目次

  1. インナーブランディングとは
  2. インナーブランディングのメリット・デメリット
    1. インナーブランディングのメリット
    2. インナーブランディングのデメリット
  3. インナーブランディングを実施する方法
    1. 理念を考え、言葉にする
    2. ミーティングを継続する
    3. 環境を変え、浸透させる
    4. タッチポイントに理念を絡める
  4. インナーブランディング参考事例
    1. 美容室グループの場合
    2. ハウスメーカーの場合
  5. インナーブランディングとアウターブランディングの境目がなくなってきている

 インナーブランディングとは、社員や取引業者などの会社関係者に向けて、企業の理念を浸透させることです。

 インナーブランディングは、広告やWEBサイトなどの目に見える形のアウトプット物を中心に取り組んでいくアウターブランディングと違い、基本的には、社員の行動指針の明確化や理念浸透のための仕組みづくりや環境づくりなど、直接目に見えないものを中心とする取り組みとなります。

 性格や価値観などが違う個人が集う会社組織において、会社として価値を高めていくにはどんな思いで業務をし、どんな価値観で思考行動するのかを統一しなければいけません。

 働く上で大事にしている価値観や理念が統一されることにより、属人的な思考による行動が減り、社員ひとりひとりのパフォーマンスが会社が理想とする方向に向かって高まります。

 なにより働く社員がどんな行動をすればよいのか、どんな選択をすればよいのかが明確になり働きやすくなります。

 今は、業種のジャンルがどんどん増え競争が激化していて、何を売るか(提供するか)での違いを作り出すことは難しい時代です。

 インナーブランディングは、どんな思いで売るか(提供するか)という理念で差別化をはかり、その思いに共感した理想の顧客や理想の人材を獲得するための手法として注目されています。

 (※)理念は、ミッション・ビジョン・バリュー・パーパス・クレドなどとも呼ばれますが、本記事では理念と統一します。

 インナーブランディングに取り組む際には、先にメリット・デメリットを把握し、自社でどの程度重きを置くかよく検討することが大事です。

 インナーブランディングには、主に次のメリットがあります。

  1. 社員が働きやすくなる
  2. 理想の人材を採用できる
  3. 社員のパフォーマンスの底上げにつながる

 それぞれ詳しくご説明します。

社員が働きやすくなる

 インナーブランディングに取り組むと、働き方の基準や物事を決める判断基準が、上司の経験ではなく、会社が掲げる理念に基づくことになります。

 これにより働く側にとっては、上司によって言っていることが違うというような状況が減り、働きやすくなります。

ブランディング、理念浸透ができていない場合 判断基準が経営者や上司の経験
→属人的な経験による指示・発想によって社員が振り回されやすい
ブランディング、理念浸透ができている場合 判断基準が理念
→理念によって経営者・上司・部下の指示・発想が統制されるため、各社員が働きやすくなる

理想の人材を採用できる

 インナーブランディングを推進すれば、採用担当者が会社のビジョンやパーパス、クレドを十分に理解した上で採用活動を行うようになります。

 採用担当者が求職者に対し、自社が理念をどれだけ重視しているか、どれだけ具体的に活動をしているのか、理念の重要性を全面的に伝えてくれるようになるのです。

 それにより、「この会社は、それほど理念に力を入れているのか」と求職者の共感を呼ぶことができ、給与や休日日数では大企業に見劣りすることがあっても、理想の人材の採用に繋がります。

 また、入社後のミスマッチも減り、余計なコスト(費用をかけて採用したのにすぐに辞めてしまうなど)を抑えられるのもメリットとしてあげられるでしょう。

 条件だけで入社を選んだ人材は、より良い条件の会社を見たときに心が動き転職してしまう場合がありますが、理念に深く共感した人材は離職率も低いからです。

社員のパフォーマンスの底上げにつながる

 インナーブランディングにより、社員が、その都度指示をすることなく、会社の理念に沿った発想を生んだり行動を取ったりできるようになるのもメリットです。

 経営者やベテラン社員が、会社のストーリーや大事にしている部分を語れるのは当たり前ですが、インナーブランディングでは入社前や若手社員へも啓蒙していくため、会社全体の底上げに繋がります。

 基本的にはインナーブランディングに取り組むことは素晴らしいことですし、中小企業にはぜひ取り組んでいただきたいのですが、デメリットもなくはありません。

 具体的には、次の点です。

  1. やり抜かないと効果がない
  2. 様々なコストがかかる
  3. 既存社員とのズレが生じる場合がある 

やり抜かないと効果がない

 インナーブランディングはとても泥臭く地味な取り組みです。理念を決めただけでは効果はでません。

 日々の本業に取り組みながら進めることは簡単ではなく、浸透するまでに頓挫してしまうことも少なくありません。

様々なコストがかかる

 インナーブランディングでは、自社の価値や存在意義を、会社全体にいかに浸透させるかがポイントになります。しかし、そのためには、さまざまなコストがかかることに注意しなければいけません。

 例えば、浸透のために繰り返し行う打ち合わせにかかる人的コスト、デザイン物などのリニューアルにかかる制作コストなどです。

 会社によっては、専門のコンサルタントの費用もそこに加わるでしょう。

既存社員とのズレが生じる場合がある

 インナーブランディングを始めるタイミングで、居心地がよくなくなる社員が生まれる可能性があります。

 特に、これまでは自分の思うままに行動してきたベテラン社員などが、新たな行動指針に反発心を持ったり、これまでの自分のスタイルを否定された感覚に陥ってしまうことなどがあります。

 インナーブランディングは、地味な取り組みであるため、いかなる状況においても頭の片隅に入れながら実行していくことが求められます。

 また、場合によっては、既存社員とのズレについても考えながら進めなければいけません。

 そのため、インナーブランディングは、理念を言葉として押し付けるのではなく、いかに社員や内部ステークホルダーが、思わず理念に沿った思考行動したくなる環境を作れるかが鍵となります。

 そこで、おすすめなのが次の4つの方法です。

  1. 理念を考え、言葉にする
  2. ミーティングを継続する
  3. 環境を変え、浸透させる
  4. タッチポイントに理念を絡める 

 実際にどのように行えばいいのか、ご紹介しましょう。

 ブランディングでは、なぜその事業をするのか、どのようなことを成し遂げたいのか、どのように社会に貢献したいのか、このコアとなる部分を通し考え抜くことが必要です。

 よく、「●●業を通し社会に貢献します」という理念を目にしますが、これでは理念を見た社内のステークホルダーはどのように行動すればよいのかイマイチわかりません。

 誰が見ても、思いが伝わる、そんな思いを言語化することがインナーブランディングの第一歩です。

 最初から大企業のようなキャッチコピーを考えることをすると、中身よりも見栄えを気にしてしまうのでおすすめできません。

 コピーライティングをする前に要素を書き出し、自社のアイデンティティ加え、次のことを検討しましょう。

  • 顧客からどう思われたいのか
  • 社員からどう思われたいのか
  • 求職者からどう思われたいのか
  • 社会からどう思われたいのか

 その後、要素をまとめわかりやすいコピーにします。この作業では、経営層だけで決めるパターンと社員まで巻き込むパターンがあります。

 経営層で決めるパターンでは早いというメリットがありますが、言語化した際に現場社員との意識の開きが生じやすく、結果として現場のモチベーションが下がる可能性もあります。

 一方、社員まで巻き込むパターンでは、会社としての一体感が生まれますが、時間をさく必要がありコストもかかります。

 状況に合わせて、よりフィットする方で進めるのが良いでしょう。

 言語化された理念(ミッション・ビジョン・バリュー・パーパス・クレドなど)を社内浸透させるために定期的なミーティングを行うことも重要です。

 「クレドミーティング」などと称し、朝礼の時間にやることも良いでしょう。

 ここで気をつけたいのが、理念の唱和だけで終わらないことです。

 理念唱和をする企業は多いですが、大事なのは理念を暗唱できることではなく、行動や思考レベルで理念を体現することです。一字一句覚えていても実務レベルで実行できなければなんの意味もありません。

 そのため、ミーティングでは、理念の中身に対して考え、シェアする時間を作るのをおすすめします。

 例えば、「テキパキ行動する」というクレド(行動指針)があったとしましょう。そしたら3分間で次のことを話し合いましょう。

  • どうしたらテキパキ行動できるか
  • テキパキ行動してる同僚は誰か?なぜか?
  • テキパキしてるなと私生活で感じた経験はあるか?
  • 私生活でテキパキしていないことで不快になった経験はあるか?

 あとはリーダーがまとめて代表的な意見を全体の場で共有します。

 このようなクレドミーティングを定期的に行うことで、徐々に思考行動レベルで理念が浸透してきます。

 ところで、業務が忙しくなってくると、このクレドミーティングをスキップしたくなるときがやってきます。

 しかし、ここでやめてしまってはインナーブランディングはうまくいかないため、忙しい時も時間が短くても、理念に触れ、考えアウトプットする機会を作り続けることが大切です。

 唱和をして覚え込むことも大事なのですが、最も大事なのが環境や仕組みを変えて、理念に沿った思考行動を自然にできるようにすることです。

 例えば「すべての人との健康を支える」という理念の会社であれば、言葉で100回「すべての人の健康を支えよう!」というより、年に4回「うちの理念を考えると、まずは社員の健康が大事だから、ヨガをします」という取り組みをしたほうが、社内として自社が大事にしてることを体感しやすくなります。

 静かな美術館やお寺で騒ぐ人はあまりませんが、これは「静かに!」と口で言われているわけではなく、美術館やお寺が出す空気感そのものが、「静かにするべき」ということを感覚的に伝えているからです。

 理念浸透も同じで、口で言うだけでなく環境を変えていくことが大事です。

 ナポレオンは「人はその制服通りの人間になる」と言いました。普段スーツを着ない人がスーツを切ると背筋がぴしっとするように、私たち人間は環境に影響され行動を変えます。

 笑顔がテーマであれば、どうしたら笑顔になれるのかを考える、これこそがインナーブランディングの本質です。

 もちろん、人事考課などの評価基準に理念を体現できているかという項目を加えることも重要です。

 会社として「理念通りに働いている方は評価しますよ」というメッセージを送ることで、社員が何を優先すべきかひと目で伝えることができます。

 会社として売上も大事ですが、それよりも会社の看板として理念を体現した人材を評価することで会社として本当にこの理念を大切にしているんだという意思が伝わり、インナーブランディングを成功へと導きます。

 理念との単純接触回数を増やすことも、インナーブランディングをする上で必要不可欠な施策です。まず、社員と会社との接点を洗い出します。

  • 制服
  • 名刺
  • ピンバッジ
  • 営業車
  • オフィス(看板/エレベーター/トイレ/文房具...etc)

 この一つ一つの接点に、理念を絡めてみましょう。

 接点に理念を絡めるとは、単に文章として記載するだけではありません。

 例えば「地球環境を大事にする」という理念なら、名刺はエコな再生紙を使う、社員はタンブラーを使う、ユニフォームを古着にする、営業車を電気自動車にする、などがあげられます。

 また、「笑顔でいよう」という行動指針があるなら、トイレにクスッと笑える壁掛けカレンダーを設置する、名刺にもスマイルマークをつけるといった方法も有効です。

 ブランディングとは「なんとなく」をなくすことです。

 社内でのルールや備品を選ぶ際「なんとなく」で選んでるケースが多く見られます。決定する前に、一度理念に立ち返ることで、インナーブランディングが進むでしょう。

 また、これを継続できれば、社風に変わり、新人スタッフでさえも上司の指示なく自ら理念に沿った選択ができるようになっていきます。

 最後に、インナーブランディングに取り組む際に参考となる事例を2つご紹介します。

 とある美容室で採用に大きな課題を感じていました。私が関わったときには「理念」「社是」などはありましたがまったくと言っていいほど浸透しておらず、経営者だけが知っていて、現場の社員は全く知らない状態でした。

 ここで再度アイデンティティや思いを出し合い、会社の価値や理念を再定義することからインナーブランディングをはじめました。

 そこで言語化できた理念を軸に、全社キックオフミーティングや朝礼と絡めた定期的なクレドミーティングを通し徐々に浸透を図りました。

 その取組を就職説明会でも紹介した結果、学生からの反応がとても良く、ここ10年間で最も多くの学生を採用することができました。

 インナーブランディングは社内の底上げにもなりますが、何より採用に大きな力を発揮することを感じた事例です。

 とあるハウスメーカーでは、社員がどんどん増え、大組織となりましたが、これといった基準や理念がなく、思考や行動が社員によってバラバラでした。

 そこでインナーブランディングに取り組み、理念の言語化からスタートしました。

 浸透の施策としては定例のクレドミーティングに加え、理念に沿った評価システムの構築や、会議室に理念をデザインしたポスターを貼るなど、環境をどんどん変えていきました。

 その結果、社内アンケートで7割を超える社員が「行動基準が明確で、何をしたら良いのかわかりやすくて働きやすい」「会社の大事にしていることをすぐにお客様に伝えられるようになった」などと述べました。

 教育もこれまで担当によってぶれていた教育が統一され、教える方も教わる方も効率が良くなったという結果になりました。

 インナーブランディングに終わりはありません。いかなる時も理念を軸に思考し行動できる状態を作るには、継続した浸透が必要です。

 インナーブランディングがうまくいっている企業は離職率も低く、採用にも困りません。当然、売上に反映されてきます。すぐに結果は出ないものと思い、泥臭く着実にインナーブランディングを進めていくことをおすすめします。

 ところで、社員の制服を変えたり、名刺を変えたり、営業車のデザインを変えたりと、インナーブランディングのために理念を絡めていくことは、実はアウターブランディングの一環でもあります。

 なぜなら、制服も名刺も営業車も、社会やお客様との接点でもあるからです。

 現在、社内と社外の境目は小さくなってきているように感じます。

 とある企業では社員の帰属意識を高めるインナーブランディングの一環としてあえて一等地に看板広告を出しています。しかしこの場合、社員よりも一般人(顧客、社会)のほうがその看板を目にする機会は多いでしょう。

 つまり内向け、外向けで施策を変えるのではなく、会社に関わる全ての関係者(ステークホルダー)との接点において理念を考え反映させていくことが重要です。