案した「元ギャル」の6代目、榊萌美(もえみ)さんに話を聞くと、華やかさの裏にある地道な努力が見えてきました。
埼玉県桶川市で、130年以上にわたって和菓子店を営む「五穀祭菓をかの」。赤字続きでしたが、溶けないアイス「葛きゃんでぃ」や自家製シロップの「かき氷」のヒットで、黒字化に成功しました。考案した「元ギャル」の6代目、榊萌美(もえみ)さんに話を聞くと、華やかさの裏にある地道な努力が見えてきました。
目次
――をかのに入社されるまでのキャリアを教えてください。
元々、その辺にいる埼玉のギャルって感じで、何も将来のことは考えていませんでした。転機は、大学に入ってしばらくして母が入院したことでした。うちは市内にある三店舗を家族で経営していて、母がいなければ成り立たないと思い「私がやるべきでは?」と感じたんです。でも最初は「なんの経験もない私は経営者にはなれないや」と諦めようとしました。
そんな時、地元で同級生のお母さんに会って「お店継いだの?」って言われたんです。なぜその質問をしたのか聞いてみたところ、「(小学校の)卒業式で言ってたじゃない」と教えてもらいました。家に帰って卒業式のビデオを探してみたら、小学生の私が「お父さんとお母さんがやっている仕事を私もやりたい。みんなのためにおいしいお菓子を作るんだ」と言っていたんです。そうだ、私やりたかったんだと思い出し、親に継ぎたいと告げました。
ただ、そのまま就職しても社会人の常識がないままではダメだと思って大学をやめ、元々アルバイトをしていたアパレル会社に就職しました。私は敬語も使えなかったし、ビジネスの常識が全くわからなかったんです。バイト時代含めて3年ほどアパレルで働いたのですが、社会人の常識を身につけられたのはもちろんのこと、接客の基本、働く側と経営者の違いを学ぶことができました。
2016年、20歳の時にをかのに従業員として入社しました。現在は代表である父・信明をサポートする形で、商品開発やお店のリニューアル、マーケティングなどを担当しています。父は職人ということもあり、経営全般を私が見るという役割分担になっています。
――葛を使った溶けないアイス「葛きゃんでぃ」が大ヒットしました。商品はどう生まれたのでしょうか。
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もともとあった葛ゼリーという商品が原型です。でもこれは全然売れていなかった。またゼリーは数日で賞味期限がきれてダメになってしまうから、廃棄ロスが多く出ていました。凍らせたら日持ちするのではと思い、葛屋さんに「これって凍らせたらどうなりますか?」と聞いたら「アイスになりますよ」と言われ、アイスをつくってみることにしました。
ちょうど一週間後にお祭りがあったので、職人である父に葛のアイスを作ってもらいました。この売れ行きをみて、商品化しようとなりました。本葛をそのまま使い、湿度や温度を見て練りを変える職人の技術力をいかすことで、よりおいしく、なめらかな口当たりに仕上げています。
――そこからどうヒットが生まれたのでしょうか。
最初に売れたきっかけはテレビでとりあげられたことです。ECサイトの準備をして需要に備えていたこともあり、大きな売り上げにつながりました。赤字続きだった会社を、2019年に黒字化することができました。
――2019年に続いて2020年も黒字化を達成しました。2年連続で達成できたのはどうしてでしょうか。
1年目の黒字は、テレビで取り上げられたことによるラッキーな黒字化でした。でも2年目は地道な改善の成果が出たのだと思います。
たしかにテレビの効果によって、ネットでは売れ続けていました。ですが、店舗には全然人がきていなかったんです。また原価計算をおこなっていなかったから、売れるほど赤字になる商品がありました。こうした赤字要因に多く気づきました。
まず赤字になる商品については、全て値上げをしました。ただ値上げをしただけだと、お客さんは「なんで?」となってしまうと思います。そこで値段の理由を説明するポップをつけて、納得してもらえるように努力をしました。「いちからあんこを炊いて作っています」などと説明することで、価値が伝わり高い理由がわかるようにしました。
またお店の統一感を出すため自分たちでペンキを塗ってきれいにし、イートインスペースも作りました。
―― もうひとつのヒット商品であるかき氷も、自分で開発されたそうですね。
その頃は、職人とぶつかって悩んでいた時期でした。和菓子の新商品を作るとなると、職人の力を借りなければなりません。かき氷のシロップなら自分で作れるんじゃないかと思い、まずかき氷を作ることにしました。
かき氷用の煎茶シロップを初めて作った時、職人に味見をしてもらったら「15点」と言われたんです。でも自分のまわりに、スイーツ屋さんやお茶屋さんがたくさんいたので、わからないことがあるたびに人に聞いて、何度もチャレンジし、お店に出してよいクオリティーと認めてもらえるようになりました。
発売して最初は、お客さん数人にしか来てもらえませんでした。けれど、少しずつクチコミで広まっていき満席が続くようになって、職人からも認められるようになってきました。
――最初のお客さんはどう呼んだのですか。
かき氷ができた後に、自分で作った手作りのチラシを、自分たちで配りに行きました。1日あたり500~1千枚ぐらい配っています。1千枚配って来て頂けるお客さんが10人届かないかな、といった数字です。
自分でつくって、配りに行って、すごい労力をかけているのに数人しかこない、と見えるかもしれないですよね。でも、その人たちにおいしいお菓子をお出しして、きちんとおもてなしをすると、必ずリピートしてくれるんです。そして感動してくれたお客さんは、クチコミで人を呼んでくれるんです。そうすると、お客さんをもてなすことの意味が、スタッフにも理解してもらえます。だからポスティングを単純な効率だけでは見ていないです。実際、ポスティングがきっかけでお店に来た人たちから、リピーターがどんどん増えています。
ポスティングもイートインスペースもシロップも、「お金をかけてうまくいくのは当たり前」と職人に思われてしまうと会社が変わらないと思いました。だから、お金をかけずに、全部自分たちでやれることをやろう、と決めていました。商品写真も全部自分で撮りました。わからないことがあれば、知っていそうな人にすぐに連絡して、「これってどうつくったらいい?どうしたら良くなるかな?」と聞いたり、お店に来てもらってアドバイスをもらったり。そういった試行錯誤の結果、2年目も黒字化することができました。
――2021年の夏には、渋谷でポップアップストアを出しましたね。
SNSのつながりの縁からポップアップストアを出せる機会を得ました。1週間の開店期間のうち、最初は友達やSNSのフォロワーが来てくれましたが、途中で売り上げが減って目標達成が危うくなりました。
原因を考えてみると、SNSで人は呼べているけれど、それ以外の一般のお客さんが少ないことに気がついたんです。店舗を出している場所は、食べ物を買うような場所でないと思い込んでいたこともあり、宣伝用のポップにあまり力を入れていませんでした。でもSNSだけで人を呼ぶなら、渋谷でリアルの店舗を出した意味もないんです。
このままではいけないと、帰ってカラフルな手書きポップを作りました。テレビ出演したことを更に目立たせるように改良したり、お客さんの目線に合わせた商品写真訴求をおこなうようにしたりしました。
ポップの改善に加えて、翌日から積極的な声がけをしたこともあり、過去最高の売り上げとなりました。SNSを見てくれた知り合いのお客さんはいつもより少なかったけれど、一般のお客さんが増えたんです。無事に当初立てた目標値をクリアすることができました。
―― Instagram、Twitterは独特の使い方をされていると感じます。
私のInstagramもTwitterも、正直そんなに有益ではないと思います。かき氷のシロップを試作する姿や、ポスティングをしている姿を投稿したり。全く関係のない、リフティングにチャレンジする動画も人気ですが、その投稿1つ1つにはそんなに意味はないんです。フォロワー数もそんなに多くないですし、フォロワー数を増やすことを目的としていません。
今って、頑張っている人を馬鹿にする人って多いと思うんです。そういう人がいると、頑張ること自体が難しくなってしまうのではと感じています。だから私は、馬鹿にされるとか気にせずに発信をし続けていて、きっとそれが誰かのためになるんじゃないかと思っているんです。もしかしたら、そういう気持ちが伝わって、お店にきてくれるのかもしれません。
TwitterもInstagramも私自身も、色んな人に支えられてなんとかなっていると感じます。私自身もフォロワーの方に何か返せていけたらなって思っています。
話を聞いてみて、すぐに手を動かす行動力、打ち手の多さ、ダメなポイントを発見した際の修正力の高さがものすごいと感じました。
仕事柄、色々な経営者と話をする機会が多いのですが、変われる会社と変われない会社の大きな違いは、
・まずやってみる
が出来るかどうかだと感じます。お店でもSNSでもまずやってみる行動力の高さが、会社を変える大きな要因です。そして、わからない時に「すぐに質問できる」ことも、変革を支える強みになりうるのだと実感しました。
今の時代、SNSを使って売り上げを伸ばせないだろうかという声はよく聞きます。をかのさんもSNSを使って売り上げ向上に成功していますが、特筆すべきはSNSだけでないアナログ的な施策も組み合わせ、どちらも成果につなげていることです。
老舗の後継ぎであることは、しがらみも多いであろうと思います。良い意味で外野の声をあまり気にせず、たんたんと地道な施策を積み上げていく。その先に成功が待っているのかもしれないな、と考えさせられた取材でした。
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